アニメを斬る!

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魔導世界の不適合者 ~魔術学科の劣等生~ 第6部(第29話)

第三章  戦宴 3 ―家系―

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         3

「すまないな、みみ架」
 表情を改めた道生は謝罪から本題に入ろうとした。
 みみ架は首を横に振って、否定する。
「むしろ謝るのは私の方でしょ、累丘家の長子としては。……私は法曹界には進まない」
 本当ならば【ソーサラー】になる気もなかった。世間一般に認知されている戦闘系魔術師ソーサラーという区分ではなく、【国際魔術師協会】か【ニホン魔術連盟】に国際資格を発行してもらっての公認プロ――職業魔術師という意味でだ。職にするのは、あくまで【ウィッチクラフター】としてのつもりであった。本に関する職業に就くのが夢だった。もう過去形であるが。
 それが黒鳳凰の名と【不破鳳凰流】継承者としての、累丘の家に対する最低限の義理立て。
 すなわち中立の意思表示のつもりだったのである。
「魔術師であるお前の学力と知力なら、今すぐにでも司法試験に合格できる。法曹界に進まない事は気にするな。累丘としては、むしろお前が魔術師だという事の方が箔になる。黒鳳凰とは違って、累丘側は親類縁者が多いしな。後継者問題なんてない。人材は豊富だ」
 累丘の親戚は従兄弟(従姉妹)やハトコが数多くいる。
 ただし、親戚の子の中で一番の年長者は、みみ架だ。道生は父方の祖父からみれば三男坊なのだが、結婚が早かった為である。まだ父が若いので曾祖父母も健在だ。
 みみ架は苦笑した。
「箔付けとはいっても、正直、魔術師としては凡才以下よ、私」
 近接戦闘で世界最強【ソーサラー】という評価は、あくまで専用【AMP】の《ワイズワード》の使用と【魔導武術】という変則的な戦闘スタイル――実戦での戦闘能力のみが対象だ。純粋な魔術師としての評価は、お世辞にも高くない。強さはあくまで評価の一面である。
 道生が不思議そうに訊いてくる。
「それって実力を隠しているんじゃなくてか? お前、天才だろう」

