第四章 宴の真相、神葬の剣 6 ―対峙―
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場所は東棟の最上階だ。
(黒壊闇好のマーカーが完全に止まった?)
闇好を見張っている参加者からのメールだ。レギュレーションの裏をかいて、エレナは芳三郎にサブのスマートフォンを他の参戦者達に配布させていた。交渉によってこういったラインも戦略として作られている。エレナは慎重に移動しつつ、常に気を配っていたマーカーの固定化に違和感を覚えた。
決勝圏内から滑り落ちた闇好の苦境は容易に想像できる。
万策尽きた――に、近い状況なのだろう。
「これで里央さえ確保しておいてくれたらね」
偵察に出していた芳三郎からの情報によると、里央は現在、芝祓ムサシと渚此花の手に落ちている。里央を取り戻せないのならば、わざわざリスクを払ってまで、こちらから闇好まで出向くメリットはない。気の毒だが、闇好はこのままタイムアップで予選敗退だ。
(リマッチは別にこのイベントでなくてもいいのだし)
ご愁傷様、黒壊闇好さん。
気持ちを切り替える。2位のランキングについては、里央を巡って羽賀地岳琉と芝祓ムサシが再戦する線が強い。双方がその気になっている。自分も芝祓ムサシから里央を取り戻したいが、優先権は岳琉にある状況だ。
『上位ランキングが入れ替わりましたっ♪』
ここにきて上位の変動か。
スマートフォンを確認すると――なんと芝祓ムサシが3位を撃破している。
これで2位が岳琉、3位がムサシ、4位がエレナとなった。
そして5位にはオルタナティヴが付けている。
闇好だけではなく他の上位陣は消耗が激しいのか、全体的に活動が鈍っている様相だ。試合数の伸びが極端に鈍化している。
すでに六割近くがリタイアしていた。
仮に予選内で2位の岳琉と3位のムサシが潰し合って、敗者がリタイアとなれば、繰り上がりでエレナが3位、オルタナティヴが4位となる。
残り時間も少なくなっていた。
未だに不明となっている1位を除く決勝ステージ進出者は、岳琉、ムサシ、エレナ、オルタナティヴに絞られたといっても過言ではないだろう。
(残り時間から考えても、本格的に闇好は詰みかもね)
しかし里央を確保していない闇好に用はない。このイベントは光葉一比古の秘密を暴くのが最重要目的なのだ。
一度完勝した岳琉にも興味は薄かった。
興味があるのは、《スキルキャスター》こと芝祓ムサシの方だ。
そして……
「ここで貴女に遭遇とはね」
聞き覚えのある声音。
オルタナティヴであった。
5位のオルタナティヴは自力で予選突破を決める為には、ここで4位のエレナを倒すのが最も手っ取り早い。
エレナは言った。
「2位と3位が潰し合うのは、ほぼ既定路線になっているわ。2位の羽賀地さんが3位の芝祓ムサシを倒せば、里央もこちら側に取り戻したも同然よ。逆の結果ならば、私達二人で光葉と芝祓を決勝ステージで倒すという選択肢も採れるわ」
この状況で自分とオルタナティヴが潰し合うメリットは皆無だ。
損得勘定で考えるのならば、岳琉とムサシの試合結果を待った方が、合理的に動ける。
「いいえ。芝祓ムサシと渚此花は、このアタシの獲物よ」
そして里央も取り返す、とオルタナティヴは宣言した。
退くつもりのないオルタナティヴに、エレナは攻撃的に鼻を鳴らした。
「協調路線は端からなかったわね」
「元はといえば、貴女が里央を浚ってアタシを巻き込んだのよ。お陰で芝祓ムサシと渚此花との機会を得られたけれど」
「予選ではぶつからなかったわね」
「意図してよ。状況から彼が予選で敗退する可能性は極めて低いわ」
「へえ? 随分と《スキルキャスター》を評価しているのね」
「実力だけじゃなくて、明らかに彼は光葉の駒だわ。彼は利用されている。おそらく光葉は不正を使ってでも芝祓ムサシを決勝ステージに押し上げてくるはず。そしてアタシも貴女が引き込まなくとも、光葉に誘い込まれていたでしょう」
「そういう事……ね」
エレナは考える。自分も一比古に誘い込まれた。だが、芝祓ムサシ云々についてはノータッチである。自分がMKランキングに参戦した契機は、アメリアのNYでランキング9位に売られた魔術戦闘を買ったからだ。
つまり……
(光葉一比古の本命は、私よりもオルタナティヴ?)
癪であるが、そう解釈する方が筋が通る。
プライドが疼くではないか。いつだって自分は勝者で、スポットライトを独占する主役だったのだから。それが、これではまるで脇役みたいだ。
「アタシをMKランキングに引き入れた責任として、決勝ステージへのチケット、貴女に支払って貰うわ」
ランキング4位を強奪する、とオルタナティヴは構えをとった。
むろんエレナとて、素直に道を譲る気などない。主役のスポットライトもだ。一比古の思惑通りの展開かもしれないが、オルタナティヴの引き立て役など――絶対に御免だ。
思えば、ブティックで踵落としをキャッチされてから、この魔術戦闘は運命だったのかもしれない。望むところだ。相手にとって不足はない。
エレナは随員の芳三郎を下がらせた。それは戦いを受けるという意思表示だ。
クスリ、と妖艶な笑みを溢すエレナ。
ニィ、と頬を釣り上げるオルタナティヴ。
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| ラグナロク・予選バトル |
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| ランキング4位 堂桜 エレナ |
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| VS |
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| ランキング5位 オルタナティヴ |
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予選バトルロイヤルも終盤、最終局面である。
状況からして、この屈指の好カードを制した勝者が、そのまま決勝ステージに進出だ。
決勝ステージ前のクライマックスともいえるバトルが開幕する――
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