第四章 託す希望 11 ―真の最強―
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締里専用としてカスタムされているソレは、備品保管倉庫の一つに隠されていた。
予想では、荷捌きエリア内に停めてあるトラックの荷台だった。しかし、締里の予想は外れて、倉庫脇に堂々と置かれていた。むろんシートで覆われているが、その大胆さに締里は感心半分、呆れ半分となる。
シートを剥がして、組み上がっているソレを披露した深那実は、事もなげに言う。
「このシートをとるまで、アンタだって中がコレだなんて思わなかったでしょう? それにね、仮に工員や事務員に発見されていても、あからさまな危険物じゃなければ、見て見ぬ振りをするって。基本的に面倒事に首を突っ込みたがらないのが、普通の人間の性だから。見回りしている人間も報告用の書類を作成して提出のみ。上からの返事は明日以降。何故ならば、緊急性がなく、危険物や違法廃棄物でなく、さらに大した邪魔にもなっていないからよ。明日以降も放置したままならば、重い腰を上げて対応を考えるってのが関の山でしょうね」
確かに……、と締里は納得した。
不法投棄物とか爆薬や薬品などの不審物とは異なり、コレを見ても大概の者はスルーするだろうなと思う。ここが備品保管用の場所という事もあり、理由があって一時的に置かれているだけ、と勝手に判断するに違いない。
――姿をみせた締里専用カスタムとは、漆黒のオンロード型バイクなのだ。
特別に設計されているエンジンの排気量は八〇〇CC。
魔力や電力を併用しない純ガソリン用エンジンで、そのパワーは折り紙付きである。
レーサータイプの外装(着脱可能なサブフレーム)は、ワンオフ品の格パーツを組み合わせて複数パターンを演出できる。目的は目撃者と監視カメラに対するカモフラージュだ。
今回の外装パターンはタイプA――もっともスタンダードなデザインだ。ロードレースで走るマシンと比べても、際だって特徴的な点はない。
色彩については、締里の愛銃《ケルヴェリウス》と同じく、漆黒を基調としていた。
また締里はオフオード型の専用バイクと小型ヘリも所持している。アリーシアの護衛任務が最優先の現在、法律的なオーナーおよび管理者はアリーシアだ。
深那実は現地調達ではなく、わざわざ締里専用カスタム機を運んでみせたのだ。
機体の組み上げも完璧。見事な仕事である。
運び屋としては世界一かもしれない、と締里は感嘆した。
「正直いって私には、どうやってコレをこの場で組み上げたのか皆目、見当もつかないわ」
「企業秘密。こういうノウハウが商売の生命線だし」
過日のMMフェスタ絡みの案件でも、深那実は潜伏していたホテルの部屋にサブマシンガンを持ち込んで隠していた――と、統護から聞いていた。色々な意味でとんでもない女だ。
黒い車体を撫でながら深那実が不敵に笑う。
「車にしろバイクにしろ今時のマシンは【魔導機術】が組み込まれていない物が稀少でしょう。それなのに楯四万締里専用カスタム機は、一切の魔術が排除されているんだもの。組み上げるのは非常に楽だったわ」
この【イグニアス】世界では、オートバイの転倒事故は、ほぼ絶滅している。
転倒防止用の汎用魔術が標準で組み込まれてるからだ。
しかし、締里の機体にはそういった補助魔術は搭載されていない。締里のドライビングテクニックがあれば、マシンの操縦・運転に、魔術による補助は不必要だからだ。
そして魔術を併用しないが為に、【魔導機術】の作動感知網に引っかかることもない。
ゆえに締里の専用バイクは、彼女の走りを追求する事のみにスペックとリソースを費やした機体に仕上げられている。いわば常人の運転技術では乗りこなせないモンスターだ。
深那実は苦笑混じりで締里に確認してきた。
「状態は保証するわ。だけど此処から乗っていく――で本当にいいワケ?」
つまり締里はバイクに乗って、工場内を走り、検問を強行突破するという事である。
潜入任務からの脱出方法としては、セオリー外どころか破天荒だ。