 魔術師とは、本来ならば世間から隠れて存在する『神秘の探求者』――つまり研究者だ。

 それが、産業革命に次ぐ歴史の転換――【魔導機術】システムの開発と実用化および普及によって、魔術師の在り方が大きく変革した。
 近代魔術師という定義の誕生に従い、従来の『神秘の探求者』は古代魔術師――【メイジ】という名称で一括区分されたのだ。
 しかし、古代魔術師とは別存在と区分されたとはいえ、古代魔術師と同じく『実力と研究を秘匿する』近代魔術師は多いのである。
 少なくとも学校での座学試験は、大半の者が本来の実力を隠したフェイクの結果だろう、と教育体制サイドも結論付けていた。生徒等は勉学ではなく専用【DVIS】の獲得、卒業に伴うライセンスの取得と、実技訓練や【魔術模擬戦】を目的として魔導科に通学しているのだ。
  逆にいえばライセンスや同年代との研鑽を望まねば、従来通りに社会から完全に隠匿した形で存在している魔術師もいるだろう。ただしその場合は、専用【DVIS】とシステム用IDの取得を裏ルートに頼らなければいけなくなるが。
 魔術の台頭と発展に合わせて世界と人類は変容した。
 それまで生涯秘匿していた己の天才性を、周囲に明かす者が増えていったのだ。
 古代魔術師と近代魔術師に再再定義された頃がターニングポイントだろう。
 そして近代魔術師の教育と社会的保護の為に、堂桜財閥が主導して、学校に魔導科(魔術師科)が設立されていく。
 魔導科の門を叩く為に隠れていた天才が湧き出すように現れて、当時は【魔導機術】の発展以上に社会が混乱したと世界史に記されている。
「お前だったら、高校のテストくらいなら全部満点、楽勝のはずだ」
 みみ架は正直に答えた。
「ペーパーテストに関しては、分相応に手を抜いているかしら」
 そういえば父は魔術師や魔導科についての常識を知らないのを思い出す。
 たとえ父と娘であっても、魔導に関しては可能な限り秘密にするのだ。
 堂桜による【魔導機術】が発展する前の時代――古代魔術師がメインだった頃は、魔術といえば欧州がメッカであった。
 その名残が強いのか、欧州の魔術師家系は親子単位で代々魔術理論を継承していく【家系型魔術師】の方が一般的である。けれど欧州以外の魔術師は【陰陽寮】の流れを汲む一派以外は、本人一代限定の魔術理論――【一世代型魔術師】が世界的にメインだ。親と子が魔術師であっても二人は独立した魔術師であり、彼等が研究・開発した魔術理論に繋がりはない。
 世界的に名だたる堂桜一族も、戦闘系魔術師ソーサラーとしては【一世代型魔術師】の集まりだ。
「そこ、俺は疑問だなぁ」
「全力を出せば、高校レヴェルのテストだと、ペーパーならば全員が満点っていう困ったオチになるのよ。それじゃ、試験としての体裁と格好が付かないし、無理矢理に差を付ける為にテスト内容が超高度化しても、生徒側にはメリットがない」
 だから不文律として、魔導科の生徒は各々の立ち位置に相応しい点数に調整するのだ。
 魔術師としての理論・才覚・実力の格付けは、互いに日々の研鑽の中で繰り返している。
 つまり現在の学年主席である証野史基は、魔導科二年の中で一番の魔術師と皆に認められているからペーパーテストで満点一位を取って『よい』のである。次席の者は史基より点数を取ってはならないのだ。つまり意図して史基の満点以下に点数をセーブしているのだ。三位の者も同様に二位よりセーブする、という風に、各々自分の格付けに準じた点数と順位にピタリと結果を照準して合わせる。
 よって一位から最下位まで、毎回テストの点数が同じという珍妙な現象が起こる。
 むろん建前――表向きは全員が精一杯頑張った結果という事になっていた。
 少なくとも学校側・教師陣にはそう言い通している。意図して点をセーブしているとは認めていない。ただし事実上はバレており、長年の慣習として黙認されているだけだ。
「……一般の生徒からするとバカバカしい事、この上ないでしょうね。けど、それが魔術師の世界であり常識なの。まあ、アメリアにある一部の学校では開き直って『全員満点や筆記試験パス』というところもあるらしいけどね」
 要するに、本気の序列と結果が示されるのは実技試験のみ――という事である。
「理解はできるが、ナンセンスだとも思うな」
「絶対に口外しないでね。公然の秘密に近いけど、公式発言だと色々と面倒になるから」
「分かった。こういう事実は親としては複雑だが。違う世界の事だと納得するしかないか」
「仮に不文律を破って格付けに従わない点数を取ったら、その者は魔導科にいられなくなるわ。ああ、そういえば、たった一人だけ点数調整ができない劣等生がいたわね」
 思い出して、みみ架はクスリと笑む。
 魔術が使用できない時点で、序列は最下位――というよりは、評価対象外の劣等生。
 その劣等生は学力も平均以下で、むろん点数調整なんて芸当はできなかった。
「点数調整に関係なく結局、魔導科目系だと順位は最下位だったわ……」
「お前の彼氏って、そんなに勉強できないのか?」
「ウチの学校なら偏差値は普通科でも下から数えた方が早いでしょうね。【聖イビリアル学園】は魔導科以外も名門だから。都内の平均的な学校なら劣等生って程には酷くないわ」
「魔術使えないのに天才揃いの魔導科って、不幸な話だよなぁ」
