アニメを斬る!

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魔導世界の不適合者 ~魔術学科の劣等生~ 第2部(第29話)

第四章  破壊と再生 2 ―ルシアVS優樹①―

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         2

 使用エレメントは【風】である。
 優樹は女子用制服の上をコーティングするかのように、疾風の衣装を纏う。
 その衣装はさながらウェディングドレスか、あるいは死に装束か。
 これが優樹の戦闘用魔術の【基本形態】――その名は《サイクロン・ドレス》だ。
 背後では、那々呼の入った大型キャリーバッグを守りながらロイドも魔術を起動させている。
 ルシアは微かに両目を眇めた。

 魔術戦闘の幕が上がる――

 ビスクドールのような可憐な外見から、圧倒的な威圧感が暴力的に押し寄せる。
 ごくん。優樹は小さく喉を鳴らした。
 いつの間にか、カラカラに乾いていた。
 死を覚悟しているはずなのに――こんなにも恐い。
 二対一だが、全く優位性を感じない。
 彼女が率いる【ブラッディ・キャット】の戦闘系魔術師ソーサラーとは、明らかに格が違っている。
 彼女達は確かに強かったが、こんな威容ともいえる恐怖感は覚えなかった。
 ケイネスに見せられた、ルシアの魔術と挙動が脳裏に蘇る。
(本当に勝てるの? 本当にこの化け物に――!?)
 敵対が不可避となった麗容のメイド少女を見据え、優樹は自信なさげに自問自答した。
 そっと手を当て、スカートのポケットの中にあるアンプルの感触を確かめた。

         ◆

 ケイネスの要求に屈した優樹の隣に、別の席から様子を窺っていたロイドが座った。
 ロイドと一緒にいたミランダは、ケイネスの隣に移る。
「合意に至ったという事で、作戦の概要から話し始めましょうか」

 ――堂桜那々呼を強奪する。

 存在自体が厳重に外部に対して秘匿されていた彼女の在処が、優樹の右手という餌によってケイネスに知れる事となった。
 ケイネスという経歴不明の女科学者は、どうしてか那々呼の存在を知っていた。
 そして那々呼との面会を強く望んでいた。
 彼女の言葉を信じるのならば、決して那々呼に危害を加えないという。
 むろん優樹は信じていないが。
 説明を一通り聞き終えて、優樹は不安げに言った。
「そんな作戦で上手くいくの?」
「失敗したのならば、それで計画は延期して、リトライするわ。所在が知られていなかったという事は、すなわち堂桜那々呼の護衛部隊は間違いなく防衛戦としては初実戦になるでしょうし、その初実戦に対しての対応データが取れるというだけで大いに意義はあるわ」
「にしても、いくら油断を誘えるかもしれないからって、ボクとロイドだけだなんて……」
「相手も決して大部隊ではない。だからこちらも少数精鋭よ。それに一個部隊で空襲なんてかけても、そちらの方が失敗するでしょうしね。そういった想定可能なケースに対しては、充分な実戦経験を積んでいるので、逆に迅速かつ的確に対応するでしょうね」
 あくまでルシアと那々呼の知人として堂々と正面から乗り込むのが重要だと、ケイネスは再度、念を押した。
 それでも優樹の不安は晴れない。
「ボクは比良栄の嫡子として【ソーサラー】としての高度な教育を受けて鍛錬してきた。右手のチカラだってある。けど……本当に堂桜財閥の特殊部隊と戦えるのかというと、プロの戦闘系魔術師ソーサラーのロイドはともかく、正直いって自信ないよ」
「意外ね。貴女が喧嘩を買った楯四万締里だってプロの特殊工作員よ。あの子の異名――《究極の戦闘少女》を知らなかったワケじゃないでしょう?」
「あの時は……、彼女がベストには程遠いって分かっていたし。次はないよ」
 正直いって勝ち負けよりも、意地だった。
 むしろ敗北した方が、統護に取り入るには有利だったろう。
「ベストコンディションなら戦わなかった? 私はそうは思わないけれど」
 ケイネスは楽しげな顔になると、ノート型PCをコートの内ポケットから取り出した。
 そしてモニタに動画を再生させると、優樹へと向ける。
「これを見なさい」

