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魔導世界の不適合者 ~魔術学科の劣等生~ 第1部(第13話)

 

第一章  異世界からの転生者 11 ―孤児院―

 

         11

 現場に駆けつけた統護であったが、敵襲は終わっていた。
 とにかくアリーシアが無事で安堵する。
「悪い。遅くなっちまった」と謝ると、淡雪にキツイ目で睨まれてしまった。
 うっかり口を滑らせた事に統護は気が付く。やはり気が動転したままかもしれない。
 アリーシアを確認すると、外傷はみられない。
 だが、やはり精神的ダメージが深刻な様子であった。
「君も来たのか、統護」
 黎八が歩み寄ってきた。
 統護は思わず、微かにだが身構える。
 東雲黎八は、元の世界にも生徒会長として存在していた。元の世界でも実家は資産家で、某化学繊維会社を経営していたはずだ。そしてこの世界での統護との関係も知っていた。
「せい……じゃない、お前こそどうして此処に?」
「たまたまだ。個人的な警邏の最中にボクの網に引っかかった――だけだ」
 黎八が眼鏡の眉間を押し上げる。
「どっちでもいいさ」と、統護は肩を竦めた。
 とにかく『それっぽく』でいいから演技をしなければ。
 統護は黎八の眼鏡型【DVIS】が特殊性だと知っていた。正確には淡雪から聞かされていた。淡雪を見やる。妹も「偶然」という黎八の言葉を信じていない様子である。
 既知の間柄として会話するのに気を遣う。
「――ま、クラスメートを助けてくれて、ありがとうな」
 途端。
 鉄面皮、といわれている黎八が顔を大きく歪めた。
「その態度だ!! お前は変わったッ! このボクが世界で唯一認めていた帝王である堂桜統護は何処に消えたんだ!! あの孤高の狼は!」
 いまにも掴みかかってきそうな剣幕に、統護は気圧される。
「いや、そうは言われてもな……」
「だからその態度だと言っている! 貴様は孤高にして孤独の王であったはずだ!! それが今では天才と称されていた魔術を棄て、大衆に馬鹿にされ、あげく迎合しようとさえしている。お前の身に何があったんだ? ボクはお前の右腕ではなかったのか!?」
 悲痛に訴えられたが、統護はため息をついた。
「右腕云々は悪いけれど忘れた。ただ友人としてなら付き合っていきたいと思う」
「ふざけるな!!」
 吠えた黎八は、拳を振りかぶろうとして、辛うじて思い留まる。
 生徒会長……、と統護は苦い思いを味わった。放課後の廊下で、自分に声を掛けてくれた彼とは別人だと分かっていても、胸が苦しい。

「俺はふざけていない。前の俺は――やっぱり間違いだったみたいだ」

 それを今、心の底から思い知った。
 元の世界と【イグニアス】世界の東雲黎八によって。
 もし、この世界の東雲黎八と友達になれれば、あの廊下での彼への贖罪になるのだろうか。この彼を変えて、友達になりたい――と本気で思えない時点で、まだ自分は……
 鉄面皮に戻った黎八は、平坦な声で言う。
「間違っているのは、今のお前だ。正しいのは以前のお前だ。ボクがそれを思い出させる」
 言い残すと、黎八は個人警邏に戻った。
 その背に、統護は言葉をかけられなかった。
「お兄様……」
 寄り添ってきた淡雪に、統護は視線を外したまま小声で訊いた。
「今の俺への周囲の評判に、生徒会長の態度。お前から聞いていたよりこの世界の俺は、随分とアレなヤツみたいだな」
 元の世界での自分も相当にアレだったが。もしも入れ替わりで、この世界の堂桜統護が自分の世界にいるのならば、彼はこの堂桜統護をどう評しているのだろうか?
「申し訳ありません」
「まあ、いいさ」
「それでも」と、淡雪は語気を強める。
 批難を込めた瞳で統護を見る。統護も視線を合わせた。
「お兄様は、どんな方であろうと、私のたった一人のお兄様だから――ッ!!」
 むろん淡雪の言うお兄様は、自分を指していない。
「そっか。そうだよな……」
 その気持ちはよく分かる。
 今から思えば酷い父親であったが、それでも統護にはこの世界の父親を本当の父だとは思えない。異世界の本人で姿カタチは同一でも、やはり本当の父親は――たった一人だ。
 それに【イグニアス】での両親の方も、明らかに統護を息子として認識していない節が散見できる。同一人物の堂桜統護であっても偽物の息子だと、勘づかれているようだ。
 母親に至っては、本当に姿形と声音だけが同一の正反対である。
 それでも今は親子ゴッコをするしか道はない。他にこの異世界での生活手段はなかった。
「無神経なこと言って、悪かった」
「い、いえ! お兄様は悪くありません。悪いのは――」
 目を白黒させる淡雪。
 そんな淡雪の頭に手を置き、統護は会話を打ち切るとアリーシアの方へ歩く。
 会話から取り残されていたアリーシアは、距離を置いていた。
「ゴメン。無視したみたいになって」
「別にいいんです。だいたい私は助けてもらった側ですし」
 アリーシアは険しい顔で視線を逸らす。
 統護は怯えた。
 明らかによそよそしい。拒絶さえ感じられる。ひょっとして嫌われてしまった?
 こういった雰囲気は苦手を通り越して、恐かった。伊達に長年『ぼっち』ではないのだ。やはり自分から歩み寄る社交性は、そう簡単には身に付かない。
 掛ける言葉を探しあぐねている統護に代わって、淡雪がアリーシアに言った。
「危険に晒して申し訳ありませんでした。あの二名については、我が堂桜一族が責任をもって対処します。だから必要以上に怖がらないで下さい。姫皇路先輩」
 目線を合わせないままのアリーシアが、固い声で言った。
「あの二人は私を『姫』と言っていたわ。堂桜一族本家のお二人が私をマークしているのも、その事に関係しているの?」
 統護は下唇を噛む。可能な限りアリーシアの出自は秘密にするファン王家との契約だ。それは彼女自身に対しても同様だった。
「それについては、守秘気味がありますので」
 淡雪はやんわりと言及を断った。
「姫って何かの符丁なの? 例えば淡雪さんが堂桜のお姫様と呼ばれているみたいな。それとも、本当に私は――ッ!!」
「一切の回答はできません。ただし私たち兄妹は貴女の味方です」
 先程よりも強い拒否に、アリーシアは唇を真一文字にする。
 不満はありありだが、今、真実を打ち明けるわけにはいかない。
 それで会話は終わった。
 今後の協力体制についての言質は得たが、アリーシアは最後まで統護を無視した。

