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魔導世界の不適合者 ~魔術学科の劣等生~ 第1部(第12話)

第一章  異世界からの転生者 10 ―退却―

 

         10

 瞼の重さに負け、視界を闇に閉ざしたアリーシアは『終わり』を覚悟した。
 心中でゴメンと謝った。誕生日会に参加できなくて……
 瞼越しの真っ黒い視界に主張してきたのは。
 紫電、であった。
 華のような稲光のスパークの共演だ。
 瞼を通してさえ網膜が認識できる光の焼き付きに、アリーシアは恐る恐る目を開く。
 自分に斬りかかっているアクセル6を、泰然と右手を向けて制止している学校制服の背中が、其処にはあった。
「堂桜――くん?」
 違うとは分かっていても、アリーシアはその名を口にした。
 この背中は堂桜統護のものではない。明らかに違う男子の背である。
 背中越しからの声色は、やはり期待を裏切り別人だ。

「――違うな。ボクは統護ではない」

 しかしアリーシアはその声色を知っている。肉声とネットを通じての声を聞いていた。一番印象に残っているのは、やはり選挙演説であった。
 声の主は、肩口にアリーシアを振り返る。
 清潔に切り揃えられた頭髪に、やや広めの額に細めの双眸。そして神経質そうな顔立ちと、鋭利なデザインの銀縁眼鏡。
 鍛え上げられている長身の体躯なのに、与える印象は華奢かつ文系のインテリ。
 アリーシアはその顔に見覚えがあった。
「生徒会長」
 学内で、統護と並ぶ有名人だ。否、このニホンにおいても統護の名と同等の響きを有している名を持つ少年といえよう。
 生徒会長という肩書きは、あくまで彼にとっては学園内限定での付属品だ。

東雲しののめ黎八れいや

 黎八は顔筋が死んでいる――《鉄仮面》と揶揄される鉄面皮を、ほんの微かに緩めた。
「ボクを知っているのかい。姫皇路さん」
「え、ええ」
 むしろ学内で知らない生徒などいないはずだ。生徒会長としてというよりも――世界第一位のシェアを誇る【AMP】製造メーカーの御曹司としての彼を。東雲家の【SHINONOME・カンパニー】は、【堂桜エンジニアリング・グループ】においても、かなりの権力と影響力を誇っている上位傘下企業であるのだ。
 逆に、黎八が自分を知っている事に、アリーシアは驚いた。
 攻撃を止められたアクセル6が怒りも露わに怒鳴る。
「お前ぇ、邪魔するんじゃねえ!」
 そう。アリーシアの手前で、彼の斬撃は停止している。

 真っ直ぐ剣に向けられている――五指が開かれた黎八の右手。

 触れてはいないその手の平によって、雷の刃を止められているアクセル6は、怒りに顔を赤くする。しかし彼の赫怒とは裏腹に、剣は微動だにしない。
 魔術的な不可視のチカラが働いている。
「くそっ。どうなっていやがるんだよ。どんな魔術特性だよコレ」
 アリーシアにも皆目、見当がつかない。考えられるとすれば、【重力】のエレメントであるが、【重力】操作は『加重』や『加速』がメインで、この様な『停止』は極めて難しい筈。
 そして魔術を立ち上げているのに、黎八の【基本形態】が視認できない。
 すなわち魔術幻像(パワーヴィジョン)型とは真逆の、不可視タイプ(特殊型)に分類されている【基本形態】か。
 屈辱に顔を歪めるアクセル6。
 対照的に、左目のウィンクを涼しげに解く黎八。
 同タイミングで素早くアクセル6の手首を極めている。体術もレヴェルが高い。
 黎八はアリーシアを庇うように前に出た。
「君の剣型【AMP】の魔術ベクトルをボクが制御している。抵抗は無駄だから、やめておいた方が賢明だ。ボクが魔術戦闘において主力としている【基本形態】は、他者の【魔導機術】と物理挙動のベクトル解析して――」
 平坦なアクセントで綴られる長口上の台詞は、次の瞬間、強制的に中止させられた。
 ッガガガガガガガッッ!
 射撃音が連なる。
 少女が撃った氷の散弾が黎八に殺到した。
 今度は右目をウィンク。秒に満たない間に飛来した三十を超える魔弾の群さえ、黎八の一瞥の前には、しつけられた子犬ようにピタリと停止する。
 弾は全て地面に落下した。
 少女が呟く。相棒への悪態だ。
「お前の所為で面倒になった」
「つーか、人払いはどうなったんだよ!?」
 アクセル6の怒鳴り声に、黎八が答える。
「何があっても警邏コースを変えないのがボクの主義でね。それに調査中だなんて、真っ赤な嘘じゃないか。これでは余計に怪しむな」
 使用していない左手で、黎八は眼鏡のフレームの位置を直す。右手はアクセル6の剣を制圧したままだ。
 そして二人に睨みを効かせる。

