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魔導世界の不適合者 ~魔術学科の劣等生~ 第2部(第42話)

 

第四章  破壊と再生 15 ―みみ架VS【パワードスーツ】隊③―

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         15

 みみ架は黒い疾風と化した。
 生死を賭けた戦い――初となる実戦への畏れはない。むしろ凄絶に笑んでいる。
 さあ、己の強さを確かめよう。
 四機の【パワードスーツ】の連携がもっとも困難な位置を即座に看過して、最速の速度で確保した。
 そして足を止めると、四機をグルリと鋭く睥睨する。
 素人目には、四方を囲まれて絶体絶命。
 だが――
 背後の一機がアームを構えて、みみ架を銃撃しようとした。
 同時に、みみ架は《ワイズワード》から数本の疑似ワイヤを飛ばし、銃口を向けた【パワードスーツ】の腕と、左膝と逆の肩を絡め取って、震脚と共に『勁』を送った。
 最新技術で極限まで軽量化されているとはいえ、総重量四百キロ近くもある大型【パワードスーツ】が、瞬間的にとはいえ、人の膂力で体勢を崩された。
 刹那の差。
 ガガガガガガガガガガガッ!
 逸れた弾丸は、みみ架ではなく他の機体へと降り注ぐ。
 むろん【パワードスーツ】の装甲は、その程度ではダメージを受けない。搭乗者が反応できなくとも、自動的に前面カバーが閉じて弾丸を防ぐのだ。
 一方、味方を銃撃してしまった機体は、自動姿勢制御によって体勢を戻そうとした。しかし動揺している搭乗者は、その動き過敏に反応してしまい、機体のコントロールを失った。
『弾は撃つな!』
 リーダー機からの命令が残響する中。
 みみ架は二度目の『勁』を疑似ワイヤに送り、【パワードスーツ】のモーター力を逆利用して、機体を高々と投げ飛ばしていた。
 弾丸が止み、前面カバーが左右に開いた機体の前。
 疑似ワイヤを【AMP】へと戻し、今度は棍棒を出して刺突の構えをとった、みみ架がいる。
 いつの間に? という疑問を抱くのが搭乗者の最後の思考となった。
 搭乗者が無反応なので、前面カバーが再度閉じようとした。
 ズン。
 だが閉じきる前に、みみ架の棍棒の突きが搭乗者の喉元に炸裂し――意識を断った。
 弁慶の立ち往生さながらの機体を楯代わりに、みみ架は位置取りを変える。
 残り二機の【パワードスーツ】が、みみ架に殴りかかってきた。
 自然界の獣や既存の【ゴーレム】とは比較にならない、圧倒的なスピードとパワー、そして切れのある挙動である。
「いくら速くて正確でも、動きが単調かつ稚拙ね」
 みみ架は舞いを踊るような典雅な足取りで、次々と鋼鉄の拳を捌いていく。
 傍目には決して速くない。
 だが、【パワードスーツ】の搭乗者の目は、蜃気楼のごとくみみ架の姿をロストしていた。自動照準補正機能でさえ、正確に捉えられない不可思議な現象が起こっていた。
 必要以上に速く動かずに、効果的により速く錯覚させる。
 これぞ【不破鳳凰流】運足――《陽炎》。
 倒した一機をブラインドとして利用した巧みな位置取りも合わさって、みみ架は相手に擦ることすら許さない。
「所詮は機械ね。これでは【ゴーレム】と大差ないわ」
 みみ架は物足りなさすら覚えていた。
 バキン、という耳障りな金属音が鳴る。
 殴りかかった【パワードスーツ】の腕が、逆関節に折れていた。
 パンチを紙一重で躱したみみ架が、《ワイズワード》からの疑似ワイヤと背中からの体当てによって、テコの原理とパンチの反動を利して、肘関節のマニュピレータを破壊したのだ。
 一機が損傷したのを見て、リーダー機が命令を発する。
『人質を殺せ!! ガキの一人でいいから、見せしめだ!』
 そのマイク音声に、孤児達の悲鳴が被さった。
 すぅ――と、みみ架の両目が細められる。
 建物のベランダ側に陣取って人質を見張っていた機体は――動かない。
 正確には搭乗者が、強ばった表情になって固まっていた。
『何をしている! 殺せ!! この女、俺達が人質を殺せないと舐めているんだよッ!』
 それでも人質を見張っている【パワードスーツ】は動かない。
 そして他の二機も動きを止めていた。
「正解よ。貴方達は人質を殺せないと、わたしは舐めているわ」
 最初から撤収に関して他力本願だった彼等に、そこまでの覚悟などあろうはずがない。
 彼等が人質に手を掛けるとするのならば、自棄になった時だ。
 その一歩手前で、必ず躊躇の間が発生する。
(きた)
 みみ架はこの時を待っていた。
 再び最速で動く。
 氷上を滑るような超速のフットワークだ。
 搭乗者が気絶している機体の背中に回り込み――《ワイズワード》からの疑似ワイヤで自身を複雑に縛り込むと、複数の先端を蜘蛛の巣を張るように地面へと打ち込んで固定する。
 こぉぉッ……と、深く鋭い呼気を吐き、『氣』を練り上げた。
 とん。軽く握った左拳を機体へと添えて、左足で豪快な震脚を踏み落とす。半身でガニ股になっているフォームは、武術特有の順突きだ。
「【魔導武術】――秘技」
 派生魔術用の【ワード】は、イコール己を鼓舞する業名でもある。

