第四章 宴の真相、神葬の剣 13 ―ヴェール―
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決勝ステージ――屋上には、他の面子が揃っていた。
光葉一比古、芝祓ムサシと渚此花、そして囚われの美濃輪里央、最後に黒壊闇好だ。それぞれが、互いに距離を置いた立ち位置を選んでいる。
里央が言った。
「オルタさんっ!」
涼やかにウィンクをして、オルタナティヴは里央に微笑む。
「もう少しだけ我慢していてね、里央さん。貴女を助け出してみせるわ」
そして一同を見回してから言った。
「お待たせしたわ。どうやらアタシが遅れた所為で、まだ決勝は始まっていない様子ね」
決勝ステージはどんなルールなのか。
三人によるバトルロイヤルか、あるいは二連勝した者が優勝となる勝ち抜き戦(巴戦)か。勝ち抜き戦ならば、3位と4位が先に戦い、その勝者がリーチ状態で2位と戦うという順番になるだろう。
一比古が言った。
「決勝ステージはトーナメント方式になる」
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| ラグナロク・決勝トーナメント |
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| 準決勝第一試合 |
| 1位 アンノゥン 対 2位 黒壊闇好 |
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| 準決勝第二試合 |
| 3位 芝祓ムサシ 対 4位 オルタナティヴ |
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発表された対戦カードに、ムサシが吠える。
「ハッ。やっぱりテメエが1位だったのかよ、光葉一比古ぉ」
「うぅ~~ん。なんだかツマんないオチだったかな」
闇好の声も失望を隠していない。
オルタナティヴは一比古を見た。まだ一比古は自分が1位だとは一言も云っていない。だが、この場にいるメンバーからすると……
一比古は肩を竦めて飄々と言った。
「ああ、これは誤解させたかな。1位は私じゃないよ。舞台が整い、時機は来た。今からMKランキングの不動の1位――アンノゥンが登場する。まさに満を持しての光臨だ」
その言葉の終わりと同時に、扉が開いた。
皆の視線が集中した。
ついに1位が秘密のヴェールを脱いで、姿を見せる――
「ご期待の1位じゃなくて悪かったわね。お邪魔するわよ」
入ってきたのは、みみ架であった。
ムサシが腹を抱えて笑う。
「おいおいおいぃ! 勿体つけた挙げ句、紛らわしいタイミングで邪魔者が登場って、最高のギャグじゃねえか、光葉よぉ」
里央は泣きそうな顔になった。
みみ架は闇好を見ている。いや、睨みつけている。
そして闇好もみみ架を向いて、視線を固定していた。
オルタナティヴは一比古に謝った。
「結果として水を差す格好になって悪かったわ。これって委員長の為にパスコードを温存していたアタシの所為でしょうね。1位の人、かなり登場しにくい雰囲気になったわね」
みみ架は怪訝な顔になる。
「パスコード? 確かに書き置きがあったけれど、何に使うの?」
その返しに、オルタナティヴは唖然となる。
つまり、みみ架は【結界】をフリーパスしてきたのだ。
一比古の声が響く。
「……さてと。ようやく役者が揃ったか。ああ、黒鳳凰みみ架。イベント乱入については、別に気に病まなくて結構だよ。むしろ素晴らしいタイミングで、この場に入ってきてくれて、心から感謝しているんだ」
オルタナティヴは気が付いた。
MKランキングのMKとは、『Mituba Kazuhiko』のMKではなかった。MKとは、すなわち――
「改めて紹介しよう。彼女がMKランキング開設当初からの不動の存在。
――ランキング1位 黒鳳凰みみ架だ」
Mimika Kokuhouou。
自分が1位だと告げられたみみ架であるが、一比古の台詞を綺麗サッパリと無視した。ただ真っ直ぐに闇好のみを見ている。
オルタナティヴは色々な意味で納得した。
(そうか。MKランキングとは、そういった目的だったのね)
そして、もう一名いるであろう『隠れ1位』は間違いなく……
ムサシは意味が分からないと半笑いになっている。
闇好が笑い声を上げながら、漆黒の狐面を乱暴にはぎ取った。
「そっかぁ!! 1位だったんだ! なるほど。利用していたけれど、利用されていたって、なるほど、なるほど。本当の餌は私だったってオチなんだね。あはははははは!!」
似ている。濃い化粧を予め落としていた闇好は、本当にみみ架に似ている。造形は似ているが、みみ架レヴェルの美貌には届いていない。闇好が高校生になる頃には分からないが。
素顔を晒して大笑する闇好に、みみ架が言った。
「ウチの門下生を闇討ちしたケジメ、この場でつけさせてもらうわよ。アンタを徹底的にブチのめして、全ての事情を洗い浚い吐かせるわ」
「望むところだよ。挑発と挑戦状、両方の意味を込めての闇討ちだったんだからねぇェ……
お 姉 ち ゃ ん」
最後の一言と同時に、表示されていた対戦カードが刷新された。
1位と2位のリングネームが本名に換わる。
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| ラグナロク・決勝トーナメント |
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| 準決勝第一試合 |
| 1位 黒鳳凰みみ架 対 2位 累丘琉架 |
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「なんで? どうして」
里央は対峙した姉妹を見て、顔を悲痛に歪めた。
どうして血を分けている実の姉妹が、本気で戦わなければならないのか――と。
それも腕を競うのではなく、潰し合う為に。
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