「ボクの【基本形態】――この右手の前には『全てのベクトル』が支配下に入る」

 抵抗は無駄だ、と宣言した。
 アリーシアは息を飲む。ベクトルとは『大きさ(スカラー)と向き』を有する量であり、エレメントではないはずだ。物理量=ベクトル量は『力』『速度』『加速度』――すなわち『移動』を指しており、直接的なエレメント(=魔術特性)としては【重力】しか思い当たらない。基本的には、あくまで魔術現象によって、『力』『速度』『加速度』を実現しているのだから。
 左目をウィンクする黎八は余裕の表情だ。
 この片目を瞑る癖が出ている時の黎八は、心身共に絶好調である――と、アリーシアは聞き及んでいた。
「いや無駄じゃないね! ハッタリかますのにも程があるだろう!!」
 停止された剣ではなく右ミドルキックで、アクセル6は黎八の言葉を否定する。
 黎八が言うように『全てのベクトル』つまり、運動エネルギーの位相と変化をリアルタイムで解析して、かつ制御下に置くという魔術プログラムのアルゴリズムなど、実現不可能といっていい。
 万が一、実現可能だとしても――

 仮に『魔術のベクトル』が黎八の支配下に置かれてしまったのならば、打撃による物理攻撃を併用するだけだ。

 魔術現象は物理現象よりも上位――とはいっても魔術師の挙動はその限りではない。
 戦闘時には【基本形態】として起動用魔力をデフォルトとして纏っているからである。
 それに加えて、黎八が不可視の【結界】を展開していたと仮定しても、蹴り技を自動認識して停止させるパラメータ設定など無理に決まっている。
 超高速――すなわち亜光速や超音速の物体は、魔術プログラムのパラメータ設定により自動認識して、停止させるのは容易だ。他の運動物体との相対速度が大きいからだ。
 だが、逆に時速数十キロの打撃を、他の運動物体と区分して自働認識させる事は難しい。
 そんな面倒で煩雑なパラメータ設定にするくらいならば、近接戦闘における打撃への対処は【結界】に頼らずに、格闘技術で対応する方が効率的だ。
 また格闘技による近接物理攻撃の速度次元は、【基本形態】と共に展開される術者の電脳世界にて同位相で扱えない。つまり魔術攻撃とは違い、現実世界の速度認識となるのだ。
 魔術攻撃と物理攻撃は完全に別存在なのである。
 よって戦闘系魔術師ソーサラーには近接戦闘における格闘技術が必須となっている。
 黎八の【基本形態】はエレメント(属性・特性)は判別不能であるが、魔術属性に関係なく、『魔術のベクトル』と『物理運動のベクトル』の同時対応は不可能と断言できる。
 理由はベクトルという概念が共通していたとしても、二つは根本的に別次元のモノだからだ。

