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魔導世界の不適合者 ~魔術学科の劣等生~ 第1部(第31話)

 

第三章  それぞれの選択 8 ―呼び出し―

 

         8

 オルタナティヴ、と名乗る少女の情報は、堂桜財閥関係者として黎八も得ていた。
 突如として現れた謎の少女。
 堂桜統護との肉弾戦に敗れ、その後は【黒服】部隊を引き連れて堂桜財閥に対してテロ行為を行っている。警察と堂桜系列の警備会社を相手取り、圧倒的な強さを示していた。
 しかし統護と同様、魔術の行使は確認できていない。
 堂桜トップクラスの【ソーサラー】に護られている要人や、自身が超一流の【ソーサラー】である血族は、まだ彼女に手を出されていないが、堂桜統護との戦闘データや、辛うじていくつか記録が残っていた強襲時の防犯映像から推測するに、楽観視はできない。
 黎八は直に目にするオルタナティヴに、違和感を覚えていた。
 まずは、少女の服装。
 オーダーメイドと思われる女子用の学生制服は、どの世代の流行とも異なっている。オリジナルのデザインなのだろうが、いくら彼女が間違いなく十代の若さだといえ、女学生風にする意図が不明であった。しかもその制服には、禍々しい紅いラインが紋様のように引かれている。羽織っている漆黒のマントと組み合わさって、禁忌という単語を想起させる。
 そして少女自身の雰囲気。

 知っている気がした。黎八はこの少女を、この目鼻立ちを知っている。

 なによりも――その特徴的な切れ長の紅い双眸は。
 色こそ紅と黒で違っていても……
「お前の目的はなんだ」
 黎八は油断なく半身に構えた。
 周囲に《鉄仮面》と揶揄される表情は少しも揺るがない。
 オルタナティヴの基本戦術として、強襲&離脱が報告されている。相手の隙を突いて一瞬で強打を叩き込み、そしてヒット&アウェイする。魔術を使わせないタイミング、もしくは魔術を撃たせてその躱し際に、相手の懐まで一気に飛び込むのだ。
 超人的な身体機能だけではなく、魔術を知悉していなければ、到底不可能な戦法といえた。
 加えて、多彩な格闘技能も有している。特に、堂桜統護との戦いでみせたバックステップしながらのライトクロスは、高度な戦闘訓練を受けた者でなければ、体現不可能な代物である。
 黎八は自身オリジナルの魔術を立ち上げる。
 右手を翳す、その【基本形態】とは――

「ああ。お前の使用エレメントと魔術特性は知っている。専用【DVIS】であるメガネを使ったインチキと、更には【AMP】の方も……ね」

 つまらなげなオルタナティヴの台詞に、《鉄仮面》が微かに歪む。
 そんな。誰も知らないはずの【AMP】についてさえ、言及されてしまった。
 いや、知っている者はたった一人だけだ。その一人はこの場にはいない――はずなのに。
 最もベーシックな『地・水・火・風』といった四大エレメントを、基礎魔術理論に組み込む者が多い。理由は扱いやすく発展性や応用性に優れているからだ。
 しかし【光】と【闇】といった両儀であったり、【雷】や【重力】といった特殊エレメントを魔術理論に用いる者もいる。限定的な使用を強いられるケースが多いが、オリジナルティに優れた効果を発揮できるというメリットが大きいからだ。
 黎八のオリジナル魔術も、後者に部類される特殊エレメントを使用したものであった。
「ボクの魔術のカラクリを知っているのか……」

 カラクリの元となる【基本形態】――《ブラフ・フェイカー》が隠している基本性能を。

 顔筋の痙攣を動揺と共に押さえ込む。
 その様に、オルタナティヴは微かに目尻を下げた。
「本当のお前は激情家――というか癇癪持ち。だから常にポーカーフェイスを崩さない」
 黎八の両目が見開かれた。

「君は、ボクを知っている――!?」

 オルタナティヴはクスリと笑みを零す。
 妖艶で可愛く、そして心臓を鷲づかみにされたと錯覚するような、悪魔的な笑みだった。
「知っているわ。堂桜関係者なのだから事前に情報は得ているから」
「そういう、意味、じゃなく」
 ひょっとしてこの少女は……、という疑念が黎八に湧き起こった。
 ドクン。どくん。ドクン。心臓が狂ったように暴れ始める。
 そんなことが、そんなことがあるはずないのに。
 果たして淡雪は気が付いているのだろうか?
 オルタナティヴは踵を巡らせ、黎八にマント越しの背中を晒す。
「お前と戦う意義も気もないし、大方の目的は果たしたから、今夜のところは帰るわ」
「ま、待て! 待ってくれ!!」
 黎八は呼び掛けて、右手を伸ばした。
 無防備な背中が遠ざかっていく。
 攻撃を仕掛けるのならば、絶好のチャンスだ。
 しかし彼女は黎八が背中から撃つ事ができない、と分かっているかのような歩みだ。
 実際――黎八は攻撃できなかった。
「ボクは何をして……」
 これでは、ただ顔を見に来た野次馬とかわらない。
 後悔するが、それでも同じシチュエーションが訪れてたとしても、やはり自分は彼女とは戦えないだろうな、と悟っていた。
 黎八は黒い空を仰いで独りごちた。
「君の正体が本当に、……だったのならば、ボクは君にとって何だったんだろうか」
 無二の親友のつもりだったのに。
 どうして連れて行ってくれなかったのだろう――

