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魔導世界の不適合者 ~魔術学科の劣等生~ 第1部(第51話)

第四章  解放されし真のチカラ 15 ―《聖剣》エリス―

 

         15

「はぁい♪ 連絡を待っていたわよ、堂桜統護」
 フレアは着信に応じたスマートフォンを肩と首の間に挟んで、ステアリングから手を離さなかった。アクセルを踏み込む。アリーシアが頬を引き攣らせる。フェラーリは更に加速した。
『忙しいから前置きを省く。悪いが確認したい事がある』
「ボンクラ王子ならば、裏切り者が連れて逃げたわよ。もうどうでもいいわ」
 フレアは先回りして教えた。
 口調からして自分が【エルメ・サイア】の幹部と気が付いている様子だが、気が付いていなくても、遠からず関係者の一人として連絡がくるのは分かっていた。
『やっぱりアンタが敵か』
「イエス。そしてアリーシア姫は隣にいるわ。ワタシに騙されている堂桜栄護にコンタクトをとるのは、姫様の美しいご尊顔に一生モノの醜い疵をつけたくなければ自重しなさい。その代わりといってはなんだけれど……ワタシ達は今から空港に向かうと保証する」
 ブラフではなく、ニホンへの密入国ルートも、ニホンからの脱出ルートも他にはない。
 だからシンプルに自分達だけで決着をつけようと、フレアは提案した。

「統護! 来てはダメ!!」

 フレアにとっておあつらえむきに、アリーシアが懸命に叫ぶ。
「無理よ、彼女には勝てないわ!」
「聞こえたかしら? 素敵な騎士サマ。アリーシア姫は無事よ」
 電話先から統護の静かな怒りが伝わってくる。
『信用しているよ。こっちも選択肢はないけど、そっちだって小細工かます余裕はないだろ』
 くっくっくっ、とフレアは喉を鳴らした。
「ところが一つだけ小細工をさせてもらったわ」
『なに』
 通話先の口調が一変するのを、フレアは楽しむ。
「ボンクラ王子を連れて逃げたのは、楯四万締里じゃないのよね、これが」
 通話先から大きく息を飲む気配が伝わってきて、フレアは頬を歪める。
 思い至った様子に嬉しくなった。
「そういう事よ。楯四万締里はそちらにとっての切り札どころか、ワタシが楽しむ為の駒となっている状態だから」
 フレアはゲームを説明した。
 都内五箇所に、締里と締里のダミーを拘束していると。
 そして、タイムリミット一時間で締里の命は小型爆弾によって吹き飛ぶ。
『テメエ……』と、統護が唸った。
 隣のアリーシアも愕然となっている。
「怒らないで。彼女に仕掛けた爆弾はスイッチ一つで解除可能だし、運搬させた【黒服】達はワタシのコネで依頼した、王子が雇ったのとは別部隊よ。本来は最後の保険だったんだけどね。で、楯四万締里は五体満足だし、貞操も保証しましょう。お姫様の機嫌を不必要に損ねたくないのでね。五箇所の位置だって一時間あれば充分に到達可能よ」
 フレアはメールで地図を転送した。
「フェイクを疑ってもいいけれども時間の無駄。そちらの情報網も優秀でしょうから、すぐに特定できるでしょうが、繰り返すけれど時間の無駄になるわ」
『何が目的だ?』
「ゲームというほど大層なものじゃないわ。五箇所って意味わかる?」
『……』
「貴方に、堂桜淡雪。そして《アイスドール》。ご友人の生徒会長。最後に裏切り者。ああ、裏切り者ならルシアから連絡が付くでしょう。で、全員で五名」
 この五名ならばフリーパスで締里を引き渡す様、【ブラック・メンズ】に指示している。
 逆に、この五名以外ならば【ブラック・メンズ】との戦闘になるばかりか、人質である締里を殺す様に命じた。そう統護を脅迫する。
「ああ、ルシアの子飼い――【ブラッディ・キャット】も禁止させて貰うわね」
 フレアは声をあげて嗤った。
「楯四万締里を確実に救出したければ、誰も此処には来られない。反対に楯四万締里を見棄てれば、なんと五名も此処に来られる! ――さあ、貴方はどうする?」
 特殊な状況だけに、第三者に救出を依頼するのは不可能だ。
 依頼されても確実に【ブラック・メンズ】と命懸けで戦わなければならない。