 だが、理(ことわり)に反してミドルキックが不可視の力で弾き返された。

 右手だ。
 アクセル6の手首から離し、その手を彼へと翳している。
 アリーシアは驚く。あり得ない。障壁や粒子を使用した魔術力場――局所【結界】を発生させて防いだのではないのならば、直接的に二種類(魔術と物理)のベクトルに干渉可能な、常識外の魔術が存在するという事に他ならない。
 アリーシアは黎八に言った。
「まさか本当にベクトルという『概念』ごと?」
 それならば『二種類のベクトル』への同時干渉と制御も可能だろう。
 黎八は首を横に振り、アリーシアの言葉を否定した。
「いいや。概念というエレメントなどボクには想像もつかない。概念魔術――【空】の噂は聞くが、そんなエレメントを使える者がいたとしたら、本当の魔術の天才だろうね」
「じゃあ、何故――!?」
 考えられるのは、魔術攻撃を止めた魔術と、ミドルキックを弾いた魔術が――同時に起動している?
 魔術ベクトルの操作と物理ベクトルの操作――二種類の魔術属性を、一つの【基本形態】でマルチタスクさせているのか。
(嘘でしょ? 会長まで複合魔術を使えるの!?)
 本来、超が付くレアな筈。
 そもそも【結界】ではないのに、どうやって不可視の魔術力場を維持しているのか、という疑問も残っている。黎八から感じる魔術出力では、魔術師単体での【結界】起動など間違いなく無理なレヴェルなのだ。【魔導機術】において定義される【結界】とは、【直接魔導】ならば複数人の魔術師によって起動・維持される大魔術である。
 黎八の右手に魔術的に干渉し、できるならば解析を試みたい――。そんな欲求がアリーシアに湧き上がる。
 少女が黎八に殴りかかった。
 左ストレート。洗練されたフォームから繰り出される必倒の拳だ。
 魔術攻撃から物理攻撃に切り替えた。二つの使い分けも魔術戦闘には必須となる。
 しかし、その左拳も黎八の前にストップしてしまった。
 黎八は少女に右手を向ける。
「素晴らしい動きだ。けれどボクには通用しないな」
 アクセル6が再度、斬りかかる。
 その斬撃を、右手を翳して『停止』させた黎八は、すかさず半身になると左肘で刀剣をはたき落とし、先程のお返しとばかりに左ミドルキックでアクセル6を蹴り飛ばす。少女の傍まで吹き飛んだ彼は、どうにか倒れずに着地する。苦しそうに脇腹を押さえ、背を丸める相棒に、少女は冷たい視線を向けていた。
 やや苛立たしげに、黎八が告げる。

「だから無駄だと云っただろうに。魔導科二年A組で嘉藤かとう大胡だいご

 アクセル6の名を言い当てられ、少女は微かに表情を揺らがせた。
 驚いたのはアリーシアも同じだ。だが、名前を言われてもアリーシアはアクセル6を思い出せない。
「どうして?」というアリーシアの疑問に、黎八はさも当然と答えた。
「ボクの記憶では、全校生徒のフルネームと顔が一致しているからね」
 にわかには信じられない台詞である。
 アリーシア達の通う学校――【セントイビリアル学園】は高等部だけでも約二千四百人が在籍している。生徒会長とはいえ教師でもないのに、そこまでする必要性が理解できない。
 黎八は指さしながら付け加えた。
「女子生徒の方は普通科一年F組の楯四万たてしま締里しまり。共に正真正銘、我が校の生徒だ」
 冷徹な表情のまま、少女――締里は薄く苦笑する。
「計算外ね。どうやら茶番だったにしても、少々余興が過ぎたみたいね」

「――その通りですわ!!」

 凛とした声を発したのは、この場にいる者ではなく、この場に駆けつけた少女であった。
 呼応して。
 白銀の吹雪が締里とアクセル6を中心として巻き起こる。
 ひゅごごぅぅぅうううううううう――……
 四大エレメントの【水】から派生する『氷系』の魔術属性で、さらに極めて珍しい特化エレメント――【雪】の【魔導機術】だ。

 その【基本形態】の名称も――《クリスタル・ストーム》。

 統護を威嚇した時とは、吹雪の輝きが段違いだ。
 プラチナ色に輝く黒髪の少女に、一同の視線が集中する。
 様々な種類の【基本形態】がある中でも、最も稀少な【結界】を【基本形態】として纏う戦闘系魔術師ソーサラーの少女。
 自身の周囲のみという小規模クラスとはいえ、並の魔術師には真似のできない芸当だ。
 平均的な戦闘用魔術の比ではない魔力総量と意識容量を必要とするので、通常の魔術師ならば効率以前の問題で【結界】を【基本形態】になどしない。
 淡雪は【結界】――《クリスタル・ストーム》をOS的な基点として、締里とアクセル6を閉じ込める『雪壁の檻』を精製してみせたのである。
 魔術的な吹雪による凍結攻撃も【結界】の基本性能として加えられているが、二人は魔術抵抗(レジスト)に成功していた。自らに影響を及ぼす魔術現象のプログラムのアルゴリズムを部分的に解析して、疑似的な魔術ワクチンを精製して抵抗する事を『レジスト』と定義する。魔術理論そのものの解析ではない。また【基本形態】の起動が必須でもある。
 ギリ、とアクセル6が奥歯を摩った。
「淡雪。……堂桜淡雪か」
 中等部三年。世界的企業【堂桜エンジニアリング・グループ】を経営し、【魔導機術】の核である【DVIS】理論を独占する堂桜財閥のお姫様だ。
 雪女と見紛うばかりの儚さを武器とする少女は、氷よりも冷たい声色で警句する。
「大人しく投降して下さい。お二人には訊きたい事が沢山あります」
「冗談ッ!」
 二人はアイコンタクトを交わすと、アクセル6が自分達を囲っている吹雪の壁を一振りで斬り開いた。開かれた箇所は閉じようとするが、締里が炎弾をショットガンモードで連射して、修復を遅らせる。修復完了するタッチの差で二人は飛び出した。
 秒を要さない抜群のコンビネーションである。
 二人は『吹雪の限定地域』から脱出すると、アクセル6が前方突破役を受け持ち、締里が退路に炎の弾丸をまき散らしながら追っ手を牽制した。
 ガガガガンッ!
 暴力的な着弾音が残響し、縮こまったアリーシアが小さく悲鳴をあげる。