だからこそ、今回の一度限りは有効な脱出方法ともいえる。次からは、内部からの強行突破にも対策が敷かれているだろう。
「ええ。ルシアの指示は正解でしょうね。工場の外では、間違いなく【エルメ・サイア】からの妨害に遭うわ。私自身の状況判断でも工場外にコレを用意、というのはないわね。私が単身で工場から脱出するのは容易だけれど、移動用の足がないとその先で困る事になる」
それにバイクを隠し置いていても、事前に撤去されてしまうリスクが高い。
直接的に締里と統護に接触する【エルメ・サイア】のエージェントは、戦闘員も兼ねたあの二名のみだろうが、二人のバックアップ要員はそれなりにいるはずである。
だったら秘密裏に脱出ではなく、思い切って、此処からバイクでの強行突破を狙う。
この場にバイクを運ばせた時点で、ルシアは事故処理まで計画しているから遠慮はなしだ。
締里はバイクとお揃いの漆黒のライダースーツに着替えた。
正確に表現すると、ライダースーツも兼用できる超薄型の【黒服】だ。締里専用ワンオフ品で、その名称を《ブラック・ファントム》という。
本来の【黒服】とは、【ブラック・メンズ】と総称される裏社会の非合法【ソーサラー】が好んで使用している強化スーツを意味していた。黒いビジネススーツがデフォルトであり、その裏地に強化外層骨格(ムーバルフレーム)や電磁式補助人工筋肉(ハイパワーマッスル)等、そして特殊プロテクターが組み込まれている代物である。【ブラック・メンズ】からの需要が高い為に、その『黒服型』が量産されており、もっとも安価で出回っているのだ。
従って【黒服】という呼称が固定化されて久しい(正式商品名は《リバーシブル・マジック・スーツ》)が、当然ながら『黒服型』以外のタイプも存在している。また開発も続けられていた。《ブラック・ファントム》もその一つだ。
ライダースーツも兼用できる仕様だが、基本はコンバットスーツである。
黒を基調として金と銀のラインが各部の区切りに走っている。薄手のプロテクターで補強されており、関節部の要所に、補助アクチュエータ用の外層骨格部とコネクト用端子カバーが出ていた。
二挺の《ケルヴェリウス》をバイクの側面に取り付けて、発進準備は整う。
マシンに跨がった締里に深那実がヘルメットを手渡した。
「工場から強行脱出した後、どう行動するつもり?」
ここから先の指示はない。状況を判断して、自由に動けという事だ。
ルシアは締里の意志に全てを委ねていた。
「もう決めている。この街全体の地図は頭に叩き込んでいるから、追っ手を振り切ってから、一直線に最適ポイントに向かうつもりよ」
本物のラナティア・ブリステリがすでに故人。
そしてセーフハウスの惨劇の中での、オリガの台詞。「逃げられたのね、ラグナス」という言葉は「ラグナスと逃げる事ができたのか」ではなかった。現場に現れたラナティアを騙っていた女の貌から「ラグナスに逃げられてしまったのか」という意味だった。
つまり――ラグナスと偽ラナティアは最初からグルという事だ。
そして二人は同じ貌をしている。先天的なのか整形手術によるものなのかは、分からない。
意思疎通の手段は不明だが、仮に双子ならば、自分と羽狩と同じ可能性が高いだろう。
二人は強敵であるが、それでも【エレメントマスター】ではないはずだ。
仮に【エレメントマスター】ならば、ブリステリ邸か、工場のトイレのどちからで【エレメントマスター】になって、一気に勝負をかけるはずである。
深那実は小首を傾げた。
「ん? まるで予想される逃走経路を追いかけるんじゃない様に聞こえるけど」
「その通りよ。二人の逃走経路の予想は簡単。だからルシアが手を打っていないはずがないわ。その後追いをしても旨みがないでしょう? やるなら相手の予測を超えなければ」
「何をするつもりなのかしら? 《究極の戦闘少女》サン」
締里は微笑みを残して、フルフェース型のヘルメットを被った。
「誰よりも統護を信じている――。最後までそれを貫くだけよ」
ぐぉん! ぐぉん! ぐぁおぅ!!