 モニタ内では――黒髪黒マントの少女と革ジャンを羽織った大柄な青年が戦っている。

 優樹は眉をひそめた。
 魔術戦闘ではなく、二人とも肉弾戦を行っている。
 ただし並の肉弾戦ではなく、両者共に常人の域を遥かに超えた身体性能をみせていた。
「要するに、もっと投薬してパワーアップしろって意味?」
 定期摂取している、サイバネティクス化した右手の拒絶反応を抑える薬には、右手の性能に振り回されない為の身体機能強化(違法ドーピング)効能も含まれていた。今のところ副作用の自覚はないが、いつまでも健康体でいられるとは思っていない。
 優樹は強気に言った。
「いいよ。もっとクスリの量を増やせば、こんな風にボクもなれるんでしょう?」
 画面内で拳を交えている二人は、もはや人間とは思えなかった。
 けれども、これだけの強さならば、きっと――
 右手の手術の際、心臓に埋め込ませてもらった、と脅された爆弾を思い出す。むろん爆弾の存在に屈したのではない。いっそ自決できればマシといった状況なのだから。
 もう死は――恐くない。
 恐いのは、弟と弟の未来を守れない事だけだ。
 ケイネスは首を横に振った。
「結論を先走らないで。とりあえず説明させて欲しいわね、お嬢さん。まず大柄で下品な男の名は、乱条らんじょう業司朗ごうしろうちょっとした縁があって、この私が彼にサイバネティクス化を施したの。当時としては最先端の技術を投入したわ。現状では、お嬢さんの右手に比べると随分と旧式といったところかしら」
「まさか……。心臓の爆弾だけじゃなく、ボクにも全身サイバネティクス化を?」
 身を竦めた優樹を、ケイネスは窘める。
「先走らないでと言ったでしょう。私は近い将来的に【魔導機術】に替わる『とある研究』を秘密裏に進めているのだけれど、サイバネティクス化という選択肢は早々に慮外したわ」
「じゃあ、やっぱりドーピング?」
「いいえ。そちらの研究も行っているけれど、最適解ではないと結論した」
 ケイネスは黒マントの少女を指さした。
「私が求めている正解に近いのは、むしろこの子かしらね。この少女は、オルタナティヴと名乗っている新人の『何でも屋』よ。彼女もご覧の通りに驚異的な身体機能を誇っているけれど、回収されている髪の毛などの解析から、サイバネティクス化も違法ドーピングも認められていないわ」
「それなら、魔術のリソースを身体強化のみに振り分けているの?」
 そうだと仮定しても、これだけの超人ぶりだと、相当な魔力総量と意識容量を必要とする。それに全リソースを身体強化に注いでも、ここまで身体機能が向上するなど聞いた事がない。
「そうじゃないわ。ほら、見なさい――」
 画面内の肉弾戦に決着がついた。
 オルタナティヴが業司朗を豪快なフライング・ニールキックでノックダウンさせた。
 しかし戦いは、第二ラウンドの魔術戦闘へと突入する。
 業司朗の攻撃魔術の前に、オルタナティヴは防戦一方に追い込まれていく。
「え? この子って魔術を使えないの」
 従って魔術による身体強化という線は消えた。
「そうよ。つまり彼女の超人的身体能力は推測するに、一種のDNAブーステッドというところかしら」
「貴女が行っている研究って、まさか遺伝子強化?」
 DNAを書き換える事によって人為的に引き起こす才能・身体強化は、禁断の研究として、違法ドーピングやサイバネティクス化よりも厳重に取り締まられている。
 人クローンの研究も同様だ。
 ケイネスは首を横に振って否定した。
「医療面――遺伝子病の克服や遺伝子治療ではともかく、DNAブーステッドはバイオハザードを起こすリスクと、なによりも遺伝子を書き換えても、得られる効果は個人差が激しすぎてとても量産には向かないと私は結論したわ。試算では、オルタナティヴと同等の身体機能を与えるDNAブーステッドが成功する確率は、実に八百万人に一人以下よ。それも献体に適性があるという前提条件で。ちなみにDNAブーステッドによる身体強化に適性のあるDNA配列を持つ者は、多く見積もっても七千人に一人かしら」
「ええと……つまり?」
 優樹は困り顔というか、半笑いになった。
 どれだけの低確率なのか、聞いただけでは想像できない。
「確率論で語るのがバカらしくなる『夢の強化技術』ってオチよ。要するにあの子は、DNAブーステッドではないって事。その程度は、DNAブーステッドが成功したのではないか、と彼女を観測していた数多の研究機関、研究者達も早々に結論づけたわ。――ほら、見なさい」
 絶体絶命のところまで追い込まれたオルタナティヴに、救いの使者がやってきた。
 メイド服を着た少女――ルシアであった。
 彼女が業司朗相手に披露した、謎の魔術に優樹は戦慄した。
 そして局面は動く。
 ルシアに指輪型【DVIS】を手渡されたオルタナティヴは【魔導機術】を立ち上げた。
 その戦闘用魔術の【基本形態】に、優樹は目を見開く。
「なんで? これって《ファイブスター・フェイズ》じゃないか……ッ!!」
 基本となる四大エレメント――『地・水・火・風』を、一つの【基本形態】によって、自在に切り替える天才的な魔術だ。
「だってこれって」
「そう。かつての堂桜統護が使っていた魔術よ。今の堂桜統護は魔術すら使えないけど」
 どういう事なんだ、と優樹は首を傾げた。
 よく見ると、少女の貌はどことなく統護に似ている。
 この黒マントの少女と、統護はいったいどういう関係なのだろうか。
「――画像はここまで」
 ケイネスはノート型PCを畳んでしまった。
 いい場面でお預けを食った形になった優樹は、不満げに訊いた。
「結局どっちが勝ったの?」
「ミッションに成功したら続きを観せてあげるわ」
「じゃあ、つまりオルタナティヴって子は、実用不可能と結論されているDNAブーステッドでないのなら、どうやって強化されたの?」
「いくつかの仮説は立てているけれど……、堂桜統護の超人化と同じく人為的な再現は不可能に近いでしょうね。よって私は別のアプローチで人を進化させる研究を始めているの」
 その言葉と自分を見るケイネスの目に――嫌な予感がした。
 そして先に言っていた、近い将来的に【魔導機術】に替わる『とある研究』だと分かった。
 優樹の心拍数が上がっていく。
「もったいぶらないでよ。長々と余計なモノを見せてさ」

