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魔導世界の不適合者 ~魔術学科の劣等生~ 第1部(第11話)

第一章  異世界からの転生者 9 ―余韻―

 

         9

 グゥバァァアアアアンッ!!
 炸裂音の残響の中、統護の顎が高々と跳ね上がった。
 効いた。視界が黒く染まった。一瞬だけ意識を飛ばされたが、辛うじて踏み留まる。
 刹那、動きが止まった統護に対し、オルタナティヴの追撃はこない。
 ゼロコンマ数秒で迎撃態勢を取り戻した統護が、次の瞬間に目にした黒髪の少女は――

 アッパーカットを振り切った姿勢のまま、ぐらぐらと揺れている。

 オルタナティヴは緩慢な動作で、両腕をオンガードに戻そうとする――が、秒を要する速度であった。つまり超人的な超高速で展開しているこのバトルにおいては、遅すぎた。
 ここが――勝負だ。
 統護はコンパクトな左ショートフックを放つ。
 今度はライトクロスを許さない。
 右頬の中央にジャストミートした。
 ドン、という重い打撃音と共に、オルタナティヴの身体が力なく半回転して、数メートル後退させられた。死に体だ。しかし彼女の意識はまだ繋がっている。手応えはあったが、意識を絶てなかったか。
 ギラリ、と少女の紅い双眸が光を湛える。
 さらに半回転した状態から、回転させられた勢いを利して、オルタナティヴがロングの右フックを繰り出しにいく。
 統護も距離をつめてフィニッシュを狙う。
 防御を度外視して、攻撃のみに意識を集中する。どちらが先に決定打を届かせるかだ。
 互いに渾身の一撃。
 ヴゥぉぉおおおォッ!! 二つの拳が空気を裂いて唸りをあげる。カウンターではなく相打ち狙いだ。統護とオルタナティヴの拳が互いの肩口を通過し、綺麗に交差した。
 ぐシャりぃ。
 オルタナティヴの右拳が、統護の左頬にめり込んだ。先に当てたのは、オルタナティヴ。
 統護の頭蓋が一瞬、大きく歪む。
 同時に、頬の肉も波打つ。だが口の端を上げる――快心の笑みのカタチに。
 先に当てられた――のではなく、意図して迎えにいってヒットポイントをズラしたのだ。
 衝撃を無効化する秘伝のわざは使えなかった、が耐え切った。
 ゴォウ!
 コンマゼロゼロ単位の刹那の遅れで、統護の左フックがオルタナティヴの側頭部を捉える。ジャストミートだ。拳が当たった頭部と支点として、少女は砲弾のように飛ばさた。そのまま公園の裏地に面した住宅のブロック壁に激突する。

 灰色のブロック壁が崩れ、残骸と共にオルタナティヴの身体が――沈んだ。

 横薙ぎにダウンしている。残骸に埋もれた彼女が立ち上がってくる気配はない。
 無人の通学路から児童公園へと舞台を変えながら繰り広げられた激闘も、これで閉幕だ。
 深呼吸して、統護は乱れていた呼吸を整える。
 最初は防御主体で互いに当たらす、そして防御技術を見抜くと、フェイントを交えてのカウンター合戦。最後には攻撃主体での殴り合いになり、耐久力勝負になった。
 振り返ると、実に不思議な戦いだった。
 まるで合わせ鏡のごとく、互いの拳を交錯し合った。ギブ&テイクに近い打撃戦など、今までのスパーリングでは経験していない。不必要に相手に打たせないのが常道だからだ。よって通常ならば、展開を変えるケースなのだ……が、オルタナティヴ相手だと、何故かそうならなかった
 この戦闘で統護は自身の肉体性能の、実に八割以上を学習するに至った。体中に走っている痛みさえも、今は愛おしい。本当に充実感のある戦闘だった。