エンジンが咆哮をあげる。そのエンジンパワーに、マシン全体が獰猛に震動する。
「心配は無用、か。それじゃあ、縁があったらまた会いましょう」
「ええ。縁があったら、また」
締里がクラッチを繋ぐと、バイクは土煙を上げて、猛スピードで発進した。
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…
統護の眼前には、立体映像が展開されていた。
二次元モニタではなく、ジオラマ的に表現されている映像である。
ライブで中継されているシーンは、ラグナス姉妹と【ブラッディ・キャット】の魔術戦闘だ。
映像を展開させているのは、天使と悪魔の両名である。
そして、統護の拘束は解かれてはいない。
魔術戦闘はクライマックスに差し掛かっている。【NEO=DRIVES】の起動で主導権を握っていた【ブラッディ・キャット】であったが、ラグナス姉妹が想定外の方法で【エレメントマスター】化してみせた。《邪王のメドゥーサ》となった姉妹に、【ブラッディ・キャット】は蹂躙されている。
おそらく、ここから再逆転の芽はないだろう。
もう見ていられない。
「頼む!! 早くバンドを外して俺を自由にしてくれ! 助けに行かせてくれっ!!」
統護は必死に訴えた。特殊ラバー製なので、統護の膂力をもってしても千切れなかった。
他人の目が届かないこの場ならば〔精霊〕に喚び掛けて――と思っても、天使と悪魔に阻害されていた。
此処は彼等の領域。統護といえどもヒトの身のままでは、どうにもならない。
ウリエルは拘束バンドを外すのではなく、紅い石――レアメタル原石を差し出した。
「何も問題はない。約束した特注の原石――《アスティカ》はこれが本物だ」
差し出された原石に、統護は目を丸くする。
「じゃ、じゃあ、俺がラグナスに渡した原石は偽物だったのかよ」
「その通りだ。【結界】の外の様子くらい常に把握している。最初からあの女は我らの掌の上で踊っているに過ぎない」
「馬鹿野郎!! 偽物ならば、尚のことヤバイだろうがっ! ポアンはどうなるんだよ!?」
統護の叫びに、ベリアルが冷然と答えた。
「あの男は最初から我らの影。殺されれば、また新しいポアンを用意するだけだ」
ウリエルが補足する。あのポアンは六代目だと。レアメタルの秘密や利権の為に、ポアンは幾度となく浚われ、そして拷問の末に殺されているのだ。ポアンが殺される度に、彼等は別の人間を『新しいポアン』に仕立て上げてきた。
「……これは我ら〈神下〉者のチカラではなく、〔主神〕による奇蹟の一つだがな」
「そして代々のポアンは、己が役割を受け入れた上で、ポアンを演じている」
統護は愕然となる。そして合点がいった。
あの悟り切ったポアンの様子。彼には、最初から殺される覚悟があったのだ。
「それに【ブラッディ・キャット】も使い捨ての駒だろう。このまま《邪王のメドゥーサ》が勝利して逃走に成功しても、最終的な勝者は我らであり、お前だ」
ギシ。頬の筋肉が筋張る。統護は歯軋りした。
この天使と悪魔は何も理解していない。統護の言葉――気持ちを分かっていないのだ。
「もう一度言うぜ。このままだと【ブラッディ・キャット】達とポアンが危険だ。だから俺の拘束を解いて、助けに行かせてくれ」
赫怒を押し殺し、声のトーンを抑えて言った。
ウリエルとベリアルが顔を見合わせる。しかし返事はない。
焦れた統護は訴えを繰り返す。
「最終的な勝者は我らであり、お前だ――とか、ふざけるなよ。お前達にとってはメイ達やポアンはどうでもいい存在かもしれないが、俺にとっては違うんだよ……っ!!」
統護の熱弁に、ベリアルが苦笑する。
「なるほど。お前にとっては【ブラッディ・キャット】とポアンを救えなければ、たとえ原石を無事に持ち帰れたとしても敗北に等しいというワケか」
不可解だったがやっと理解したという顔になる天使と悪魔。
「ああ、そうだ!! メイ、アン、クウとポアンを助ける事が、俺にとっての勝利だ!」
ウリエルは冷たく統護を突き放す。
