第四章 宴の真相、神葬の剣 5 ―進捗―
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里央は今回の事件で、初めて不安と恐怖を感じていた。
エレナ、闇好、そして岳琉といった面々と比較すると、この二人はあまりに異質だ。
芝祓ムサシと渚此花。
(おかしい。この二人は、明らかに……おかしい)
小休憩(食事と水分補給も含む)を挟んで、ムサシは活動を再開した。KO寸前のダメージだったが、短期間で復活している。
ムサシは自分の状態を《ステータス・オープン》によるウィンドウから、HPやMP、そして肉体の各要素をステータス値として把握しているのだ。
ロイド戦と、闇好&岳琉戦では判らなかった事である。
確かにコンディションについての効率的な自己判断が可能ではあるが、ムサシは疑問に思わないのだろうか? エレナがこのヒントを知れば、きっと真相に辿り着く。里央にさえ、薄っすらとイメージできる。敵の本当の能力と使用エレメントは――
戦線復帰後、すでに二名を撃破していた。すなわち、それはムサシが更に〔スキル〕を増やした事を意味する。
現在地は本館の二十階だ。
「お二人って、どういう関係なんですか?」
思い切って此花に質問した。
此花が嬉しそうに答える。
「私とムサシちゃんは幼馴染みで恋人同士なんだ。大学卒業したら結婚する予定。ぅふふふ」
里央はムサシを見る。ムサシから否定の言葉は来なかった。
ムサシの異名――《スキルキャスター》。
魔術のみならず、技能や業まで〔スキル〕化して己に取り込んでいく独特の戦闘スタイルに、里央は芝祓ムサシの今回の事件におけるポジションと役割を理解し始めている。
(エレナさんだけではなく、岳琉くんも危険だって言っていた)
ムサシ自身は無自覚だ。
戦えば戦うほど敵から〔スキル〕を〔ラーニング〕して、強くなっていく異能者。
その在り方も、戦闘系魔術師とは異なっている。
狂気を感じていた。
イベントに隠れている真の敵にではない。
戦闘系魔術師に混じり、戦闘系魔術師を食らいながら強くなっていく芝祓ムサシという存在を、里央は畏れているのである。
そして、もう一人。
「ムサシちゃん、ムサシちゃん。新しい獲物だよ♪」
嬉々として彼をけしかける此花という女も、不気味に感じていた。
頭上が寂しい。危害を加えられないと理解していても、怖い。
こんなにも心細いなんて……
(助けて、岳琉くん)
里央が救いを求めたのは、エレナではなく、岳琉であった。
…
「此処が『ラグナロク』とやらの舞台ね……」
みみ架はマンションの玄関前に立っていた。
堂桜に手を回して送迎用のハイヤーを手配して貰い、此処まで来た。
場所は《ワイズワード》が示してくれた。この場に、このタイミングで赴く意味。おそらく偶然は一切ないだろう。
本来ならば、MKランキングの参戦者でもなければ、イベント『ラグナロク』からの招待状もない立場だ。
しかし、みみ架には関係なかった。
「罠だろうと、妨害があろうと、実力行使で押して参るだけだわ」
部外者だろうと、構わずに殴り込む。
そして、落とし前をキッチリとつけるのだ。
両足の状態はまだまだ思わしくない。骨折している肋骨も。それに右拳は使えないのだ。しかし関係なかった。
幸い【結界】によるセキュリティーは感知できない。
みみ架はマンション内に、颯爽と踏み入った。
…
全勝無敗のランキング2位――黒壊闇好の陥落は、衝撃をもってMKランキング内を駆け回っていた。
闇好VS岳琉VSムサシという変則的な乱戦での敗戦であったが、それでも闇好が負けた事に変わりはない。闇好が余力を残した中での、ストップ負けであってもだ。
奪うべきランキングさえ消失した闇好は、他の参加者にとって、最早、関わるべき相手ではなかった。
マンション内を彷徨いながら、闇好は途方に暮れていた。
「参った。時間内に4位以内を倒さないと……」
苦渋に満ちた声を漏らす。
こんな展開は想像もしていなかった。
戦いを仕掛けようにも、対戦相手が皆、逃げるのだ。完全に2位というランキングに胡座をかいて、油断していた。その油断が試合ストップによるTKO負けに繋がったのだ。
弱気が闇好を襲っている。
このままでは予選敗退になってしまう。試合でのTKO敗けどころでなく、本当の意味での敗北だ。それは許されないのである。奪おうとしている名に賭けて。
バトルロイヤル形式での予選を、甘く見ていたツケだ。
焦りを隠せない。ランキングだけではなく、里央まで奪われてしまった。どうする……、どうする……、どうすれば……
『随分とお困りのご様子でっすね♪』
勝手にスマートフォンが起動して、ナビゲートアプリのキャラが話し掛けてきた。
怪訝な表情になる闇好。
「どういう事かな?」
『このままだとランク落ちしたままタイムアップになりかねないから、ちょっとだけアドバイスを送ろうかな、なぁんて♪』
ルールの裏に気が付くんだよ、とマスコットキャラが笑いかけた。
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