 なによりも、初の実戦を勝利で飾れた。

(これが戦い……か)
 スパーリングとはまるで違った。喧嘩や試合に興味がないのは今でも変わらないが、このオルタナティヴとの戦闘は、統護にとって特別に思えた。初戦の相手が彼女で良かった。
「――これで決着、でいいな?」
 割れたコンクリートブロックとセメントの欠片を浴びている少女に、統護は確認する。
 倒れたままのオルタナティヴは降参だ、と両手をあげてアピールした。
 打撲傷だらけの顔に、幸せそうな笑顔を浮かべて。
「……」
「どうした? 勝ったのはお前よ、最強」
「いや、気になってな」
 確かに戦闘不能に陥るまでの肉体的ダメージを、オルタナティヴに与えた。彼女が戦闘継続するのは、生物学的に不可能なはずである。
 しかし、心は折れていない。
 いや、むしろ満ち足りている。
「お前はどうしてそんな顔をしているんだ?」
「そんな顔?」
「だから敗けたっていうのに、どうしてそんな嬉しそうなんだよ」
 統護の口調が苛立った。
 戦闘には勝利したが、勝負には負けた、不思議とそんな感覚である。
「そうね。強いていえば――やはり全力のアタシを倒せるのはお前だけだと解ったから。そして、生涯初めての敗北の味は案外美味だったから……かな?」
「お前は負けたかったのかよ」
「否定しない。一度でいいから全力でぶつかって、アタシは敗けてみたかった」
 爽やかな笑顔で、オルタナティヴは言った。
 傲慢かつ自信満々な女だ、と統護は呆れる。つまりオルタナティヴは、常に勝者としてスポットを浴びていたという事だ。日陰者でしかない統護には理解できない感覚だ。
 加えて、もう一点。納得のいかない点がある。

「全力だっていうのなら、なぜ魔術を使用しなかった?」

「お前が魔術を使用できないから――では、納得いかない?」
「同じ土俵じゃなければ嫌だというクチか」
 どうやらこの女は強者の理論で戦うのがポリシーらしい。
「ええ。アタシは素手の相手に武器を持つ、魔術を使えない相手に魔術を使う、なんて格好悪い真似はゴメンな性分なの。お前と同じでね」
 オルタナティヴの表情。統護は背筋に冷たい汗が流れるのを感じた。知っている。魔術が使えない事ではなく、淡雪しか知らない筈の、統護の秘密を。
 浮かんでいた疑念が、想像が、そうではなく『事実』なのでは、と思い始めていた。
 コイツは。この女は――
「それにアタシもこの身体の性能テストをしたかった。お前はまだ限界の一歩手前、といった感じだったが、アタシは限界が把握できたわ。迷惑を掛けて済まなかったが、まともに正面からやり合える相手がお前しか思い浮かばなかったのよ――堂桜、統護」
 コイツも同じか、と統護は戦慄した。
 きっと全てが同じなのだ。
「確認したい。お前はいったい何者なんだ?」
「アタシはアタシよ。その問いかけにだけは自信をもって答えられるわ。そして堂桜統護という存在は、やはりもうお前だと確認できた。本当にありがとう。起き上がれるのならば、感謝の印としてキスしてあげたいくらい」
 ウィンクを添えてのキス云々の軽口に応えるだけの余裕は、統護にはない。
 何故ならば。
「やっぱり、お前は、俺と――」
「ええ。だったらどうする? アタシを殺して口封じする?」
「な」
「アタシを殺さなければ=再戦の機会を与える、と理解できないかしら?」
 統護の表情が凍りつく。その様をオルタナティヴは愉快そうに下から眺める。
 まるで見下ろされているように統護は錯覚した。
「お前が冷酷にアタシを殺せるのならば、アタシとてこんなカタチでコンタクトしない。お前はアタシをKOできても、決して殺すことはできない。堂桜統護はそういう男よ」
 否定できなかった。
 それは常識的な思考であり、安堵するべき回答であるはずなのに、まるで「欠点というべき甘さだ」と、嘲られているように統護は感じる。
「先に仕掛けてきたのはそっちだ。警察は面倒でも、堂桜一族の特殊部隊に引き渡す、という選択肢だってあるんだぜ」
「いいえ、それもないわね」と、オルタナティヴは断言した。
 統護は鼻白む。
「状況は最初からアタシが誘導している。お前に猶予はない。忘れているのなら教えるけれど、急がないと、護るべき姫君の身がピンチかもしれないわよ?」
「ッ!」
 その言葉で、統護の熱くなっていた頭が、一気に氷点下まで冷めた。
 この世界での初戦闘に、つい我を忘れていた。勝ち負けなんて初めから度外視で、とにかく先を急ぐべき立場だったのだ。
「しまったッ!!」
 寝転んだままのオルタナティヴを無視し、統護は再び駆け出した。
 アリーシアがいる方向へ。
 もう時間的に手遅れだとは理解してはいても。

