第三章 終わりへのカウントダウン 3 ―疑念―
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優樹は午前中、ずっと父親へメールを送信し続けた。
内容は【ネオジャパン=エルメ・サイア】と名乗ったテロリストが使用した【パワードスーツ】と【結界】を破った小型爆弾についての問い合わせだ。
しかし返信はたったの一通。
[ お前には関係ない話だ。我が社の関与などありえない。自分の任務に専念しろ ]
これだけであった。
励ましも、労いも、心配も――一切の情が感じられない文面である。
予想はしていたが落胆がゼロ、というわけでもない。
インターネットだけでなく、この【聖イビリアル学園】内も例の《結界破りの爆弾》で話題が持ちきりになっていた。
すっかり転校生である自分は関心を持っていかれた格好だが、今はありがたい。
(きっと父さんはあの女――ケイネスに騙されている)
優樹の右手を《デヴァイスクラッシャー》にした怪しげな女科学者。
場合によっては、右手の秘密を統護に打ち明けて、ケイネスに敵対するという選択肢も視野にいれなければならない。【HEH】がテロに与するような事があってはならない。
弟の未来の為にも。
だが《結界破りの爆弾》の爆発の様子は、実験段階から何度も繰り返し見た自分の《デヴァイスクラッシャー》のそれと、特徴が酷似している。偶然であるはずがない。
昼休みになり、優樹は屋上へと向かった。むろん無許可での侵入だ。
統護は勿論のこと、今度は他の誰にも気が付かれていない。
屋上にはロイドが待っていた。ドアは彼が解錠した。
「どうだ? ケイネスの居場所は判明した?」
「ミランダと連絡が取れましたが、どうやら関東地区に出張という形で出向いている模様です。しばらくはこちらに滞在する予定だとか」
「詳細な予定や滞在場所は?」
ロイドは首を横に振った。
「執事仲間とはいえ、主に対しての守秘義務は絶対です。逆にいえばミランダがDr.ケイネスの関東遠征を教えてくれたという事は、それがDr.ケイネスにとって不利益とはならないからに過ぎません」
その返答に、優樹はニヤリとなる。
「そっか。つまりは場合によってはボクから直接会いに行けるように――って解釈も成り立つってわけか」
ロイドが首を縦に振った。
優樹は決意する。
「……じゃあさ。ミランダさんにアポイントの打診、してみてよ」
理由付けは右手の調子が悪いからでいいからさ、と優樹は付け加えた。
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…
午前中ずっと、優樹の様子がおかしかった。
統護は気が付いていたが、今はそっとしておこうと決めていた。
おそらく例の《結界破りの爆弾》――マスコミ命名――が原因だろう。
今朝の速報ニュースを見てから、優樹の様子が劇的に変化していたのだから、原因は瞭然といっていい。
みみ架からの定時報告が入った。
今のところ締里は問題なく寝入っているという。みみ架に《結界破りの爆弾》について話題を振ると、『爆弾と見せかけたトリックだと推理している』という返信がきた。
当時に『比良栄さんの右手のカラクリと、実は表裏一体のタネかもしれない』とも。
統護は教えてくれと意気込んで催促した――が。
[ 自分で考えなさい ]
冷淡に突っぱねられてしまい、統護は苦笑いするしかなかった。
「どうしたの? 統護。変な顔してるよ」
そんな統護に、教室に戻ってきた優樹が話し掛けてきた。まだ午後の授業開始まで五分ほどの余裕がある。
「いや、なんでもないよ。それよりも……」
「なに?」
「今日の放課後、ちょいと俺に付き合ってくれないか?」
その台詞に優樹は頬を染める。
「え? どういう事?」
「とっておきのデートスポットを教えてやるよ」
「~~っ! ッ!!」
目を白黒させた優樹に、統護は意味ありげにウィンクしてみせた。
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