第四章 解放されし真のチカラ 12 ―オルタナティヴVS業司郎③―
スポンサーリンク
12
起動用【ワード】と共にリングにキス。
指輪に填め込まれている宝玉が輝き、久しく彼女が失っていたチカラを取り戻させる。
存在が換わり、専用【DVIS】が己を認識しなくなったが、生体登録の再認作業によってようやく変革した主のデータを認識したのだ。
再セットアップ――完了。
待望の【魔導機術】が立ち上がる。
陽炎のような炎のオーラが少女を包み込んだ。
そして学生服の上から羽織っている漆黒のマントに、金色の五芒星が浮かび上がった。
五芒星の各中心には、『地・水・火・風』そして、五行とも定義される五大エレメントの最後――『空』を司る紋様が神々しく描かれている。
今は【火】の紋様が光を放っていた。
これこそがオルタナティヴの【基本形態】である。
少女の【魔導機術】を目にして、業司朗が驚愕した。
「な、なんだ、と? それは《ファイブスター・フェイズ》じゃねえか……ッ!!」
なんでお前が、と呟き目を見張った。
「いやちょっと待て。その眼。その顔立ち。オイ、マジなのか? テメエ、隠し子かなにかなのか? それとも見た目だけ真似たフェイクなのか?」
「両親も妹も棄てたわ。アタシがアタシで在る為だけに――」
炎のオーラ《ローブ・オブ・レッド》を纏ったオルタナティヴは、業司朗へ仕掛けた。
自らの身体を炎の砲撃と化して、突っ込んでいく。
業司朗も呼応するように突進した。
両腕の《ビースト・アームズ》をクロスさせて、オルタナティヴの体当たりを受け止めた。
しかし体当たりを止めるだけで、業司朗は精一杯であった。
オルタナティヴは拳の雨を降らせる。
【火】の属性を宿したオルタナティヴの連撃が、業司朗のガードを時雨のように打ちつけた。
ボロボロに崩れていく《ビースト・アームズ》。
バックステップしたオルタナティヴは右腕を大きく薙いだ。すると炎の熱波が巻き起こり、業司朗を焼き焦がす。
圧倒的な魔術強度であった。
すかさず業司朗は地面に《ビースト・アームズ》を打ち込み、土砂の間欠泉を発生させて己を燃やす炎を鎮火した。
ずぅドォッ!!
オルタナティヴの炎を纏った右拳が、がら空きになっていた業司朗の顔面を捉える。
たまらず吹っ飛んだ業司朗であったが、どうにか倒れずに踏み留まった。
「――《ビースト・ミサイル》!」
体勢を立て直すと同時に、反撃の攻撃魔術を放った。
硬質化された土のミサイルが、オルタナティヴをロックオンして飛行していく。
オルタナティヴもロックオンされた事を、自身の電脳世界で感知した。
「お前の炎で防げるかなぁ?」
挑発する業司郎。いかにオルタナティヴの炎が強力とはいえ、業司朗の《ビースト・ミサイル》を焼き消せるレヴェルではなかった。
「――《エレメント・シフト》」
これが《ファイブスター・フェイズ》の基本性能だ。【ワード】なしでも可能である。
オルタナティヴの【ワード】と共に、マントの五芒星が変化した。火の紋様の輝きが消え、水の紋様が輝いた。
同時に炎のオーラが消え、水蒸気のオーラ――《ローブ・オブ・ブルー》が彼女を覆う。
すでに【ベース・ウィンドウ】によって、《ビースト・ミサイル》の軌道計算および着弾時間の予想は終了している。それに魔術的にロックオンされているのだから、逆にいえばギリギリまで自分をホーミングするのだ。彼女は滑らかに魔術オペレーションをこなしていく。
オルタナティヴは右手の人差し指を立て、ミサイルへ向けた。
きゅゴンぉん! 【水】の礫が散弾と化してミサイルを削り壊してしまった。
「……な」
再び顔面を強ばらせる業司朗。
「マジか。マジなのかよ!? 【AMP】の補助なしでエレメントを、魔術特性を切り替えた、だと? やはりその【基本形態】はハッタリじゃないのか」
複数の魔術特性を扱える魔術師も多いが、それには基本的に別々の【基本形態】を必要とする。ゆえに習熟度や発展性を考えると、オリジナルの【基本形態】を複数持つ者は少ない。複数の【基本形態】を持つ者でもメインとサブの格差は大きい。
だから戦闘系魔術師――【ソーサラー】が複数の魔術特性を扱う時には、【AMP】を使用して切り替えるのが常道となるのだ。
しかし、たった一つの【基本形態】で四大エレメント――【空】を除く『地・水・火・風』を自在に操った【魔導機術】の天才を、業司朗は知っていた。
そしてその天才は今、【DVIS】を扱えなくなり、魔術の劣等生と蔑まされている。
「あり得ないはずなのに。だが、お前、お前はひょっとして……ッ!!」
その言葉を無視し、オルタナティヴは使用エレメントを【風】へと換えた。
纏うオーラも風の《ローブ・オブ・クリアランス》へと変化した。
そして空高く飛翔し、同時に竜巻を発生させて業司朗の動きを封じた。
風の壁に封じられならがも、業司朗は《ビースト・クロウ》で迎撃態勢をとる。
対して、オルタナティヴは風を纏った右足を槍として、
「――《トルネード・スピア》」
ぎゃるるるるるるるるッ!