「じゃ、空港で待っているわ。くくくくく」

 それを最後のメッセージとして、フレアはスマートフォンを車外に放り棄てた。
「どうしてこんな真似を?」
 怒りの視線を向けるアリーシアに、フレアは上機嫌で教える。
「もちろんワタシが楽しむ為よ」
 アリーシアの眉間に皺が寄った。
 確認手段はないが、フレアのリアクションは【エルメ・サイア】も察知しているはずだ。ならば、各陣営の上層部での折衝交渉が進むことは容易に想定できる。
 よってフレアの役割はアリーシア姫を伴っての一刻も早いニホン脱出となるのだ。
 幹部の一角であるフレアは知っている。
 これから先、【エルメ・サイア】によって、このニホンを舞台とした世界の革命が起こるという事を。彼女の役割は、アリーシア姫の件以外に、その先兵と偵察でもあったのだ。
 今回の事件は、ほんの序章に過ぎない――
「栄護によると、ルシアは別にして堂桜統護と堂桜淡雪以外、誰も動いている気配がないわ。つまり、今回の件については『それ』が交渉結果という事でしょう。けれど、ただ単に貴女様を飛行機にエスコートするだけじゃワタシが楽しめないから、ちょっとしたゲームを仕掛けたというだけ」
 アリーシアに対する人質として、そしてフレアのゲームの駒として、締里は有効活用した。
 再びドリフトを敢行した。
 先ほどよりもガードレールが助手席に迫る。
 しかし期待した悲鳴は聞こえなかった。車の体勢を立て直し、加速を緩めた。
 フン、とフレアは鼻息を吐く。
 視線をやった助手席のアリーシアの顔は、冷め切っていた。
「……ねえ、アリーシア様。ひとつ賭けをしませんか?」
「賭け?」
「そうよ。これから生まれる死体の数を当てっこしません? 最大で五。最小でゼロ。死体が生まれる場所はこれから向かう空港です。……さあ、いくつ?」
 アリーシアは答えなかった。
 フレアは満足げにほくそ笑む。その表情、傑作だ。ドリフトの時の鬱憤が晴れた。
 しかし答えはいくつだろうか。
 できれば全員で来て欲しい、と願うが、さあ、果たして誰がやってくるのか。
 どの確率で締里を救いに向かい、どの戦力で自分を止めに来るか。
 この想像を楽しむ為のゲームであった。
 おそらくは――最大戦力一名か二名をこちらに向け、五分の三か五分の四の確率で救出に向かうだろう。
 果たして、やってくるのは堂桜淡雪か、ルシア・A・吹雪野か。
 特に堂桜淡雪。彼女と戦えるかもしれないから、ニホンに来るのを楽しみにしていたのだ。正直いって《ファーザー》の回りくどいやり方にはうんざりしている。
 自分は戦闘を楽しめれば、それでいいのだ。
 単純にそれだけの為に《ファーザー》に従い、【エルメ・サイア】に付き合っている。別に忠誠など誓っていない。用が無くなれば組織を去るだけだ。
 学校屋上の時のような茶番ではなく、封印解除した本当の淡雪と戦いたい。
 ストレスが溜まる任務であった。夜伽の相手を要求してくるのを断る度に、あのバカ王子を殺したい衝動に襲われた。何しろフレアがベッドを共にした男は、全て事後に殺しているのだから。流石に情事後に惨殺してしまっては、自分の立場が追い込まれる。我慢は限界だ。締里を半殺しにした程度ではスッキリできない。
 存分に暴れたかった。

         …

 すでに朝になっていた。
 天候は絶好のフライト日和だ。
 堂桜一族管轄下のシークレット発着場に、フレアとアリーシアは着いていた。
 シークレットとはいっても充分に広大だ。VTOLや小型ステルス機の運用場所としては、むしろ広過ぎるくらいだろう。
 出迎えスタッフの姿が見えない。
 ステルス機にパイロットは搭乗しているのだろうが、他の人員は姿を見せていない。
 つまり、そういう事だ。
 足を止めたフレアとアリーシアは視線を巡らせる。
 彼女たちが歩いてきた道を、一人の人物が追って歩いていた。
 アリーシアは一瞬だけ笑顔になるが、すぐに険しい表情へと改めた。
 フレアは拍子抜けした、と首を竦める。

「――来たのはお前一人か、《デヴァイスクラッシャー》」

 八割の確率で締里を救う事を選んだか。
 情報は【ブラック・メンズ】から聞いていた。映像データはないが口伝で充分だ。
 彼は超人的な肉体能力と、それに相応しい格闘技能、及び【DVIS】を破壊できる特異的な魔力をもっている。
 嘆息が漏れる。つまらなかった。
 その程度では自分の敵ではないのにと、フレアは落胆する。
 戦力的に堂桜淡雪かルシア・A・吹雪野が来るのを期待していたが、よりにもよってこんな雑魚がくるとは――完全にゲームが裏目に出てしまった。
 ゆっくりと歩み寄ってくる統護は笑顔でアリーシアに言った。
「待たせたな。約束を守りに来たぜ」
「どうして来たの! 締里は?」
「安心しろって。五箇所全部にちゃんと助けに向かっているから」
 その言葉にフレアは薄笑いで首を傾げた。
「はあ? 何を言っているの貴方」
 五マイナス一は、=四であり、五箇所全部は同時に向かえない。
 統護は誇らしげに言う。
「淡雪にルシア。会長だろ。そしてオルタナティヴ。残りは――」