「――《ワン・インチ・キャノン》!!」

 妙技が魔術として発動。
 みみ架の胴と四肢を拘束していた疑似ワイヤが、挙動と連動して一斉に引き絞られて、機体から跳ね返ってくる反作用力を地面へと伝達し、再度、みみ架の左拳一点へと弾き返した。
 ワン・インチ・パンチ――寸勁と云われる打撃の魔術強化ヴァージョンだ。
 人間一人分の重量では、寸勁による機体からの反作用力に物理的に負けてしまうが、魔術により重量不足を補ったのだ。
 ガカァァアアアアアァァン!
 左拳からの発勁が、多重に増幅して炸裂した。
 ぶぅぅぅん。鐘を打ち付けたような甲高い音を残し、大型【パワードスーツ】が吹っ飛んでいく。吹っ飛んだ先は、人質を見張っている機体であった。
 ゴギャァンンン!! 大型機同士が激突。
 人質を見張っていた機体は、四肢を踏ん張って辛うじて転倒こそ防いだものの、瞬間的にかかった過負荷により各間接部のマニュピレータがロックされる。
 みみ架はすでに次のアクションへと移行していた。
 目で見て確認するまでもなく、【ブラッディ・キャット】の三名がフォローに入って、人質を解放している手筈だ。
『こンの女ぁぁあぁああああぁっ!!』
 吠えながらリーダー機が殴りかかってきた。
 遥か頭上から振り下ろされてくる鋼鉄の拳は、みみ架をロックオンしていた。
 みみ架はその拳へ、右手を翳す。
 再び脇下へ収めている特殊ホルダ内の本から、白い疑似ワイヤ群が高速で展開された。
 先ほどと同様に、みみ架の身体を地面に固定するだけではなく、右手に絡みついた疑似ワイヤは【パワードスーツ】の手首へと巻き付いた。
 その一瞬後。
 華麗に身をひるがえしたみみ架は、反転動作と共に右腕を振り下ろす。

「【魔導武術】――秘技《天空投げ》!」

 リーダー機は錐揉み回転しながら、頭部を下にした姿勢で宙を舞っていた。
 マイク音として意味不明な絶叫が拡散されていく。
「はぁッ!」
 気合いと共に、ゴォン!! と轟音が鳴る。
 落下してきた鋼鉄の背中へ、みみ架はとどめの発勁を打ち込んだ。相手が人の身であれば、勁椎か脊椎に致命的な損傷を与えていた『殺しわざ』である。
 地滑りしながら離れていく黒い機体。
 三機が停止状態になり、残機の【パワードスーツ】はもはや戦意を喪失していた。
 警察の突入部隊が、ようやく意を決して飛び込んできたが、その必要すらない状況だ。
 リーダー機の人質殺害命令から、僅かに――五秒。
 総戦闘時間ならば、十八秒という圧巻劇である。
 あっという間に二機を屠ると同時に、人質救出の機会を作り出したみみ架に、締里は戦慄を隠せなかった。
 神掛かり的な強さ。
 締里が敗北した【エレメントマスター】とは別種の到達点である。
 何でもありの魔術戦闘とはいえ、生身で【パワードスーツ】と格闘戦をしたのだ。こんな非常識な真似は統護にだって不可能である。
 しかも圧勝だった。
「し、信じられない……。魔術戦闘においてこんな戦闘スタイルが成立するなんて」
 そんな呟きなど露知らず、みみ架は小さく首を傾げた。
 想定よりも相手が弱すぎる。確かに機体性能は、従来機よりもワンランク上なのだろう。
 しかし、この程度の代物ならば真っ当に開発できるはずだ。
 まして即席で養成された素人パイロットを搭乗者に選び、テロ行為という形で実戦テストを行う必要性が希薄に感じられた。
「……どうしてコレを違法経路で開発する必要が?」
 事件解決の歓喜に沸く中、嫌な予感に、みみ架の胸がざわついた。

 

 

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