高速で錐もみ回転しながらの右の突き蹴りを見舞った。
業司朗は風の障壁に動きを阻害されながらも、両腕を大きく振りかぶった。
そして一気に振り下ろす。
「――《グリズリー・クラッシュ》ッ!!」
激突するキックとクロウ。
迎撃に成功した《ビースト・クロウ》の一撃であったが、爪の部分が大きく破損していた。
ダメージを与える事に失敗したオルタナティヴは、一度宙返りして体勢を整えてから後方に着地した。
続けざまに業司朗が吠えた。
「――おらぁあああ、《ビースト・キャニオン》ッ!」
ゴゴゴゴゴゴゴゴッぉぉオオォオオ。
地割れが発生し、禍々しい触手のようにオルタナティヴへと伸びていく。
その魔術効果を彼女は冷静に魔術サーチした。電脳世界での演算、解析、予測、そして最適な対応を超視界と超時間軸で終える。現実時間と有視界に迫る脅威に、微塵も心乱されない。先程よりも魔術オペレーションが速くなっていた。最後に【コマンド】を入力して【ワード】を唱える。「《エレメント・シフト》」と。
オルタナティヴは【地】――『土系』へと属性を換え、地面へ手の平を置く。
開いた地割れの側面から無数の円筒が発生し、歯車のように噛み合って櫛状の板となる。
その板の上に、オルタナティヴはすまし顔で立っていた。
纏っている土のオーラの名は《ローブ・オブ・グレー》だ。
ことごとく攻撃を遮断された業司朗の額に、くっきりと青筋が浮かんだ。
「てンめぇ」
「問題ないわね。リハビリはこれくらいかしら」
オルタナティヴは満足げに呟き、ギラリと視線を光らせた。
ここからは新しいチカラを試す。
左指のリングに秘められている、自身がかつてどうしても扱えなかった【空】の属性を。
心が望むがままの在り方を手にした今ならば――きっとできる。
魔術師の少女は空を仰いだ。
心が――澄んでいく。
手を伸ばせば、この空に届きそうな気さえする。
右のリングは【DVIS】であり、左のリングは【AMP】である。
しかし、この【AMP】はオルタナティヴが発案し、堂桜那々呼にワンオフ品として開発させた――従来のコンセプトとは似て非なる、新しいタイプの【AMP】だ。
彼女にとって封印解除は不便・不自由に過ぎた。そして【エレメントマスター】のようなイレギュラーなチート能力も趣味ではなかった。もっとスマートな形がいい。
ゆえに【魔導機術】の天才と称された彼女のみが扱える――全く新しい魔術を欲した。
視線を業司郎へと戻す。
ポニーテールをたなびかせる黒髪黒衣の少女は凛と叫んだ。
「――セカンドACTッ!」
注記)なお、このページ内に記載されているテキストや画像を、複製および無断転載する事を禁止させて頂きます。紹介記事やレビュー等における引用のみ許可です。
本作品は、暴力・虐め・性犯罪・殺人・不正行為・不義不貞・未成年の喫煙と飲酒といった反社会的行為、および非人道的、非倫理思想を推奨するものではありません。また、本作品に登場する人物・団体などは現実とは無関係のフィクションです。