         

 統護は弱り果てていた。
 アリーシアの部屋に入るのは初めてである。
 二人部屋なのだが、困った事に同室の子(島崎和葉)は里親が見つかり、養女として【光の里】から巣立っていた。
 つまりアリーシアと二人きりだ。

 アリーシアは全裸である。

 正確には裸の上にバスタオルを被せている。風呂場でのぼせて倒れてしまったのだ。
 風呂から出て、すでに一時間近いのだが、まだ目を覚まさない。
 彼女を部屋に運んだルシアは、那々呼が待つ自宅アパートへ帰ってしまった。
 目のやり場に困りながら、統護はベッドの上の裸体から離れられない。
「目、覚まさないなぁ」
 いい加減に湯冷めしそうなので、もう団扇であおぐのは止めていた。
 バスタオルで隠れているとはいえ、アリーシアの体型や凹凸はハッキリと判る。
 正直いって、いつまでもこの状態だと理性を保ち続けるのは……
「なあ、アリーシア。風邪ひいたら困るから、このまま布団をかけていいよな?」
 身体も乾いているし、それほど湿らないだろう。
 返事はない。
 統護は遠慮がちに、布団をアリーシアに被せようと、

「――どういう状況なのか、ご説明願いますか、お兄様」

 底冷えするかのような声が、統護の背中越しにあるドアの方から聞こえてきた。
 統護は固まった。
 声色からして誰だか明白だったが、ゆっくりと首だけ後ろに向けた。
 やはり淡雪だ。
 妹は魔術を使用していないのに、絶対零度のブリザードを纏っているようである。
「裸で寝ているアリーシアさんの布団をめくって、いったい何をしようとしているんです?」
 その台詞に、統護は自分の姿勢を再認識した。
 確かに、この体勢は。
「その、なんだ、誤解だから色々と」
 しどろもどろになる統護。
 ワナワナと淡雪は肩を震わせている。
「本当に誤解だから、淡雪さん」
 バスタオルを胸に押し当てながら、アリーシアは上体を起こした。
「あれ? なんで?」
「ゴメン。狸寝入りしていた」
 アリーシアは複雑そうな笑顔で、ぺろりと舌をだした。
 統護は一気に脱力する。
「おい……。なんでだよ」
「色々考えていたんだけど、統護が傍にいると安心したから」
 そう言って微笑むアリーシアに、統護は文句を言えなくなった。
 二人の様子に、淡雪が不機嫌さを増した。
「怒らないで。ちゃんと事情を説明するから」
 アリーシアの言葉に統護は胸を撫で下ろし――たのではなく、表情を強ばらせた。
 一緒に風呂に入ったと淡雪に知られたら! それもルシアも一緒にだった!
 ちょっと待ってくれ、と止める前にアリーシアは話し始めていた。


 風呂場での一件をアリーシアが説明し、淡雪は納得した。
 統護は納得できない。
 彼の左頬には真っ赤な手形がついていた。非はないはずなのに、なぜがビンタされた。
「――それで? どうしてこんな時間にお前、此処にきたんだよ」
 アリーシアも部屋着のスゥエット姿になり、一応は落ち着いたので統護は淡雪に訊いた。
 居住まいを正した淡雪も着物の裾を直し、正座した。
 凛とした目を統護に向ける。

