第四章 破壊と再生 10 ―要求―
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那々呼のアパートに到着した統護を待ち受けていたのは、ルシアではなかった。
メイド少女の姿はなく、代わりに【ブラッディ・キャット】の隊員三名が待っていた。
彼女達の服装はアパートの住人としての普段着ではなく、部隊の制式装備である真紅のロングコートと、特徴的なヘッドマイクで統一されている。
確かに見覚えがあったが、統護には最初、彼女達が誰だか思い出せなかった。
アパートの住人として見た時には、どこにでもいる普通のOL、女子大生、女子高生としか認識できなかったが、今の彼女達は規格化・画一化された二十歳前後のアンドロイドのように感じられた。あえて表現するのならば、ルシアの下位互換のようである。
「その格好……。なにがあったんですか?」
「緊急事態です」
三名はメイ、アン、クウと名乗り、統護を205号室へと促した。
そして統護は、優樹とロイドによる那々呼強奪を知らされた。
同時に、優樹が【ナノマシン・ブーステッド】であった事と、彼女がルシアと交戦して半死半生である事も。
口伝だけではなく、映像データも全て開示された。
優樹とルシアの戦闘シーンを見せられるのは、正直いって辛いどころではなかった。
「くそっ! なんだよそれ」
「落ち着いて下さい、統護様」
「分かっているが、ルシアはどうした」
もう一度、スマートフォンから連絡を試みるが、不通のままだ。
「隊長ならば『業務提携をする』と言い残して姿を消しました。私達に統護様を任せると」
「私達三名以外は、現在、治療にあたっており動けません」
「どうかルシア隊長の代わりと思って、私達三名をご自由にお使い下さい」
臨時で小隊長に指名されたというメイに訊いた。
「優樹の居場所は追跡できているのか?」
メイは申し訳なさそうに言う。
「途中から妨害が入った模様で、現在、マーカーが複数確認できている状態です。つまり攪乱されています。情報の絞り込みまで、今しばらくの時間が必要となっています」
統護は唇を噛んだ。
本当ならば今すぐにでも飛び出して、優樹の傍に駆けつけたい。
那々呼を救出して、そして――優樹を救いたい。
控えめな音量だが、物騒なメロディーのアラームが鳴った。
統護と【ブラッディ・キャット】の隊員三名は、吸い込まれるように、音源である中央モニタを見た。
そのモニタに映し出された映像は――
…
一見すると難の変哲もない二トントラックだ。
荷台部分にペイントされている企業ロゴは、ニホン有数の運送会社のものである。
それが二台連なって、ある建物の前に停車した。
通行人はいなかったが、仮にいたとしても「ああ、引っ越しだな」としか思わないだろう。
次の瞬間までは――だが。
ペイントされていた模様が、灰色無地に染まった。
正確には模様が消えた。次いで、荷台部分が展開する。通常の貨物用トラックの後部ドアとは異なり、天井部までも一体化しており後方へめくれると、カタパルトとなる。
すでに三機は準備万端であった。
各々の運転席にいた二名も、すぐに荷台へと移動して、機体を装着する。
その機体の名は《リヴェリオン》という。
彼等の手足となるように操縦訓練に明け暮れた、漆黒の【パワードスーツ】である。
微かなモーター音と震動が、人型兵器の覚醒を告げた。
「出撃だ!」
リーダーである二十代後半の男性が声を上げる。
残りの【ネオジャパン=エルメ・サイア】四名も、彼の後に続いた。
標的は――孤児院【光の里】であった。
…
統護は怒りに震えながらモニタを睥睨していた。
孤児院【光の里】は、【ネオジャパン=エルメ・サイア】を名乗る先日のテロリストによって、あえなく占領されていた。
強襲した手口は前回と同じであった。
頼みである施設保護用に施術されていた防御用【結界】は、例の爆弾の前に通用しなかった。
彼等の新型【パワードスーツ】五機の前に、警察は手も足も出なかった。
最精鋭である警察の【ソーサラー】部隊でさえ、勝てなかった。
現在は警察の増援部隊が【光の里】を包囲して突入の隙を窺っているが、人質にされている孤児達を危険に晒せない。自衛隊特殊部隊への出動要請も行っているとの情報だ。
「信じられねえ……」
統護のみならず、【ブラッディ・キャット】の三名も困惑している。
どのような政治的・宗教的な目的があろうとも、まさか社会的弱者であるはずの孤児院に対してテロを敢行するなどとは。
こんな暴挙を行い、果たしてどの層の共感を得られるというのか。
マスコミが集まっている中、彼等【ネオジャパン=エルメ・サイア】は表明した。
此処に住んでいる、山根夕と名乗っていた女の身柄を引き渡せ――と。
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