第三章 戦宴 12 ―臣人VS業司郎③―
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12
先手は臣人だ。左拳を向け、《ビースト・ゲイザー》を再生する。
業司郎は相打ちで相乗双爆発する《ビースト・ゲイザー》で迎撃にきた。
すかさず臣人は業司郎の《ビースト・ゲイザー》を分解して相打ちを阻止する。
だが、分解される事を読んでいた業司郎が、即座に二発目の《ビースト・ゲイザー》を撃った。
間に合わない――と互いに判断した。
共に最速でバックステップして大きく距離を取る。
轟音。強烈に相乗双爆発して一帯の空気を揺さぶる二つの魔術間欠泉。
余波が二人に及ぶが、決定打には程遠い。
今度は業司郎が先に《ビースト・ゲイザー》を撃つ。明らかに押している。
やはり魔術の攻防では業司郎に一日の長だ。
反応が遅れた臣人はストックしてある《ビースト・ゲイザー》を――
再生せずに、脳のRAM領域からデリートした。
以前にはなかった機能だ。以前ならばストック分を再生しなければ、RAM領域のメモリ情報をダイレクトにリセットできなかった。連続で違う魔術を分解しようとすると、どうしても過負荷によるタイムラグが発生してしまった。しかし今は、RAM領域からソースコードを一時記憶領域に待避させて、再び空のメモリ情報を上書きする事によって、ストレスレスかつタイムラグなしでのリセットを実現できる。
相乗双爆発を食らった時に、タイミングは学習済みである。
右手の《キエティハンド》を作動させて、臣人は《ビースト・ゲイザー》を分解した。
シームレスな分解の連発。
と同時に、縮地で距離を消す。
予想外の展開かつデータにはない臣人のスペックに、業司郎は虚を突かれた。
「マジか! こんな隠し球が――ッ!!」
懐に飛び込んだ臣人は両手の【AMP】をロックした。ハンドグリップ型だったが、グリップを固定して拳撃が可能になる。そして左ショートアッパーを繰り出しにいく。
得意の必勝パターンだ。
業司郎は臣人の左を防ごうとしたが、その左はフェイントだった。本命は――右だ。
反対の右拳によるショートアッパーが業司郎の鳩尾に入り、巨体を浮かす。
右構えとは逆パターンの必勝コンビネーションだ。
左のオーバーハンドが、為す術なく宙に飛ばされた業司郎を襲う。
追い詰められ、必死の形相になった業司郎が派生魔術を起動させた。
右腕を巨大な鈎爪と化す派生魔術――《ビースト・クロウ》を、臣人は分解できない。いや、この間合いとタイミングだと、専用【AMP】をロックしていなくとも、魔術の分解が間に合わないのは必至だ。
土壇場での形勢逆転だ。《ビースト・クロウ》が臣人に振り下ろされる。
「最後まで俺様が主導した相打ち合戦だったなァ!」
熱気を帯びた業司郎の雄叫び。
臣人は冷静な言葉で否定する。
「いや、違う。最後の相打ちは、オレが主導して狙ったものだ」
オーバーハンドの左拳が止まる。
左拳内にある《ミスティハンド》のロックを解除して――再生した。
隠していた最後の切り札――以前との一番の違いだ。今の臣人は左目《エレメント・アイ》の視野で捉え、専用【AMP】を握れさえできれば、どんな体勢でも分解と再生を行える。
左拳前面に展開した【魔方陣】が、大きく旋回して向いた先は――足下だ。
残る全ての魔力を注ぐ。
どグゥアぉォオオオオオぉぉおおおおッ!!
二人の足下を起爆点として再生された《ビースト・ゲイザー》が、二人を吹き飛ばす。
ヘヴィ級の巨躯二体が間欠泉に巻き込まれて、派手に打ち上げられた。
完全な相打ちだ。
再びのダブル・ノックダウン。
どうにか意識を繋いだ。臣人は歯を食いしばって、己の四肢に命令する。
しかし大の字のまま身体は応えてくれない。
(立て。立つんだ。そうすれば、オレの勝ちだ)
渾身の一撃だった。相手は間違いなくKOできているはず。
現時点での全力を出し切った。仮に敗北でも悔いはない――が、やはり勝ちたい。
統護との再戦の為にも、出来れば勝ちたいと心底から願う。
臣人の身体が起き上がった。そのまま両足で立つ。
最後の力を振り絞った結果……ではなく、業司郎が臣人に肩を貸して立たせたのだ。
【ベース・ウィンドウ】の魔術サーチと対応の魔術オペレーションが間に合った結果である。
耐え切ったとはいえ、業司郎もボロボロだ。半死半生といっても過言ではない惨状だ。
しかし臣人の巨体を力ずくで引き上げて、支えるだけの余力を残している。
対して、臣人は業司郎に寄りかからなければ、立っていられない状態だ。
(どうやらオレの負けか)
悔しい。臣人はそう感じた。それが自身の成長の証だとは、まだ自覚はなかった。
試合終了の宣言はないが、戦いは終わっていた。
ギャラリーからの歓声と拍手、そして口笛が鳴り止まない。
「ったくよぉ。弟分にこのザマじゃ、俺様の負けだぜ」
サバサバとした業司郎の言葉。
これで勝ちなんてプライドが許さない、と業司郎は一比古に向かって訴えた。
「どう見ても、オレの敗北だが」
「そうでもない。俺様は病院直行で、入院&メンテナンス・コースだぜ」
業司郎はエーヴェルバッハに意味ありげな目を向けた。
エーヴェルバッハがその視線に応える。
「臣人のダメージは一時間もすれば回復するレヴェルだ。むろん入院など必要ない」
「だとよ、光葉」
試合を包括的に判断して、一比古が裁定を下した。
――[ 乱条業司郎 DRAW 氷室臣人 ]
引き分け(ドロー)。その試合結果に、一比古が苦言と条件を付け加える。
『当事者同士の感情を優先しての大甘裁定だ。イベントへの参加資格は『引き分け優勢』として乱条業司郎に、と云いたいところだが、その様子だと参加は厳しいか。よって君たち二人はイベントには招待しない事にするよ』
業司郎が喧嘩腰で言った。
「へっ! もうイベントとやらに興味ねえよ。俺様は今宵のバトルで満腹だぜ♪」
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