「ルシアの情報と、既存の人体強化方法の復習は無駄ではないわ。何故ならば、貴女に施した人体強化方法は従来のどれとも異なるのだから――」

「え」と、優樹は目を丸くした。
「理解したかしら? 貴女の挙動は違法ドーピングによるものじゃないのよ。そもそも貴女の右手は拒絶反応が起こるような安い代物じゃないから」
 優樹の顔が恐怖で固まった。
 ならば、自分がケイネスの指示で定期的に注射していたアンプルの中身は――?
 薬でないのならば、あの液体はいったい?
 血の気が引いて青ざめる優樹。
 カタカタと全身が震えだした優樹に、ケイネスは誇らしげに告げる。
「それとね。私が【HEH】に接触した本当の理由は、実は貴女なのよ優樹ちゃん。私が検索した膨大な生体データにおいて、第一次献体に貴女は最も適していたから」
「ボ、ボ、ボクにいったい何をしたの?」
「超人よ。薬物投与のような副作用がなく、DNAブーステッドのような不確実性を排除し、そしてサイバネティクス化のような外科手術やメンテナンスを必要としない――最も効率的で最も効果的な、人類の新しい進化のカタチ。その第一次献体が貴女ってわけ」
 これが最後のアンプルよ、とケイネスは小指大のガラスケースを優樹の前に転がす。
 貴女がどこまで戦えるかとても興味深い実験になるわ、とケイネスは嗤った。

 

 

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