「払う必要のないリスクのみを支払って、得られるメリットが皆無という、愚かな選択をしているという自覚はあるのか、若き〈神座〉保持者よ」
統護は吠えた。
「メリットは俺の自己満足だ!! たとえ愚かと思われても、俺自身が満足して、納得できなければ何の意味もないんだよ!! 打算だけで、損得だけで、愚かか否かを判断するんだったら、俺は愚者で結構だぜ! 逆にメリットだけを取る賢者になんざ、絶対になりたかないね!」
ふと統護の脳裏に、アリーシアが浮かぶ。
彼女は責務というデメリットのみを背負い、民が幸せになる国を造るというメリットを選んだ。民としてメリットを享受できる平和な人生を棄てて、様々な障害・困難と戦う人生だ。
そんなアリーシアの力になる為にも、絶対にここは譲れない。
ウリエルが言う。
「そうだな。オーフレイムとお前との一騎打ち。まさに愚者同士の愚直な戦いだった。双方、あんな戦い方に意味はあったのか?」
「アンタの評価なんざ、俺には、俺とオーフレイムには関係ない。アンタのいう賢者ならば、もっと効率よくスマートに勝利のみを追求するんだろうけどな」
ウリエルの声に不満の色が滲む。
「それはどうかな? 自分が強者だからといって、あまり我らを見下すな。我らとて、目的のため以外にも誇りや矜持があるのだ」
「プライドがあるっていうのなら、俺の拘束を解いて自由にしてくれ。お前達にはメリットがないかもしれないが迷惑だけは掛けないから」
「メリットどころか、デメリットしかないぞ。お前が《邪王のメドゥーサ》に敗北してしまえば、我らの計画は根本からの修正を余儀なくされるだろう」
そう言ったウリエルと沈黙しているベリアルに、統護は不敵に笑いかけた。
「敗けるかよ、あんなヤツに。俺は。いや、俺と締里は――」
統護の宣言に、ウリエルが問いかける。
「自信以外での根拠は? なにか具体的な策でもあるのかな。メドゥーサは強敵だぞ」
「信じているからだよ、締里を」
愚かな……と、ベリアルが呆れ顔になる。軽蔑し切っている様子だ。
だが、ウリエルは真顔のままだ。
「そうか。ならば最後の確認だ。お前はこれから先も、そうやって戦っていくつもりか?」
統護は「違う」と前置きしてから、答えた。
「そうやってじゃないぜ。いつまでも今のままじゃない。次の戦いは今回の戦いよりも進歩していたいんだ。次の戦いに臨む未来の俺は、明日の堂桜統護は、今の俺よりも少しでいいから強くなるんだ。強くなりたいんだよ。護る為に、救う為に、助ける為に――ッ!!」
今回、ポアンと【ブラッディ・キャット】三名を切り捨てるのならば、統護の強さに意味はない。そんな安っぽい強さならば、統護には不必要だ。
統護は訴える。
助けられる命は、たとえ敵対者だろうが、可能な限り救いたいと。
敵すら救えるのならば救う。それには途方もない強さが必要なのは理解している。だが、その為に、統護はこの異世界で『強くなる』という生き方――道を選んだのである。
統護が継いできた血脈と〔魂〕、そして積み重ねた修練は、その道標なのかもしれない。
誰かを見捨てるのは簡単だ。敵を殺すのはもっと簡単だ。
特にオーバーキルやオーバーパワーは弱さの象徴といえよう。弱者は他者(敵対者)を殺すのだ。
けれど統護は、そんな弱さを救える強さをも手にしたい。
単純に倒す為ではなく、倒す事によって結果的に救う事に繋がるチカラだ。
統護は己の気持ちを統括した。
「……だから俺は、最強という幻想を追ってみたい。今回の件で、殊更にそう思った」
それは〔神〕の分をも超えた傲慢な思想だ――と、ベリアルが怒る。
真の最強など〔神〕にも不可能。それをヒトの身のまま本気で目指そうとするのか、と。
怒りを受け止め、統護は真っ向から首肯した。
そして、アリーシアという大切な女を引き合いに出して言う。
「なにが傲慢だ。傲慢どころか当然なんだよ。アリーシアという気高い生き方をしている女に相応しい男にも、俺はなりたいんだ。あの最高の女に相応しい男にも俺はなるって決めている。その男は〔神〕のチカラに頼る弱い男じゃなくて、――真の最強だ」
