第二章 スキルキャスター 10 ―黒壊闇好―
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ヒャァッハァーーッ!! 最高の快感だ。これぞまさしくエクスタシーである。
ムサシはラッシュの最中、脳天を貫く快楽によって盛大に射精していた。戦っている途中から、股間はギンギンに勃起しっ放しである。
弱い雑魚相手ではなく、強敵をブッ倒す事が、こんなにもキモチイイだなんて――
雑魚狩りはツマラナイ。やはり倒すのならば、強いヤツに限る!
ニィタァぁ、とムサシは残忍に笑む。口からは粘ついた涎が飛び散っていた。
完全にハイになっている。
右拳を脇へ引き絞る。コレで終わりだ。死ねやぁエセ執事さんよぉ。
「……そこまでだ」
いつの間にかムサシの背後をとっていた一比古が、ムサシの右肩を極めて、拳を止めた。
反射的に、背面狙いで左後ろ回し蹴りを繰り出すムサシ。
それを飄々とした動きで避けた一比古は、呆れた口調で忠言する。
「死んでしまう。やり過ぎにも程がある」
「邪魔すんなやクソがぁ」
狂乱とした双眸でムサシが睨み付けるが、一比古は意に介しない。
「事前に教えただろう。ロイド・クロフォードは比良栄優季の執事だぞ。殺害してしまえば、揉み消すのは、いくらこの私でも不可能だ。君は、まだまだ強い相手と戦い、そして強くなりたいのだろう?」
そう言われてしまえば、否定も拒否もできない。
ムサシは渋々とだが〔スキル〕――《ミッドナイト・ダンシング》を解除した。
どさり。解放されて落ちたロイドの身体が、アスファルトに転がった。
コイツのお陰で新しい〔スキル〕を追加できた。満足である。
歯応えのない雑魚を殺すのは、もう止めだ。率直に飽きた。
この異世界に転生させてくれた〔神〕と約束した一名を最後に、雑魚殺しは卒業する。名前は思い出せないが、確か変わった名前だった。〔神〕はムサシが探さずとも、いずれは自然に遭遇し、『その時』が来れば思い出す――と云っていたから、別に心配はしていないが。
強くなって、強くなって、強くなって、その暁に強者だけを殺す。
MKランキングはその踏み台だ。光葉一比古も此花同様、利用してやる。
「フン。気に食わねえが、もっと強いヤツと戦れるっつーのなら、今だけはテメエに従ってやるよ。その代わり、MKランキングとやらの戦闘系魔術師が弱かったら、テメエ、どうなるか分かっているんだろうな?」
(テメエの尻尾を掴んだら、絶対にブッ殺してやるからな)
それまでは生かしておいてやる、と内心で呟いて、ムサシは踵を返した。
一比古はスマートフォンを取り出して、救急車を手配する。
彼の息がかかっている病院――【ソーサラー】同士の私闘による負傷に融通が利く病院を、搬送先に選ぶ様にという指示を添えた。
この手の荒事を表沙汰・警察沙汰にしないのは、一比古の得意分野である。
「それじゃあ君達は帰るといい。事後処理は私の仕事だ」
そう言われて、ムサシと此花は現場を去った。
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…
スマートフォンに配信されてきた映像を観て、エレナは溜息をついた。
(これは光葉から私に対する挑発……でしょうね)
一部の者達への特別配信。外部への漏洩厳禁。そう但し書きされていた映像内容は――
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| 芝払ムサシ 対 ロイド・クロフォード |
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MKランキング公式戦ではなく、日頃から散見される【ソーサラー】同士の私闘だ。
ランキングは毎日ゼロ時に更新される。
この戦闘内容を評価されて、芝祓ムサシはMKランキング10位にランクインしている。
エレナは9位から7位にランキングを上げていた。
二戦二勝のレコードでの7位なので、相当に試合内容が評価されての結果だ。
3位と4位も入れ替わっている。3位が4位に、4位が3位にだ。羽賀地岳琉は12位から9位。通常ならばランキング戦で負けるとランクは下がるのだが、エレナとの試合内容が好評で一桁ランクに復帰した。イベント参加への査定試合でエレナに敗退したが、観客の要望で彼もイベントに参加する事になるだろう。
上位ランカーの変移を確認すると、割と頻繁に入れ替わっている。実力者同士・上位同士での潰し合いも珍しくないので、試合数を消化すると、強敵を避けない限り上位ランカーでもそれなりに敗戦が多くなる。
不働は『アンノゥン』扱いにされている1位のみだ。
ここ二ヶ月で順位が変わっていない上位ランカーは、なんと僅かに一名。
いきなり5位を倒してトップテンに登場、そして瞬く間にランキングを駆け上がると、二日で順位を固定させて維持し続けている。
MKランキング公式戦で、十八戦十八勝無敗の戦績。それも噛ませ犬や格下相手の『雑魚狩り』による勝ち星稼ぎ、いわゆる『作られた戦績』ではない。対戦相手の質が高いのだ。仮に五十戦全勝でも『雑魚専』の戦績ではランキング上位には食い込めない。
ランキングは戦績ではなく、対戦相手の強さと試合内容の反映が優先されているのだ。ボクシングでも世界戦まで『相手を選んだ』無敗の戦績で到達できても、いざ本番――世界タイトルマッチでチャンピオンにまるで歯が立たず、メッキが剥がれるというケースがある。それに情報化社会の現代では、百戦全勝でも雑魚狩り専門だと『誰にも勝っていない』『価値のない戦績』と酷評されてしまう。
要するに『強さ』とは、誰と戦って、どんな戦いをしたのか、という事だ。
最強とは、其の者の能力よりも『相応の強敵に勝ち続けた』証とも言い換えられる。どれだけ能力が戦力として備わっていても、能力に見合った強敵と戦わなければ無用の長物だ。
オーバーパワーやオーバーキルが『低脳の所行』と揶揄されるのに似ている。
まだ参戦して二ヶ月のルーキーにも関わらず、現在のMKランキングで最強――との呼び声が高いそのランカーとは。
ランキング2位――黒壊闇好。
大人ではなく少女だ。中学一年生の十二歳とプロフィールに記載されていた。
付けられた異名は《漆黒の破壊者》である。
変わっている名前からして本名ではなく、リングネームだろう。
(へえ、興味が湧いたわ。どれ程のモノかしら)
あくまで目的は光葉一比古であり、対戦相手には大して期待していなかった闇ファイトだったが、この堂桜エレナが本気になるのに相応しい相手かもしれない。
エレナは闇好の試合映像を確認しようと……
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