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魔導世界の不適合者 ~魔術学科の劣等生~ 第1部(第44話)

 

第四章  解放されし真のチカラ 8 ―茶番劇―

 

         8

 夜が明けてから、アリーシアはフレアに連れられ、ある場所へ来訪していた。
 現在、アリーシアが着ているのは学生制服ではない。フレアに「この国の通貨で百万程度の粗雑な安物だけど今はこれで妥協しなさい」と、押しつけられたドレスを着ている。
 血のような鮮烈な赤地に、黒と金のラインが入っている、豪奢なドレスだ。
 これからはTPOによっては、王女としての正装が求められるから、と云われていた。王家としての礼式も一夜漬けで叩き込まれていた。
 従者として帯同しているフレアは、新品のビジネススーツ姿である。
「いい? ちょっとでも台本から外れたら――」
「分かってるわ」
 念を押すフレアに、アリーシアは神妙に頷く。
 締里を人質にとられていた。
 意識を回復していない彼女の安否は、スマートフォンでのライヴ映像を信じるしかない。
 今は締里の生命と貞操が第一である。
 それにこうなったらファン王国の姫として振る舞うしかない。自分自身も政治的判断を下す必要性に迫られている、という自覚はあった。一国の姫という立場である以上、ただの人質ではなく、これからの発言と態度には相応の影響と責任が降りかかってくる。
 二人は、広々とした応接間に丁重に通された。
 そしてアポイントをとりつけてある相手がやってきた。

「お初にお目に掛かります、アリーシア姫様」

 やや恰幅が良すぎる感のある中年男性が、朗らかな笑顔を携えて歩み寄ってくる。
 彼の名は――堂桜栄護。
 堂桜財閥のナンバー2、と評されている重鎮だった。


 挨拶と即席で仕込まれた型式通りの礼を終えたアリーシアは、黙しているしかなかった。
 目の前のお茶に口をつける気にもならない。
 対面に座ったフレアと栄護は今後についての約束事を交わしていく。
 栄護に救援を求めたいが、それは締里の命と引き替えになる。決断を下せないでいた。
 約束事を要約すると。
 基本的にこの会談はアレステア王子不在の為に、非公式とする。
 この会談はアレステア王子の為である。
 オルタナティヴと名乗る【エルメ・サイア】の幹部が王子を奪取したので、栄護が追っ手を差し伸べて、始末する。なおフレアも【黒服】部隊を戦力として提供する。
 最後に【エルメ・サイア】の脅威からアリーシア姫を護る為、フレアと共に国外脱出するので、その手続きを極秘に行う。
「……救出した王子については【黒服】部隊に身柄を預けて下さい」
「全力を尽くさせて頂きます。アリーシア姫と王子の為に」
 二人は握手を交わした。
 アリーシアは絶望的な気分になった。
 騙されている。栄護は【エルメ・サイア】の幹部の手の平で踊らされている――

         

 フレアとアリーシアが退出し、栄護は肩を竦めて苦笑した。
「あちらさんも色々と大変そうだな」
 愛用の超高級葉巻に火を付け、大きく煙を吸い込む。
「……まあ、せいぜい手筈は整えてやるから、どうか無事に【エルメ・サイア】まで姫様を届けてくれよ、幹部サン」
 栄護としても堂桜の血族として【エルメ・サイア】と繋がっているとアリーシアに知られる訳にはいかなかった。だからこそ、わざわざアリーシアの前で芝居を打ったのだ。約束を交わすだけならば、アリーシアが不在でも障害はない。だが、今後の布石としてアリーシアを噛ませておく意味は充分にあった。あの妾腹の姫君は今後、世界の中心になるだろう。
 利害は一致している。
 今回の件で【エルメ・サイア】と栄護のコネクションは確固たるものになったが、可能ならば、そのままあの女を窓口にしたい。
 ノックを略して、ドアが乱暴に蹴り開けられた。
 このように入室する者は記憶の限り一人しか該当しないので、栄護は誰何しなかった。

