アニメを斬る!

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魔導世界の不適合者 ~魔術学科の劣等生~ 第1部(第08話)

第一章  異世界からの転生者 6 ―遭遇―

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         6

 統護は街中を疾走している。
 堂桜一族が個人所有している、ラグランジュポイントを周回軌道とした魔導ステルス型の軌道衛星【ウルティマ】からの追跡で、アリーシアの座標ポイントは掴んでいる。
 通常では、個人観測に用いるなど以ての外であるが、今回は特例中の特例であった。なにしろ国際社会に影響を及ぼしかねない事案なのだ。
 淡雪からのナビゲートで、統護は複数ある道筋での最短ルートを駆け抜ける。
 詳しい情報は入ってきていない。統護と淡雪のみならず、ファン王国で内戦が始まってからは、ファン王家専属特務隊からも護衛チームが派遣されており、彼等がメインで対応しているとの事だ。統護と淡雪はあくまで学園内限定でのサブ的な戦力扱いだ。それは当然といえば、当然である。統護は勿論、淡雪だってプロのSPではないのだから。
 だが、警護チームが付いている筈なのに、現状のアリーシアは危機に瀕している模様である。刺客が二名、彼女を拘束しようと立ち塞がっているという淡雪からの情報だ。一刻を争う事態かもしれない。
 不自然だ。統護は警戒心を高めた。
 ナビゲートで人目を避けているのか、それとも状況として必然なのか、不自然なレヴェルで人や通行車両とは鉢合わせない。
 この世界での統護はその気になれば、短距離走の世界記録を軽々と上回る速度で、フルマラソンを余裕で完走するだけの身体能力を有している。完全に人目を気にしなくて良いのならば、飛行系統の魔術など必要とせずに、忍者よろしく屋根から屋根へと一足刀に飛び移れるのだ。
 もはや超人といっていい。
 元の世界で継承していた〔契約〕にしても、本来は子供騙し程度の効果だった。故に統護はそんな〔契約〕の継承に疑問を覚えずにはいられなかった。手品の方がマシかもしれない小さな奇蹟の為に、わざを通じて身心と〔魂〕を修練するなど、非効率的にも程がある。
 しかしこの世界では決定的に違う。
 【イグニアス】と呼ばれる、誰もが魔力を秘めているこの異世界では――
 けれど、その事は可能な限り隠し通す必要がある。
 もしも『この堂桜統護』の正体が露呈してしまえば、実験動物に身を堕とすのは必至だ。
 研究施設に拘束されて、薬物漬け……なんて末路は御免である。
 チカラと秘密は、絶対に隠し通すのだ。

「――やあ。どんな気分かな? 超人的な肉体を得た心地は」

 世界最強かも、なんて嘯く。
 それは、謳うような楽しげな声色だった。
 少女だ。統護の目の前に、少女が顕れている。
 不思議と、懐かしい感じのする容姿の若い女だ。狡猾さと無垢さが同居しているような美貌だ。少女の浮かべている笑みからは、魔的なナニかを感じられずにはいられない。
(なんだ? コイツは)
 間違いなく美しい造形なのに統護には美しいとは感じられない――そんな奇妙な感覚。
 少女は長い黒髪をポニーテールにしている。
 服装は特徴的だ。
 赤いラインが特徴的な学生制服姿の上に、吸血鬼を想起させる漆黒のマントを羽織っている。黒髪に紅い双眸。黒と赤で構成されている女だ。

 火花が散ったように記憶がフラッシュバックした。

 あの日の夕方。廊下の窓に映っていた幽霊もどきの女だ。
 着ている制服も、公立藤ヶ幌高校の女子用制服を原型としている物である。
「アンタ、まさかあの時の?」
 頬を伝う一筋の汗を、統護は乱暴に拭った。汗は走っていた為のものではない。
 いくら疾走しようとほとんど上がらなかった鼓動が、今は早鐘のようだ。〔魂〕レヴェルで統護は識っている。この魔術を根幹とする世界にあって、自分という異分子イレギュラーは……