「堂桜本部でも内乱が起こりました」

 衝撃的な言葉から切り出した淡雪は、先程まで行われていた一族会議の内容を話した。
 議事録や映像・音声データは厳重に管理されており、持ち帰り不可なので、全て淡雪の口から語られなければならなかった。
 聞き終えた統護は、腕を組んで苦い顔になる。
「要するに、俺達は現状で孤立無援ってわけか」
 アリーシア――《隠れ姫君》の護衛任務については、ファン王家から私的に依頼を受けている自分達兄妹のみで、堂桜一族としてのバックアップはナンバー2である栄護によって遮断されてしまっていた。その報告で統護は合点する。
「不自然にバックアップが手薄だったのも道理だったか」
 内戦が勃発した時点で戦力補強は必須だった筈なのに、現状維持のままだったのは、そういった一族内での駆け引き(パワーゲーム)があったのだ。
「お父様と叔父様は真っ向から対立しました。しかし現王政支持であるお父様の旗色は悪く、一族としてはあくまで中立で、《隠れ姫君》から手を引くと主張する叔父がやや有利かと」
 中立をとりつつ、実際にはアレステア王子と懇意にしておき、反体制派が勝利した場合には宗護にかわり栄護がレアメタルについてのイニシアチブを握る――という筋書きだ。
 基本的にファン王国の内乱は、他国の政治問題だ。
 ゆえに公式な手出しは、いかな堂桜財閥といえどできず、よって責任など発生しない。
 現行の王政派が体制維持に成功しても、栄護はさほどダメージを受けず、オルタナティヴとの密談と、堂桜一族へのテロおよび【エルメ・サイア】との関与について、宗護を攻撃していくつもりなのだ。
「っていうか、親父は本当にオルタナティヴと繋がっているのか?」
「それは確実です」
 淡雪は沈痛な面持ちで首肯した。
 統護は淡雪の様子を注意深く窺う。実物を見ていない所為か、とりあえずオルタナティヴに関して疑問には思っていないみたいだ。
 ポーカーフェイスを維持しつつ、話題を続ける。
「じゃあ、あの時アイツが俺を襲ったのは、親父が命令したからなのか?」
「わかりません。私は信じたくありません」
 会議が終わってから、淡雪は父とのコンタクトを試みたが、叶わなかった。だから統護の元へ急いだのだ。盗聴等のリスクを考え、電話やメールはやめておいた。
「オルタナティヴが親父と繋がっているとして、じゃあどうして親父はオルタナティヴに一族を襲わせていたんだ?」
「お父様とオルタナティヴが交渉していたからといって、オルタナティヴのテロ行為がお父様の意志とは限りません。オルタナティヴが【エルメ・サイア】の幹部だった事も、お父様が知らなかった可能性もあります」
「それは、言い訳として通用しないだろ」
 その一言で、淡雪は唇を噛み締めた。
 彼女とて理解している。知らなかったから責任ありません、知らなかったから無関係です、といった逃げ道は、組織のトップとして認められないのだ。
「どの道、もう一度、緊急での一族会議が開かれます。最速で二日後。遅くても四日後にはスケジュール調整がつけられて、そこで採択が採られます」
「アリーシアの身柄についてか」
 場合によっては、特務隊の面々と袂を別つ事になる。いや、敵対するかもしれない。
 兄妹はアリーシアを見る。
 彼女の意志を尊重する、という視線だった。
 アリーシアは二人の視線を受けて、決意に満ちた表情で小さく頷く。

「――私、自分の意志で兄さんと会うわ」

 アリーシアが宣言した。
 最初から統護はアリーシアならばそう選択するだろうな、と思っていた。
 淡雪も同じ見解で、だからこそこうして訪問して彼女に事情を説明したのだ。
 統護と淡雪は視線を合わせた。
 堂桜一族内のパワーゲームに巻き込まれる前に、ファン王家の兄妹の確執は、自分たち兄妹で決着をつけるのだ、と。
 統護のスマートフォンが着信を報せた。ちなみに統護の使用している機種は【DVIS】が埋め込まれていないオール電気式タイプだ。機能的には【DVIS】埋め込み式に劣るが、逆にシンプルな機能と操作性から、今でも充分なシェアを誇っている。
 またルシアか、と思って、着信ナンバーを見ずに気軽に通話に応じる。

『――やあ、ボクだよ』

 意外な相手だった。東雲黎八だ。
 着信履歴に残っていないので、これが新しい機種での初通話である。
 黎八の声は暗かった。
「何の用だ? いま取り込んでいるんだが」
『現在の君が何者か、……急な話で悪いが二人だけで会いたいんだ』
 統護の言葉を無視し、場所と時間を指定して、一方的に通話は切れた。
 リダイヤルしても繋がらない。統護はスマートフォンをポケットにしまった。
「お兄様?」
「統護?」
 心配そうな二人に、統護は首を横に振った。
「大丈夫だ。ちょっくら男との夜のデートが入ったから出かけてくる」
 腰を上げる。
 夜は長い。自分にとっての今日の本番はこれからかもしれない。
「淡雪。アリーシアを頼んだ。もしも二時間以内に戻らなかったら、ルシアに連絡してくれ」
 そう言い置き、統護は部屋を出た。
 高確率で戦闘になるな――と、覚悟を決めて。

 

 

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