アニメを斬る!

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魔導世界の不適合者 ~魔術学科の劣等生~ 第2部(第53話)

 

エピローグ  始まりの笑顔

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 徹夜でアリーシアへの反省文を仕上げた統護の前の、今日の朝食――
 淡雪特製のカレーライスである。
 ちなみに昨日の夕食は、淡雪特製の麻婆豆腐定食だった。
「いただきます」
 今朝も両親は仕事の為に不在で、対面に座する淡雪との食事になっている。
「……」
 淡雪は無言のまま、自分のカレーライスを食べ始めた。
 統護は恐る恐るスプーンの中身を口の中へと運んだ。檄辛――という表現が生ぬるい、口腔が焼けただれそうな痛さである。統護の顔が歪んだ。額から汗が噴き出してくる。
 添えられている、透明なガラスコップの中身はお冷やではなく、熱湯だ。
 みみ架との約束を知ったその日から、淡雪は手製の檄辛料理を出すようになっていた。
 統護も甘んじて食していたのだが……流石に限界であった。
「あのぅ~~。淡雪さん? 出来れば機嫌を直して貰えると、お兄ちゃん嬉しいんだけど」
「私は不機嫌ではありません」
 久方ぶりに淡雪の声を聞いた。
 ふぅ、と小さく吐息をつき、淡雪はポーカーフェイスを緩める。
「充分に反省しましたか? お兄様」
「ああ。凄く軽はずみだった……かもしれない」
「しれない?」
「いえ。本当に軽はずみでした。御免なさい」
 統護はテーブル面すれすれまで頭を下げた。顔を上げて、淡雪の表情を窺う。
 淡雪は苦笑を浮かべていた。
「仕方がありませんね。アリーシアさんと累丘さんの約束については、今後一緒に対策を練るとして。今はひとまず許してあげます」
 対策といっても俺もう諦めたよ……という本音は口にせず、淡雪の機嫌を最優先する。
「流石は淡雪だな! やっぱり特別だよお前は!!」
「昨夜はアリーシアさんに『愛してる惚れ直した』とかぬかしてましたよね、その口で」
「だから盗聴はやめてくれって盗聴は」
 統護は冷や汗をかく。また淡雪が機嫌を損ねてしまうのでは、と危惧した。
 しかし淡雪は苦笑していても、決して怒ってはいない。
「話題を変えますが、もうじきMMフェスタが開催されますのはご存じですよね?」
「ああ。幾つかのイベントには顔を出さなきゃならないしな」
 通称・MMフェスタ。
 正式なイベント名は『堂桜・マジック&マシン・フェスティバル』である。
 堂桜財閥が主催する世界最大の魔術展示会で、二日間の開催期間で国内外から約二十四万人もの来場者が集う。MMフェスタ用のイベント会社も堂桜グループは抱えている。
 統護と淡雪も主催者側のVIPとしての顔出しがあるのだ。
「そのMMフェスタの目玉として、榊乃原さかきのはらユリのライヴステージが急遽、決定しました」
「榊乃原ユリ?」
「知らないのですか?」
 淡雪が目を丸くする。
 統護は首を縦に振った。この【イグニアス】世界と元の世界では、アーティストやアスリートなども含めた著名人はかなり一致しているが、榊乃原ユリという名は初耳だ。
 他にもERENAというニホン初のスーパーモデルも元の世界には存在していなかったが、ERENAについては特別な事情があると理解している。
「生粋のニホン人なんですけれど、ファン王国の方で一昨年からブレイクした歌手です。五年前のデビューで、ニホンではなかなか芽が出なかった実力派だったのですけれど、いうなれば逆輸入での凱旋となる形でしょうか」
 国籍はニホン。年齢は十八才。愛称は『ゆりにゃん』で、ファン王国を起点に世界ツアーを行っているが、芽が出なかった祖国に対しては忌避感が強いのか、ニホンのファンの熱い要望にも関わらず、なかなか凱旋ツアーの依頼に首を縦に振らなかった。
「そのゆりにゃんが、ギリギリでニホンでのライヴを承諾したってワケか」
「はい。関東ツアーだけではなく、MMフェスタにも出ていただけるとの返答が昨晩」
「ふぅ~~ん。で?」
 微かに頬を染めた淡雪は、はにかみながら二枚のチケットを差し出してくる。
「帰国第一弾となる武道館ライヴのチケットです。プラチナチケットですよ。今回の事件での私の頑張りと、累丘さんとの約束との罰も兼ねて――次の休日、私と兄妹水入らずの二人きりで出かけてもらいます!」
 統護は笑顔で快諾した。
 淡雪の喜び様に、徹夜で反省文を書き上げた疲れも吹っ飛んでいた。

 