         …

 時間差で向かう様に指示を受けたエリスは、一番最後に赴いた。
 解析結果によると最も当たりの低い場所だ。
 他の場所で締里が救出されているであろうタイミングで、エリスは突入する。
 都内ギリギリの外れに位置している廃工場。
 仮に締里が拘束されていたのならば、締里を殺される前に、一撃を以て【黒服】全員を倒す必要があった。そしてエリスにはその手段がある。
 中世の騎士めいた正装に身を包んでいるエリスは、完全に本気モードだ。
 結い上げた金髪に白銀の鎧。兜は着けていない。
 アリーシア救出について、統護に先を許したばかりか、借りまで作ってしまった己を恥じている。屈辱であった。本来ならば自分がフレアを斃してアリーシアを救う筈だったのに。
 この怒り、賊にぶつけて憂さ晴らしさせてもらろう。
 視界を巡らせる。締里はいない。期待通りに『外れ』だ。
 突入を止め、仁王立ちになる。
(奇襲をしなくて済んだか)
 堂々と騎士らしく相手を受けて立てる、とエリスは笑んだ。
 死角から次々と襲い掛かってくる【ブラック・メンズ】の面々。全員で七名。ルール違反の見せしめも兼ねて、容赦なくエリスを殺しに来ている。七対一という戦力差。
 一度に掛かってくるのならば、丁度良い。

 エリスは【基本形態】――《エクスカリバー》を起動させる。

 顕現したのは黄金の大剣。
 その剣を地面から引き抜き、エリスは逆袈裟懸けに構えた。
「見せてやろう。我が聖剣の一撃を」
 豪奢かつ艶美な刃から眩いばかりの黄金の【光】が煌めきを放つ。
 使用エレメントは【光】であり、その魔術特性は……
 魔術オペレーションにより【コマンド】は入力済みである。発動する最大魔術は『約束された勝利の栄光』――《ウィニング・オブ・グローリー》。
 敵全員がエリスの剣を警戒した。
 黄金の騎士と畏怖される《聖剣》エリス。その二つ名と高名こそ、罠なのに。フェイクに騙されている時点で、すでに勝負はついているのだ。
 敵の攻撃魔術がくる。複数のエレメントに、協力しての複合魔術まで。
 黄金の大剣を振り下ろすエリス。
 叫ばれる【ワード】。

 ――豪快な一振りに伴い、レーザービームめいた砲撃が発射された。

 真正面からの大砲撃のみならず、四方八方から砲撃が踊る。
 正真正銘のオールレンジ攻撃。
 それは魔術的にはあり得ない光景だった。何故ならば、オールレンジ砲撃の発射台・発射口となる基点や、その基点がない場合に展開される砲台用【魔方陣】が無いのだから。
 無からいきなりの砲撃が生じたのだ。それも様々な位置と角度から。加えて、誰一人として魔術サーチできなかった。剣閃から射出された筈である正面の大砲撃すら。
 乱舞する【光】の砲撃。
 敵の攻撃魔術や防御魔術を容赦なく蹴散らす。
 呆気なく砲撃の雨を浴びて【黒服】達は無残に墜ちていく。
 まさに圧倒的の一言に尽きる。正々堂々とした迎撃の筈なのに、魔術的には完全な不意打ちという矛盾。それが『約束された勝利の栄光ウィニング・オブ・グローリー』の脅威だ。
 光の瀑布が止んだ後に残されているのは、倒れ臥している男達。
 全員が失神している――のではなく、一人だけ辛うじて意識を繋いでいた。
 恨みがましい声をエリスに向ける。
「な、何が騎士だ。お前のその剣、騙し手、インチキじゃねえか」
 エリスは平然と答えた。
「おや、気が付きましたか、我が《カリバーン》に。大したものです」
 すなわち《エクスカリバー》のタイプと真の魔術特性もだ。
 一撃でカラクリを看破するとは、この男だけ他者より一段上の実力だった様である。
「別に手品のタネを見破られようと、私の《エクスカリバー》は破れません。仮に砲撃が破られようと、我が剣技の前には誰も勝てませんけど」
 ゴト、ン。額が床を叩く鈍音。
 文句を言い終えた彼は、それで力尽きて意識を失った。
「後始末は《アイスドール》に任せるとしよう」
 エリスは踵を返し、戦場に背を向けた。

         …

 エリスの参戦を聞き、アリーシアが笑顔になる。
 びしゃ! 統護の台詞に、フレアは乱暴に唾を吐き捨てた。双眸が充血していく。額に血管が浮き出た。
 ムカつく。かのエリスエリスが単身でニホンに来ていたとは。こんな怒りは久方ぶりだ。知ってさえいれば、《聖剣》エリスと一戦交える事が出来たかもしれなかったのに。
 ルージュの鮮やかな朱ラインが禍々しく歪む。
 殺す……。絶対に殺してやる。
 楽には死なせない。八つ裂きにするのだ。
「お前。死ぬの決定だわ。たとえ姫様の友人だろうと、生かしておかない」
「そうかよ」
 統護はフレアの赫怒を涼しげに受け止めた。

 

 

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