「ひょっとして、元の世界と、この世界での俺を知っている――ッ!?」

 いや、それよりも、この濃厚な感覚は。
 少女は意味深に口元を歪める。
「さあ? 一つだけ云えるのは、敵対する意志はないってコト」
「おい。マジで何者だ、アンタ」
 誰何とは裏腹に、統護の脳裏に禍々しい映像がこびり付いていた。
 ダメだ。感覚が正解なら。
 この女を淡雪に遭わせては――

「そうだね。アタシの事はオルタナティヴとでも呼べばいい」

 紅い眼の少女――オルタナティヴは、統護に不意打ちの右ストレートを打ち込んできた。
 予備動作のない、空気を斬り裂く超速の一撃。速い。反応が追いつかない。
 ドゴン!
 鐘を全力で突いたような重い打撃音が響く。
 辛うじて統護はオルタナティヴの右拳を左手で受け止めた。腕全体に痺れが走る。
 キャッチした際に鳴った轟音が、その破壊力を物語っていた。
(マジか。いや、やっぱりか)
 オルタナティヴが披露したスピードとパワーは、統護と同じく超人レヴェルだ。
 この異世界の人間は、総じて元の世界よりも身体能力は上だ。それも元世界と比較して、男女差が少なかった。鍛えた女性はかなりのレヴェルで男性の身体能力に追いつく。しかし、今の右ストレートはそういった次元の話ではなく、統護が全力で放つ一撃に匹敵するレヴェルである。頭部に直撃すれば常人ならば死亡しかねない。
 そして、拳の出所が見えなかった。
 超人化した動体視力でなければ、咄嗟に反応できたかどうか。

 右拳を繰り出した、彼女の格闘技術の癖は――ッ!!

「流石だね、世界最強」
 クスリ、とオルタナティヴが嬉しそうに両目を細める。
 なにが最強だ。陳腐な挑発である。果たして、自分を何処まで識っているのか。
「おいおい。敵じゃないんじゃなかったのかよ」
「殺し合いはしない。けれど少しばかりアタシの実験に付き合ってもらうよ――、最強」
「実験?」
「こっちの都合かな」
 それならば、こちらにも譲れない事情がある。
 幸いこちらの世界は元の世界に比べて、私闘に関しては寛容な風潮があった。法的にも魔術系の戦闘・犯罪関係はゆるゆるだ。よって邪魔をするのならば実力行使に躊躇いはない。
 選ぶのは、母親の趣味だ。

 変人の母親から強制的に叩き込まれた――近代ボクシングを使わせてもらおうか。

 それで対応できる自信はある。
 スパーリング以外で拳を使うのは初めてだが、この相手ならば、遠慮は要らないだろう。
 いや、戦らなければやられる。
「悪いが先を急ぐんだ。少しばかり手荒に排除させてもらうぜ」
 台詞と同時に、統護は巻き込むような左フックを見舞った。
 ほとんど手加減なしだ。たとえ相手が女性であっても、間違いなく同レヴェルの相手だと分かっていたから。
 ヴゥァオゥ!! 空気が斬り裂かれる。統護のスウィングが唸りを上げたのだ。
 閃光めいた渾身の左フックは、しかし寸前で空を切った。
 スウェーバックで避けられていた。いい反応と見切りだ、と統護は感心する。
「ええ、承知している。だからこそこのタイミングを選んだのだから」
 統護の左フックを鼻先で躱したオルタナティヴは、自信に溢れた笑みを零した。統護の超速の一撃を目にしても、少しも怯んでいない。それどころか愉しそうですらある。
 次の瞬間。

 ズゥッボォンンッ!! お互いのボディブローが土手っ腹にめり込んでいた。

 めキぃぃィ。拳を受けた腹筋が軋み上がる。
 カウンターどころか、躱せなかった。
 否、手加減する余裕すらなく、本能的に全力を出していた。
 双方の顔が微かに歪み、共に歯を食い縛る。なんて桁外れな威力だ。手加減なしだと、常人相手ならば内臓破裂で死亡させてしまう。
 そして、弾かれたように二人は同時にバックステップして、間合いをとる。
 手応えはあったが、オルタナティヴは平然としていた。
 耐久力も自分と同等か。
 コイツ……思った以上に強い、と統護は油断なく身構えた。
 統護は思う。生きていく為とはいえ……

 これが初の実戦というよりも、喧嘩どころか、戦う日が来るなんて――

 

 

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