「彼だって普通科に移れるものならば、そうしたいでしょうけどね。堂桜財閥本家の長子としては、形の上だけでも魔導科を卒業しなきゃならないのよ」
 実際、堂桜統護は成績不十分で、このままでは三年に進級できないのは確実だった。
 劣等生を通り越して落第生というのが実情である。
 確実視されていた留年を回避する為の特別措置として、統護は過日の対抗戦に運営側の要求に乗って参加したのだ。その結果として進級の確約は得ている。
「ハッキリ言って『世界最強の男』とか《デヴァイスクラッシャー》の異名と、彼の魔術戦闘の戦績が魔術師界で広まっているから、首の皮一枚で堂桜財閥の面子を潰さないでいるってだけ……というのが実相よ」
 しかし、統護の魔術戦闘の映像データ(彼の秘密を誤魔化す様にルシアによって改竄)が、堂桜上層部の意向によって流布されている代償として、魔術戦闘に興味のない世間の一般層から、統護は『劣等生な成績を誤魔化して鬱憤を晴らす為に、魔術戦闘の戦績を自慢する金持ちの喧嘩DQN』という、身も蓋もない悪評を浴びている。
 劣等生であっても魔導科では、それなりに一目以上は置かれている統護であるが、逆に魔導科以外の生徒が、統護を殊更に白眼視しているのだ。
「お前はそんな劣等生がいいのか。あまり好い噂は聞かないぞ」
 悪評だけだと正直にいえばいいのに、とみみ架は思った。
 喧嘩DQNというだけではなく、金持ちボンボンが色んな美女をハーレム化して侍らせている――と、統護は陰口を言われまくりだ。通称『堂桜ハーレム』である。
「美点なんてほとんどない男よ、彼。家柄を除けば、彼本人の評価って、世間一般の価値観でいえば、格闘家でもないのに喧嘩が世界一ってだけの劣等生だもの。特に女性関係に至っては、優柔不断なせいで大変な状況から後に退けなくなっているしね。私は、いえ仲間達も気にしてないけど。私は彼を通じて仲間を得る事ができて、むしろ感謝している」
「そんな事を嬉しそうに言われてもなぁ……」
「何よ?」
「大財閥の御曹司を掴まえたってハーレムの一人っていうのなら、貧乏な家の無能な男でもいいから、お前だけを実直に愛してくれるヤツの方が親としてはいいんだが。その御曹司にしたって世界最強の劣等生という、なんか微妙なヤツだし」
「お生憎様ね。惚れたのは私が先なのよ」
 強さ以外にある統護の唯一といっていい美点は、自分が理解していれば、それでいい。
 自分が理解して、自分が愛せれば、他人の理解や評価はどうでもいいのだから。
「諦めちゃいるがね。大人しくお前の意志を尊重するよ。お前が幸せなら、それでいい。俺と弥美の結婚はもっと酷い経緯だったし、人様の恋路は非難できないからな」
「話、本題から逸れているわよ。それから、もっと前を見るか速度を落として」
 セーフティ用の汎用魔術が掛かっているので事故は起きない。起きないが、危険な状況になると、途中で運転操作が魔術制御に切り替わり強制停車という失態を晒す羽目になる。
 道生は素直にスピードを抑えた。
「――俺には、父さんには、黒鳳凰の事は分からない。堂桜統護くんとの約束とか、次代の話もそうだ。家族とはいっても部外者に近い。だから母さんの言いなりだ」
 苦いを通り越して苦渋の口調であった。
(言いなり……か。でしょうね)
「弟子は多いけれど、継承者は一人だけの一子相伝だもの黒鳳凰は」
「惚れている弱みでな。本当なら俺はアイツの夫としてだけではなく、お前の父親として弥美を叱って色々と修正しなきゃならない。でも、できないでいる。ずっとだ。できないまま、ズルズルとここまで来てしまった。一番間違っているのは俺だと分かっているんだよ」
 弥美――累丘弥美。みみ架の母親で弦斎の娘だ。
 そして【不破鳳凰流】を継承できずに、黒鳳凰に『なれなかった』女である。
「仰々しいというか、複雑というか、黒鳳凰側でみれば一子相伝の核家族に近い血族なのに、累丘側からみれば親戚大勢という大所帯なんだから、お母さんの累丘家への嫁入りって皮肉だったわ」
 道生が婿入りではなく、弥美が嫁入りとなった結果、二つの家は断絶している。
 間に入っている孫のみみ架が唯一の接点で繋がりだ。
「また話を逸らして悪いが、親父とお袋、それから祖父ちゃん達と祖母ちゃん達が、お前に会いたがっているぞ。兄貴達や従姉妹のみんなもだ。弥美を強奪した手前、弦斎お義父さんは悪く言えないがな。今年の正月は、どうにか都合つかないか?」
「あの糞ジジイ、私を独占して恨まれている? そうね。曾祖父ちゃん達、曾祖母ちゃん達、そしてお祖父ちゃんとお祖母ちゃんのところには、近い内に顔を出すわ。正月は悪いけど無理ね。道場の正月イベントも含めて、黒鳳凰の当代としてのお偉方への挨拶回りがあるのよ」
 父方の曾祖父母には、昔から可愛がってもらっているのに、寂しい思いをさせている。
「そうか。正月は仕方がないか。で、だ」
「ええ。例の写真と動画。そしてお父さんがこちらに出向いたという事は、動き出したって事なんでしょう? お母さんは知っているの? お父さんが私とこうして会っている事」
「俺の独断で、母さんは知らない。知らないと思う」
 みみ架は冷徹な口調で父親に命じた。
「話せるだけ話して。お父さんが知っている範囲だけでいいから」
 覚悟は固めていたが、ついに動き出したか。
 よりにもよって、こんな立て込んでいる時に。みみ架は軽く下唇を噛んでいた。
 脳裏には、ある少女の挑発的な笑顔が浮かぶ――