         

 子供達の元気満点の『ハッピーバースディ』が、やや不揃いな合唱で響いた。
 孤児院【光の里】の食堂は、折り紙製の鎖やちり紙製のバラなどで飾り付けられている。
 素朴だが温かい手作り会場だ。
 現在在籍している三十二名の孤児だけではなく、この孤児院から巣立ったOBとOGも十三名が駆けつけていた。
 対して、大人の在籍者は園長である扶桑琴生ただ一人である。
 大人とはいっても、まだ二十三才の若さであった。彼女も【光の里】出身で、前園長が高齢で勇退した後任を買って出た。薄給どころか無給で無休に近い仕事の為に、他になり手がいなかったのだ。
 会場の中心には、主賓である児童が嬉しそうに立っている。
 みなが楽しそうにしている様子を、琴生は一歩引いた位置――壁際で、微笑ましそうに眺めていた。
「お疲れ様です、コトミ園長」
 輪から外れて裏方に徹していた琴生に、もう一人の裏方が紙コップを差し出した。
「ありがと。アリーシア」
 琴生はアリーシアと紙コップの縁を軽くぶつけ合った。中身はオレンジジュースだ。
「飾り付け、大変だったんじゃないですか?」
「そっちこそ。御免なさいね。あたしがちゃんと料理できれば、アリーシア一人に負担を掛けなくて済むのに」
「ううん。私が好きでやっている事だから」
「そう言ってもらえると助かるわ」
 今の【光の里】にプロの調理人を呼ぶ予算はない。かといって、誰もが練習すれば、三十名を超える人数の料理を効率的に作れるようになるわえではない。事実として琴生だけではなく、年長組の何人かがチャレンジしたが、味と量と予算の三つをクリアできた者はいなかった。
 少ない予算で大勢の舌を楽しませる事ができるのは、此処ではアリーシアだけだ。
「コトミ園長こそ、疲れているように見えるけど」
「心配なし。平常運転よ」
 ガッツポーズを作ってみせる琴生。
 しかし琴生の笑顔を見ても、アリーシアは笑顔を返せなかった。
 アリーシアの目から見て、琴生は顔色が優れていない。また少し痩せたのかもしれない。
 寄付を募る営業活動もあまり実を結んでいないのは、アリーシアにも分かる。
 二人が並べば、アリーシアの方が年長に見える。琴生は小柄で、やり手のキャリアウーマンとは正反対の印象の女性だ。田舎の純朴なお姉さん、という外見なのだ。それ故に、営業活動に回っても、よく相手方に軽く見られてしまう。
「――それより」
 と、琴生は年少組の中で、艶やかにニホン民族舞踊を披露している少女に視線をやった。
 複雑そうな表情になった琴生は、アリーシアに言う。
「貴女がお友達を此処に連れて来る、なんて初めてじゃない?」
 踊っている少女――堂桜淡雪の姿に、アリーシアは困ったような笑みを作った。
 人気を集めている妹とは対照的に、兄の統護は居心地が悪そうにOBやOGの相手役をしていた。
 アリーシアにくっついてきた兄妹は、ケーキ作りも手伝ってくれた。
 けれども、まだ統護との間はギクシャクしたままだ。
「どういう心境の変化?」
「たまたま、ですよ。たまたま彼等が孤児院っていうか、庶民の誕生会に興味を示したから、ちょっと借りがあったから招待しただけです」
「堂桜財閥……か」
「それに会社からだけではなく、堂桜一族個人からも寄付してもらっていますし、心象を悪くするわけにはいかないでしょう?」
 とはいえ、この孤児院だけでみると大した金額ではない。堂桜財閥はニホンという国だけではなく、世界規模で様々な慈善事業や寄付活動を行っている。当然ながら末端ともいえる私設運用に近い一つの孤児院まで、大きな予算は回ってこない。
「でも、よかったです」
 アリーシアは胸を撫で下ろした。
「なにが?」
「みんなが堂桜さん達を受け入れてくれて」
 在籍孤児が外部の友人を【光の里】に連れて来る事は、禁止されていない。
 しかし、年間で数えるほどしか外部からの友人は訪れない。それが、世間からの孤児院への評判と、孤児達の閉鎖性を物語っていた。
 琴生は意地悪そうに訊いた。
「――で、やっぱりあの男子って、アリーシアの彼氏なわけ?」
「ち、違いますよッ!」
 アリーシアは真っ赤になって否定する。
 そんな分かりやすい反応に、琴生はクスクスと楽しそうに笑みを零した。

 

 

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