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 一睡もしていないが、統護は取りあえず登校していた。
 眠気を堪えて、朝一のSHRの開始を待つ。
 担任教師である美弥子が、困惑を隠せない様子で教室に入ってきた。
「え、えぇ~~と。今日はいきなりですが、皆さんに編入生? を紹介します」
 教壇に登ってすぐに発せられた言葉が終わるやいなや、再び教室のドアが丁寧に引かれた。
「――では、どうぞお嬢様」
 ドアを開けて、編入生を恭しく中へと促したのは――燕尾服の青年である。
 その執事を見て、統護の眠気が吹っ飛ぶ。
 見間違いではなく、どう見てもロイド・クロフォードであった。
 事件が終わったらミランダと同じく姿を消す――と言っていた筈だが、ちゃっかり執事として戻ってきている。統護の視線に気が付いても、すまし顔を微塵も崩さない。

 ロイドに促されて美弥子の横へ歩いている女子生徒は、優樹である。

 教室中が騒然となる。
 女顔の美少年であったはずの優樹は、うっすらとナチュラルメイクとルージュを施しており、完璧に『女の子』している美少女であった。
 優樹は朗らかに手を振った。
「やっほー、統護。ちゃんと帰ってきたよ!」
 教室中の視線が、統護へと移動する。
「え? あれ? お前どうして!?」
「法的手続きやデータ改正に手間取っちゃって。それで再登校が今日になったんだ」
「そ、そうか……」
 数年以内に再会できれば、どころか、まさか僅か数日で戻ってくるとは。
 こんなに早く再会するとは夢にも思っていなかったので、統護の思考は停止気味になる。
 彼女は軽やかに一回転してみせた。ミニスカートの裾が、ふわり、と踊った。
「ご要望に応えて、ほらほらボクの制服姿! 似合っている!?」
「あ、ああ! 似合っている、超似合っているよ」
「やっぱりさ。ボクが帰る場所は統護の傍しかないから。ほら裸とか大事な場所とか全部見られているし」
 モジモジと身体をくねらせる優樹。
 周囲の冷たい視線に、統護は全身汗だくになっていた。
 違う。誤解だ。まるで俺が無理矢理見たみたいに聞こえるが、彼女が見せてくれたんだ!
「え、ええと……。あのな?」
「それに大好きだって告白されたし」
 ちょっと待ってくれ。あの告白はそういった意味では……
「たくさんキスもしたし。あ、もちろんボクは初めてだったよ? 統護もだよね?」
「え?」
 訊かれて脳裏に蘇ったのは――ルシアとの濃厚なキスだった。
 優樹の両目がスッと細くなる。
「へえ? ひょっとして、統護は初めてじゃない? ああ、そうそう思い出したよ。あのメイドさんとの会話はやっぱり本当だったんだ。ふぅ~~ん、そうかそうかぁ」
「その、なんだ。今は自己紹介の時間じゃないのかなぁ!」
 統護の声は、悲しいほど裏返っていた。
 クラスメート達――特に女子生徒から突き刺さってくる視線が、軽蔑に塗れている。
 美弥子も不機嫌そうである。
 ただ一人、みみ架だけが机に突っ伏して、肩と背中をプルプルと震わせていた。どうやら腹筋に直撃した模様だ。
(笑いたければ、笑えよ、くそッ)
「ふぅ~~ん。ま、ボクは統護の事情を知っているから、他の子とキスを経験済みでも仕方ないけれど、やっぱりちょっと許せないかな」
 統護は叫びたくなった。仕方ないのか許せないのか、どっちなんだよ!
「……じゃあペナルティとして、一緒にコレに付き合ってもらうよ」
 勝手に話を進める優樹は、統護に向けて二枚のチケットを翳して見せた。
「それは?」
「聞いて驚いて。なんと、あのゆりにゃんの凱旋第一弾のライヴチケットだ! 智志がボクと統護の為に苦労して取り寄せてくれたんだ。次の休日、ボクと幼馴染み水入らずの二人きりでデートしよう! それでチャラにしてあげるよ」
「分かった! デートでもなんでも付き合うから、頼むから今は自己紹介だろ!!」
 軽蔑の視線の群に耐えられなくなった統護は、泣きそうな声で訴えた。
 デートの約束をとりつけた優樹は、黒板に名前を書く。
「漢字は優しいに、季節の季」
 統護に微笑みかける。
「出逢った時、誰かさんがそう言ったから、この字を選んだ」
「お前……」
「継いだんじゃなくて、自分で決めたんだ」
 そして。
 様々な事情があって男の振りをしていたけれど、本当は女の子だったと、偽っていた件への謝罪を言い添えてから――

「――比良栄優季ですっ! 改めてよろしくお願いします」

 向日葵のような笑顔で挨拶した。
 教室中が温かい拍手で満たされる。
 その笑顔に、統護は幸せな気分になった。

 優季の楽しい『本当の』思い出は、今、此処から始まる――

 

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