 

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 かきィ~~ん! という爽快な音を残し、白球がスタンドに消えた。
「ちぃぃ~~ッス! いったぁ!! 待望の勝ち越しランホームランだよ!」
「ぁぁああああああっ。つ、ついに打たれた」
 痛恨の失投だった。里央はガックリと項垂れる。コントローラーが手元から滑り落ちた。
 対して、レフトスタンド上段に特大ホームランを叩き込んだ闇好は大喜びだ。
 八回表で2対1となった。
 わざわざ断るまでもないが、二人は野球ゲームをしている。『盛況! パラレルプロ野球』だ。通称『パラプロ』。パラレルとかいいつつ、実在のプロ野球選手を使っている。
「流石はトリプルスリーを達成しただけはあるね!」
「くっ。男気溢れる熱投だったのに」
「ニホンでもムエンゴ(無援護)病、メジャーでもムエンゴ病。ここまでくると男気さんのムエンゴ病は不治の病だよね。あははは」
 高確率で打線の援護に恵まれないご本人にとっては笑えない話であろう。
 とはいえ、ムエンゴ病を超えるミラクル記録もある。防御率一点台で負け越すという、信じられない成績を、某巨人のエースが残した。防御率二点台ならば、対戦相手のピッチャーや打線の調子との巡り合わせで、まれに負け越しもあるが、流石に一点台の防御率で負け越すのは、ある意味『逆方向での大記録』である。
 里央は男気ピッチャーのステータスを確認した。
 案の定、[ 無援護 ]という表示が。味方バッターの能力が二割減になっている。道理で味方打線が振るわないはずだ。もっともバッターを操作しているのも里央であるが。
 勝ち越しを許してしまった里央の額を、ハナ子が嘴でつついた。
 もちろんハナ子は里央の頭上にいる。
「痛い痛い、痛いって! 怒らないで、ハナ子」
 里央が闇好に浚われた日の夜に、ハナ子は宿泊先のビジネスホテルに飛んできた。
 来たのはハナ子だけだ。
 言質通りに里央奪回の襲撃はない。この場所はエレナ――というか堂桜側も把握しているが、里央奪回に動くのはMKランキングでというエレナの意思表示である。美濃輪家が捜索願いを出していないので、決して騒ぎは小さくないが警察側も自重となっている。
 試合は、そのまま里央が負けた。
 部屋のTVモニタに無線接続していたノート型PCを、ゲームモードから執筆モードに換えた闇好が訊いてきた。
「里央ちん。勉強はいいの?」
「大丈夫。さっきで終わらせたから。闇好ちゃんは?」
「気分転換も終わったし、今から『なるぞ』の更新分を書こうかな。里央ちんは?」
 里央は「どよぉ~~ん」という暗黒オーラを漂わせる。
「だって感想欄がトンデモになっているんだもん。ミミからも『駄作』って書かれているし。そりゃ内容ペラペラで下手くそなのは自覚あるけど、やっぱり凹むよ。トホホホ。書いているこっちは所詮は『なるぞ小説』ってつもりなのに、一般小説と比較されても」
 それでも律儀に感想欄に目を通しているところに、里央の性格が表れている。
「だけどポイント、十万点に伸びているじゃん」
「注目さえされれば、大体はポイントブーストするもん。今の『なるぞ』だったら」
 逆にいえば、たとえ内容が傑作や佳作であっても、ランキングに載るか、外部でピックアップされなければ、人目に触れずにポイントは低いまま、というのが現状でもある。
 それだけではなく、評価ではなく『応援の意味』で評価ポイントを気軽に振ってくれる読者層が偏っている事もあり、ランキング傾向はかなり歪化していた。
 ちなみに『お漏らしJK探偵~』には、複数の出版社から書籍化の打診が来ている。しかも海外の出版社からもだ。これだけ話題になり高ポイントならば当然だ。