「――来たか、業司朗」

「おぅ。ワザワザ呼びつけに応じてやったぜ、叔父貴ぃ」
 好戦的な笑みを浮かべる二十代後半の男性は、名を乱条業司朗という。
 栄護が飼っている堂桜の傍系だ。
 二メートル近い長身に、肩幅の広い逆三角形の体格。そして陰影のついた筋肉の塊。無駄に太くなく、ウェストが引き締まっている肉体の重量は百キロ前後。
 筋骨逞しい上半身は裸で、素肌の上にファー付きの革ジャンを羽織っている。
 炎のように逆立った髪型は、獣のような業司朗の顔つきにマッチしていた。
「例の女については知っているな?」
「それって【エルメ・サイア】の幹部だとかいう、堂桜に喧嘩売っている女だろ」
「そうだ」
「ソイツ、【基本形態】で身体強化してないってのに、トンデモな身体能力だってな。ドーピングかサイバネティクス強化でもやっているんだろうな」
「お前と同様に――な」
 両方ともに違法で、特にサイバネティクスによる肉体改造は、著しく寿命を縮める。職業戦闘者でもサイバネティクス強化を施行する者は皆無に近い。かの【ブラック・メンズ】であっても、サイバネティクス強化にまで手を染めている者は、ごく僅かである。
 業司郎は力こぶを作った自らの二の腕を自慢げに見つめた。
「まぁなぁ。統護の身体みたいにオカルトってわけじゃないだろうしな」
「その統護ともいずれは戦わせてやるが、今回は違う」
「ということは、今回は例の女と?」
 ニヤニヤと笑む業司朗に、栄護は告げる。

「ああ。殺していいぞ。後始末はいつも通り俺が引き受ける」

 その言葉に業司朗は目を輝かせた。
「マジかよ! 待っていたぜ、その言葉。でもいいのか、ホントにぶっ殺しちまって」
 いくら戦闘狂とはいえ、殺人までは安易に行えない。証拠隠滅や遺族への示談に莫大な費用と手間がかかるからだ。
 舌なめずりして興奮する業司朗に、おおよその情報を与えた。
「王子については【黒服】どもに任せてしまえばいい。そういう約束になっている」
 彼は秘密裏に殺されるのだろうな、と栄護は予想している。
 【エルメ・サイア】とのコネができた以上、栄護にとってもアレステア王子は不必要だ。そして、それはアリーシア姫を手に入れたフレアにとっても同じはずだ。
 栄護としては【ブラック・メンズ】にアレステア王子を譲渡した形跡を消すのに、全力を尽くすだけだ。
 失敗した場合は――業司朗を切り捨てればいい。
 それに、あくまで栄護はフレアに騙されている、という体裁をとっている。たとえ業司朗が敗北しようと大した損害はなかった。あくまで約束を守る事が肝要なのだ。
「くくくくく。感謝するぜぇ叔父貴。絶対に期待に応えてやるからよ!!」
 栄護は苦笑する。
 扱いに手を焼いているが、この粗暴な男はこんな時の為に飼っているのだ。
 オツムの出来は残念で、常識や品格も欠落しているが、戦闘能力だけは確かだ。堂桜一族が抱えている【ソーサラー】でも間違いなくトップクラスの実力だ。栄護が非公式に使用可能な戦力としては、現時点で随一でもある。
「うっし! それじゃあ、行ってくるぜ!」
「任せたぞ。すでに追跡済みだ」
 栄護はほくそ笑む。
 あのオルタナティヴという少女。
 統護に比肩する驚異的な身体能力はドーピングやサイバネティクス強化ではない。そして、現在まで彼女が【魔導機術】を使用した記録もない。加えて、彼女が行った堂桜に対するテロ行為であるが――死者がゼロなのだ。偶然ではなく、間違いなく意図して殺していない。
 フレアに敵対した、という事は堂桜へのテロ行為も偽装だったのだ。
 集めた情報から推察すると、ひょっとしたら、ひょっとする
 意気揚々と大股で出発した業司朗の背中を見送りながら、栄護は考える。
 あの少女に【エルメ・サイア】としての濡れ衣を被せ、テロ関連について双子の弟を糾弾する……というシナリオなど関係なかった。

 オルタナティヴの死を報された時の宗護の表情を想像すると――

「ははははははははは!!」
 せり上がってくる哄笑を堪えることはできなかった。

 

 

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