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魔導世界の不適合者 ~魔術学科の劣等生~ 第1部(第37話)

第四章  解放されし真のチカラ 1 ―裏切り―

 

         1

 ――〝お前は『ただ一つの存在』という奇蹟なんだよ〟――

 それは、本来の兄――堂桜統護が姿を消す前に淡雪が見た、最後の姿だった。
 振り返って思えば、全てに惜別するような悲しそうな姿であった。
 兄は妹(自分)によく洋服をプレゼントしていた。
 淡雪は堂桜財閥の令嬢として服やアクセサリーに不自由などしない。好んで着物を普段着にしているが、著名なデザイナーが彼女の為だけにデザインし、彼女の為だけに縫製したオリジナルの服を送ってきたりもする。年間で五十着以上、勝手に増えていくのだ。
 対して、統護が淡雪に贈る服は、街中のブティックで数万円程度で買えてしまう量産品、いってしまえは、堂桜の人間が袖を通すには粗雑に過ぎる代物である。
 デザインも流行を重視した、御世辞にも品のある服とはいえなかった。きっと両親が目にすれば不愉快そうに眉根を寄せる、そんな服。
 それでも淡雪にとっては兄が選んでくれた、という一点のみで他の服よりも大切である。
「……お兄様」
 統護は黒いドレスワンピースを眼前に翳し、ジッと眺めていた。
 お茶菓子を誘いにきた淡雪に、彼は声をかけるまで気が付かずに、ドレスに集中していた。
 妹の来室に気が付いた統護は悲しそうに笑んだ。
「ああ、済まない。気が付かなかった」
「珍しいですね、黒だなんて」
 統護が淡雪に贈る服は、ほとんどが彼女をイメージした白を基調にしていた。
 黒いドレスを腕に掛けて、統護が言った。
「たまには黒もいいかと思ってね。案外、お前に似合うかもと」
「そうですか」
「箱に戻して包装し直したら、部屋に持っていくよ」
「ありがとうございます」
 歩み寄った統護は淡雪の頬に、手を添える。
「お兄様?」
「もうすぐだ。もうすぐなんだ……。そうしたら」
 淡雪には意味が分かりかねた。
 統護は意味ありげに両目を細める。
「いいかい堂桜淡雪。お前は数多の世界において、ただ一つの存在という――奇蹟なんだよ」
 だからその奇蹟をアタシにわけて欲しい――という声と共に、淡雪は気を失った。
 数時間後に兄のベッドで目を覚ました時。
 堂桜統護は――姿を消していた。
 枕元には、全く同じデザインの白いドレスワンピースがあった。
 それが別れの品となった。

         ◇

(そう……でした。不思議と、今まで忘れていました)
 うっすらと意識を回復した淡雪は、別れ際に兄が告げた言葉をようやく思い出した。
 堂桜淡雪は奇蹟だと、元の兄は云っていた。
 目を覚ました時、確かに『奇蹟』を体現したような不思議な感覚が残っていた。
 あの数時間の間に、いったい何が起こったのだろうか?
 耳に轟音が聞こえてくる。
 まるで鼓膜を掻かれるようだ。聴覚が戻ってくるに従い、淡雪も現状を認識し直す。
 冷たいコンクリートの床の感触。どうやら自分は俯せ状態で倒れている。そして動けない。
 外傷はないがダメージは深刻。神経伝達を阻害する魔術弾を喰らったのだ。
 どうやら封印解除は停止してしまったか。手元に微かな【結界】の残滓があるのみとは。
 つまり此処はまだ学校の屋上。

 ――そうだ。アリーシアはどうなったのだ?

 耳を劈く音は、間違いなく魔術戦闘で発生している音である。
 音が止んだ。
 締里は【ブラック・メンズ】の撃退に成功したのだろうか。まさか……
 淡雪は微かにだが、俯せ状態から顔をあげた。

「おい。あの女、生きているぞ」

 そんな声が聞こえた。男の声色。【ブラック・メンズ】の一人だろうと淡雪は判断した。
 状況を改めて認識し直そうと集中する。
 反論の声。
「なにをいう。世界屈指の規模を誇る堂桜財閥の姫君だぞ。敗北を味合わせるだけならばともかく、殺したり女として疵物にでもしてみろ。色々と後が面倒になる。特にファン王国と堂桜財閥の協定関係にヒビが入りかねない」
 この声色……締里?
 ならば自分を撃ったのは彼女か、と淡雪は思い至る。
 どうやら状況的にアリーシアは無事のようだ。
「確かにな。堂桜の実権や基盤も揺るぎそうにない――程度の事は俺達も掴んでいる」
 アリーシアの怒声が響く。
「貴方達はどこまで知っているの!?」
「我らとて、金が全てとはいえ、何も知らずに踊らされる駒ではない。ただの駒だと雇い主に斬り捨てられたり、裏切られたりするのでな」
 他の男も続けて言った。
「我らの情報網を甘く見過ぎです。《インビジブル・プリンセス》」
 淡雪は眼球だけで、視線を巡らせる。
 すでにアリーシアも戦う力を失っている様子だ。有り体にいって満身創痍だ。
 いや、淡雪が気絶していた時間は不明だが、よくぞプロの先頭集団を相手取って今まで存命しているものだ。それは感嘆と尊敬に値する戦果であった。
(ならば、……私も)
「さあ、潔く覚悟を決めて下さい。――《隠れ姫》よ」
 その声に抗うべく、淡雪は全神経を振り絞った。
 雪の結晶を光線状に束ね、敵へと放つ。数は三条だ。
 手加減はしない。手加減せずとも、致死に至る威力には程遠い。
 その派生魔術――《オーロラ・ライン》は、無防備だった【ブラック・メンズ】の背に直撃したが、戦闘服の耐魔性能のみで威力はせき止められた。
 淡雪の攻撃を受けた【ブラック・メンズ】が侮蔑の視線を向けたが、それだけだ。
(お兄様……助けて――)
 希望を込めて、スマートフォンに魔術を用いてメッセージを送信した。
 攻撃魔術はフェイクであり、この通信魔術を隠す為である。
 最後の力を使い果たし、淡雪は浮かせていた顔面を、再び床へと横たえた。

 

 

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