 出版すればきっと売れるだろう。読者レビューでサンドバッグになるのは必至であるが。
「エタらないけど、もう当分は更新しないでいいや」
 投げやりな里央に、闇好が真面目な顔で言う。
「気にしないでいいって。里央ちんの駄作とどっこいどっこいの駄作だって、累計ランキングには一杯あるし。というかね、里央ちん。他人から見れば未熟な駄作でも、WEB小説仲間から見て楽しめる駄作だから人気出るってのが、WEB小説が発展した一番の理由だよ」
「まあ、分かっているけどね」
 秀作・傑作・良作という高クォリティーの作品しか人気が出ないのならば、初心者が投稿しにくくなり、サイトに作者が集まらなくなる。
 反面、初心者でも書きやすい『テンプレ』と呼ばれる傾向が強くなるデメリットもあるが。
 総合ランキングに様々なジャンルが顔を出すようになれば、投稿者全体のレヴェルは上がる。
 だが初心者にとっては色々と厳しい環境になる。最悪で初心者お断りになるだろう。
「書籍化して人気のモンブラン先生に言われてもなぁ」
「私が長期的に商業で通用するわけないじゃん。自慢じゃないけど『なるぞテンプレ』以外なんて書けないし、テンプレ外のオリジナルを書いても大惨事な出来にしかならないって。他の累計作者も、同じ人が多いと思うよ。テンプレ外の投稿作だと人気サッパリだから」
 闇好がキータッチする指を止めた。
「へえ。MKランキングのイベントが色々と変わりそうだよ、里央ちん」
「変わる?」
 執筆しながら闇好が覗いていたネット情報を里央に見せる。
「うん。里央ちん争奪杯の賞金二千万が効いたのか、参加希望者が膨れあがっているって」
 それに加えて、世界一のスーパーモデルであるエレナが起こした騒動で、MKランキングが実在していると一気に周知されてしまった影響も大きかった。
 急遽の参戦希望者が集って、一部ではランカー狩りまで起こっている始末らしい。その結果、ランキングが変動しまくっている。とはいえ、10位以上は変わっていないのは流石だ。
 闇好がほくそ笑む。
「これは私にとって、もっといい餌場になるかな? MKランキングは」
 どこか暗い闇好の横顔に、里央は心配そうに問いかける。
「ねえ、闇好ちゃん。私はもっと違うやり方があったんじゃないかって思うんだけど……」
 何となくであるが、闇好の真の目的は察していた。闇好は教えてくれないけれど。
 闇好の言葉が冷たくなる。
「ふぅん? 堂桜エレナは責めないで、私は責めるんだ? やっている事は同じじゃんか」
 明白な拒絶感だ。
 けれど里央は引かない。怯みもしない。友達だと思っているからだ。
「だってエレナさんとは事情が違うっぽいし。それに本名、教えてくれないしさ。私とエレナさんはきちんと話し合って、その上で友達として協力したんだよ、闇好ちゃん」
 闇好は素顔も見せてくれない。ずっと年齢不相応な濃いメイクで素顔を隠している。
 けれど、その造形というか、面影は――
「まだ本名は言えない。その時になったら私の正体、教えてあげるよ。きっと驚くよ。いや、里央ちんの顔からしたら薄々察しているのかな? とにかく『その時』まで待って」
 そうしたらさ、と闇好が一拍置いた。
 次いで真剣な口調で言う。

 ……堂桜エレナと同じく、本当の私と『本当の友達』になってよ。

 悲しい呟き。里央は固唾を飲む。
 人質役をやっているつもりだが、闇好にとって自分は『本当の人質』なのだと。

 

 

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