 しかし淡雪は吹雪で壁――防御用の派生魔術を展開させて、魔術弾を防御していた。

 派生魔術の名称は《ダイヤモンド・インターセプト》だ。
 魔術抵抗(レジスト)とは真逆の対応で、相手の魔術理論と己の魔術理論のぶつけ合いだ。
 基本的に魔術出力・魔術強度・魔術密度で総合的に勝る方が打ち勝てる。
 勝ったのは、淡雪の防御だ。
 アリーシアは安堵から、立ち眩みのような目眩に襲われたが、どうにか踏み留まる。
 取りあえずは助かった様であるが、なにからなにまで理解の範疇外で、今でも現実感が希薄であった。
 二人はそのまま逃走してしまう。
「捕まえてはくれませんのね」
 恨みがましい淡雪の批難を、生徒会長は当然といった顔で首肯した。
「詳しい事情は知らない。しかしボクの義務は喧嘩を仲裁して被害者を保護する、単純にそれだけに過ぎないからね」
 ため息をつく淡雪。
 アリーシアは混乱していた。
 自分が襲われたのは決して喧嘩などという生やさしいものではなかった。命の危機を覚えた紛れもない本物の戦闘で、そして自分は『姫』と呼ばれた。
 なによりも自分を狙ってきたのは、同じ学園の生徒であった事。
 分からない。とにかく謎だらけ。
「ええと……。助けてくれてありがとうございました」
 訳が分からなかったが、とにかく助けられたのは事実だ。
 アリーシアは深く腰を折った。
「たまたまボクの個人的な警邏中に発見できたからよかったものの、今後はもっと周囲に人気を確認して用心した方が賢明かもね」
「はい」
 そこまで気にした事はなかったが、アリーシアは調子を合わせた。
 あの二人は音を遮断する【結界】を広域に張っていた。
 複雑なパラメータ設定が必須で、かつ多大な魔術出力を要する障壁系ではなく、パラメータ設定が比較的容易で、音のみを遮断するだけとはいえだ。しかも人払いまで事前に行っていた。なにより締里は大胡をアクセル6、6と呼ぶ。これが意味するところは……
 淡雪は冷たく言った。
「私は逆に、どうして黎八さんがこの場にいたのかの方が疑問ですけれど」
「警邏中にたまたま、と言ったはずだが? 堂桜のお姫様。まあ、明らかに普段とは違う様相だったので、場所を特定するのは必然だったけど」
「その呼び方はよしてください、と何度も申している筈ですが?」
「これは失礼」
 どう見ても、アリーシアには二人は友好そうとは思えない。
 ふと、激しい足音が近づいてきた。
 アリーシアが音に気が付いた時には、すでに統護が傍まで駆け寄っていた。
 その速度にアリーシアは目を丸くした。百メートル十秒どころのレヴェルではない。しかも統護は全く疲労を感じさせない。どんな脚力と持久力をしているのだろうか。
「悪い。遅くなっちまった」
「お兄様」と、淡雪が弱った顔の統護を睨み付ける。
 堂桜兄弟のやり取りでアリーシアは理解した。
 どうやらこの兄妹は自分をマークしていたようだ。状況から判断すると目的は――護衛か。
 ズキリ、とアリーシアの胸が軋む。
 理由は明白だ。
(私、勘違いしてた)

 そっかぁ。堂桜くんが変わったのは、自分が護衛対象になったからか……

 お姫様呼ばわりとも関係しているのだろう。
 詳しい事情はこれから確かめるが、堂桜統護に対しての感情は自分の独り相撲だったに過ぎない。自意識過剰に、アリーシアは泣きたくなったが、涙を堪える。
 今までも孤児として様々な目に遭ってきたけれど、気が付けば、どんな目に遭わされても泣くことだけは拒否していた。
 泣くことは『本当の』負けだがら、と昔から決めていた。

 

 

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