「ファン王国次期女王の少女……か」
「アイツは人生を賭けてこの国を変えようとしている。いや、国を超えて世界さえも変える女かもしれない。それって最強よりも凄いと思うぜ。レアメタルの秘密はともかく、一度でいいからアイツと会ってみろよ。お前達も感化されるかもしれないぜ? 俺も知らずに、アイツに感化されまくっているし。何ていうか、アイツは太陽なんだよ。とても眩しい女なんだ」
一切の照れなしに、統護は言い切った。
ウリエルが微かに頬を緩める。
「お前がそこまで惚れ込む『太陽の少女』か。少しばかり興味が沸いたぞ」
「おい、何を言っている」
「興味が湧かないか? 運命の相手である《ワイズワードの導き手》とは別の意味で、この男の中心にいる女なんだぞ。我らにとってファン王家の人間など、単に利用するだけの隠れ蓑だったのだがな……」
統護に向けられた天使の左手。
ウリエルは統護の拘束バンドを切断――否、素粒子レヴェルに分解した。
自由になった統護に、ウリエルが告げる。
「若き〈神座〉保持者――いや、改めて堂桜統護よ。お前が抱いている最強への覚悟。どれ程のものか確認させて貰うとするか。それがお前を解放する目的でありメリットだ」
「ありがとう。必ず期待に応えてみせる」
ウリエルは静かに首を左右に振る。
「期待……か。そうだな。お前がもしも本当に真の最強に至れるのならば、希望を……」
ベリアルが声を荒げて、ウリエルの台詞を遮った。
「止せ。迂闊な事を口走るな。俺達は――」
「分かっている。つい、な。託してみたくなったのだよ、この少年に」
統護には両者のやり取りが理解できない。
それ以上に時間がなかった。
ここから全力疾走を続けて、果たして間に合うのだろうか?
「とにかく俺は先を急がせて貰う」
「落ち着け、堂桜統護。いくら超人的な身体能力のお前でも走って間に合うものか」
ベリアルが統護の肩を掴んで、走り出そうとするのを止めた。
焦る統護に、ウリエルが言った。
「この工場に蓄えてある魔力を使って、疑似的に瞬間移動させてやる」
統護は唖然となる。いくら〈神下〉者でも、そんな真似が実現できるのか。
【魔方陣】による【使い魔】や【召喚獣】の顕現とは、原理が根本的に異なっている。人間というか、既存の物質は魔方陣というゲートを通過できない。
ゆえに物質の瞬間移動は〔神〕のチカラによる『物理法則の再設定』でなければ、実現不可能のはずだ。
ウリエルが説明する。
「お前は一度、素粒子レヴェルに分解された状態からの再生――すなわち転生を自力で遂げている。〈イレギュラー〉だが、〈資格者〉でもあるお前は、瞬間的にならばこの工場を【魔方陣】として純虚数空間(インナースペース)を起動可能だ。あくまで瞬間的に、の話だが」
そこまで言われて、統護も理解した。
「その純虚数空間(インナースペース)が成立した瞬間を狙って、意図的に俺を素粒子レヴェルまで分解して、再生座標値の因果素子データだけを書き換えるって寸法か」
「正解だ。〈神座〉を保持して、なおかつ超人化した肉体を持つ堂桜統護にしか出来ない芸当だがな。リスクとしては再生時に肉体が多大な負荷を背負い、更にコンディションの回復が遅れるかもしれない。今のお前の身体能力は、好調時の八割程度だろう?」
統護は了承した。
「問題ないぜ。急いでやってくれ」
立体映像で表示されている【ブラッディ・キャット】と《邪王のメドゥーサ》の戦闘は、今にも勝敗が決しそうであった。
むろん【ブラッディ・キャット】の敗北で。
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本作品は、暴力・虐め・性犯罪・殺人・不正行為・不義不貞・未成年の喫煙と飲酒といった反社会的行為、および非人道的、非倫理思想を推奨するものではありません。また、本作品に登場する人物・団体などは現実とは無関係のフィクションです。