         …

 統護のサポートを請け負っていた淡雪は、兄を見限った。
 もう統護は役割を遂行不能だ。

 堂桜兄妹は、以前から『とあるミッション』を一族本家から課せられている。

 懇意にしているファン王家との約束だ。
 統護が堂桜一族の次期当主としてクリアしなければならない試練でもあった。
 現在の統護は行方不明になっている元の統護とは別人だが、それでも統護がこの世界の堂桜統護として生活していく以上、彼にミッションを継いでもらっていた。
 つい最近まで平穏が続き、ミッションも監視だけで済んでいた。
 ファン王国での内戦勃発から様々な思惑が絡まっている。
 しかも今は緊急事態だ。
 アリーシアを護っている筈のファン王家専属特務部隊から派遣された警護チームは、どういう状況なのだ。こちらがサブとはいえ、少しでよいから情報が欲しい。
 統護が正体不明の同年代の少女と戦闘状況に陥り、容易に抜け出せない状況なのは、軌道衛星【ウルティマ】からの観測情報で把握していた。セーフティを無効化して【DVIS】を破壊させる特異魔力で【魔導機術】を使用不能な、異世界の『別の兄』とはいえ、その超人的な身体能力を考慮して――実務担当を継続している。
 だが甘かった。
 その目論見が、オルタナティヴと名乗る少女によって崩れていた。
 訓練として淡雪との魔術戦闘はこなしていたが、なにしろ統護にとって初の実戦だった。
 近接格闘能力が極めて高かったので戦力扱いしたのが、間違いだったかもしれない。
 フォワードとバックアップという、兄妹のフォーメーションを破棄する決断が必要だ。
 淡雪とて【ソーサラー】として魔術戦闘の訓練は幼少時から積んでいる。
 だが、統護と同様に実戦は未経験だ。
 模擬戦のみで実戦未経験だからといって、もう躊躇いは許されない。堂桜一族の直系として、自分が戦う状況だと判断した。その能力はあると自負している。
 とはいえ、今からでは自らの足で走っても間に合わない。気が付かれない為に、アリーシアと一定の距離を置いているのが徒となった。ここからでは【魔導機術】によって超高速移動するしかない。
 淡雪の専用【DVIS】にインストールされているアプリケーション・プログラムには、低空ならば高速飛行可能な魔術がある。
 電脳世界内の【ベース・ウィンドウ】から【アプリケーション・ウィンドウ】を展開した、その時。
 軌道衛星【ウルティマ】からのエマージェンシー・コールが、淡雪のスマートフォンを掻き鳴らす。警報を確認するまでもない。
 本当は分かっていた。
 実際はとっくに手遅れだ。兄が想定外の戦闘に巻き込まれた、その瞬間から。
 統護は現在も死闘に身を投じている。
 自分も魔術を使用して現場に駆け付けるには、一分近く時間を要する。
 対して、アリーシアの状況は一刻すらの猶予もない。
「どうして?」
 絶望と共に淡雪は両膝を着いた。
 初ミッションに対して、自分の判断ミスがあったにしても、何故エマージェンシーのタイミングが今なのか。もっと早く報せるはずではなかったのか。
 ふと脳裏に浮かぶ、通称――ネコという少女の貌。
 ひょっとして自分は、あの狂人にして凶人に、嵌められてしまったのか。
 ならばあの狂った天才の目的は――?
「助けて、お兄様」
 祈るように淡雪は呟いた。
 その兄が、姿を消している本当の兄なのか、あるいは異世界からの別人の兄なのかは、当の淡雪にすら分からなかった――

 

 

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