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魔導世界の不適合者 ~魔術学科の劣等生~ 第1部(第03話)

第一章  異世界からの転生者 1 ―運命―

 

          1

 今日も放課後がやってきた。
 憂鬱だ。
 嫌な時間帯である。文化祭の準備があった為に、もう夕刻になっていた。
 急いで帰宅しなければならない、寂しい放課後だ。
 作業が一段落しても教室に残っている連中。これから一緒に遊びに行く連中。あるいは公然と付き合っている男子と女子。彼等は自分とは別世界の人間だ。
 仕方が無いんだ、と統護とうごは自分に言い聞かせる。
 自分にはやることが山積している。友達を作って遊ぶ余裕なんてない。たとえ自分の意志ではなくとも堂桜どうおう家、いや堂奥(蘊奥)どうおうの後継者として生を受けてしまった、血筋ゆえの宿命なのだから……
 クラスメート達が統護を無視する中、逃げるように彼は教室から早足で出た。
 普段よりも足が早まるのには理由がある。
 つい先程の事だ。図書委員のクラスメートに、こんな質問をされた。
 意味ありげな口調と視線で。

 ――〝堂桜くんって〔魔法〕を識(し)っている?〟――

 知らない、と答えた。嘘ではない。
 かつて、そう形容しても遜色ない奇蹟は存在していたが。遠い昔の話である。
 環境汚染で自然力が衰退しているこの世界に、もうそんな超常は起こり得ない。仮に彼女の眼前でタネの無い手品を披露しても、失笑されて終わりだろう。所詮その程度なのだ。
 なのに自分は、来週また山籠もりに行く。
 堂桜としての自覚ではない。
 すでに先代である父に課せられた修練よりも、きっとあの子に逢う為だ。
 統護の答えに、彼女――《読書ジャンキー》と渾名される偏屈な変人は「そう。早かったかしら。そろそろの筈なのに」と意味深に言って踵を返した。とにかく気難しくて取っつきにくいと評判の女だ。よく見ると驚く程の美人でスタイル抜群なのに勿体ない、なんて統護は彼女の飾り気のなさと無愛想を内心で嘆く。
 自分の人付き合いの悪さを棚に上げて。

「――堂桜統護くん」

 統護は廊下を進む足を止める。
 急ぎ足で視線を下げていた為、呼び止められるまで気が付かなかった。
 相手は、生徒会長であった。
 彼はこの公立藤ヶ幌高校の三年生で、一流国立大学への進学が期待されている有名人だ。
 眼鏡が似合うインテリ風の優男――東雲しののめ黎八れいや。三年A組の通称《鉄仮面》。
 知り合いですらなかったのに、黎八が自分などを知っているとは。統護は不審がる。
 この場には、彼と統護しかいない。
 やはり空耳や幻聴ではなく、自分が呼ばれたのだと統護は自覚した。
「ええと……、なんですか?」
「廊下、前を見ないと危ないよ」
 通称通りに表情を変えず、黎八がやんわりと注意した。
「すいません」
  習慣的にとりあえず謝って去ろうとする統護。心臓が嫌な感じにバクバクする。
「今から帰りかい? ちょっと待ってくれないか?」
「え」
「唐突で悪いんだが、よければ……ボクと友達になってくれないかな」
 ごく自然にそう申し込まれた。
 社交性の塊のような親しげな口調だ。表情だけは微動だにしないのが玉に瑕だが。
「すいません」
 二度目も習慣的に謝って、統護は黎八から視線を逸らす。相手の意図が理解できず、若干の恐怖すら感じていた。ひょっとして『ぼっち』の自分を憐れんだのだろうか? それなら余計なお世話だ。慣れた境遇とはいえ、同情は流石に惨めである。
 しつこく誘われるのを危惧したが、黎八は諦めてくれたようだ。
 安堵する反面、統護は自己嫌悪した。

 最悪だ。こんな人生、いっそやり直せたらいいのに。

 今の誘いだって絶好の機会だと分かっていても、もうどうしようもなかった。仮に受けたとしても、厳格な父が認めてくれるはずもない。今日もこれから就寝まで多忙を極めるのだ。
 それに母親の趣味にも付き合わなければ……
 背中に、黎八の気配はない。
 秋の夕暮れ色に染まる廊下を歩く足を止め、ふと窓ガラスを見る。
 思わず足が止まった。

 ポニーテールの女が映っている。

 細身で若い。顔つきは何処かで見ている気がする。特に双眸。そして男子用の制服を着ている。不思議と似合っていた。豊かな胸を押し上げる布地が苦しそうだ。
 目が合った。
 ゾクリ、と背に悪寒が駆け巡る。
 だが、次の瞬間には女は消えていた。まるで幽霊だ。
 統護は重々しくため息をつく。
「……疲れているのかな、俺」
 こんな時間に幻覚を視るなんて。

         ◆

 季節外れの猛吹雪に見舞われた山の中。

 それは予期せぬ事態であった。
 暴走――事故である。
 自然の力がまさか……。今の統護とこの世界では、小枝を焼いたり、水滴を増やしたり、そよ風を起こしたりするのが精一杯の筈なのに。こんな現象が起きるなんて。
 光と闇の濁流に身体と〔魂〕が飲み込まれていく。呆気なく粉々になってしまった。
 理解できない。どうして失敗した!?
 詳細は認識できないが、統護は自身が素粒子レヴェルで崩壊していくのを理解した。砕けた欠片が自分と融合する感覚のみが――せめてもの救いか。
 同時に、ナニかの存在を知覚し、そしてソレについての記憶が抜けていく。
 自分には〈資格〉があったはずなのに。彼女を救う――チカラが。
 この〈資格〉を知り、初めて蘊奥どうおうではなく堂桜の血脈に感謝したというのに――
 ダメだ。その記憶さえも、記憶、さえ……も。
 忘れたくないのに、彼女を、たとえ人間じゃなくとも……
 人間じゃないからこそ、統護は彼女に。
(俺は……このまま消滅するのか?)
 絶対的な死。
 この世界からの消滅。
 まさに『終わり』の刻。
 脳が破壊される寸前に、コンマゼロゼロといった刹那の時間が、体感時間として数時間まで引き延ばされる。
 走馬燈ってやつか、と統護は約十七年間という自分の人生を振り返っていた。

 思えば、つまらない一生であった。

 核家族で、父親からは尋常ではない修練を課せられた。それだけではなく〔契約〕とわざを他者や一般社会に秘匿する必要まである。ただ絶やさない事だけが目的の伝承だ。
 母は助けてくれずに、助けるどころかアメリカで習った趣味の会得を自分にも強要する始末だ。長期休みの度どころか、仮病を使わせてまで、渡米しての寝泊まりを強制された。
 父もそんな母を後押しする。堂桜は代々妻となる女から新たなわざを吸収しているのだとか。だから統護もわざを修めた変人と婚姻するだろう、と父に予言されていた。
 わざを修めた変人など、妻や恋人になどしたくない。こんなわざからだ、実生活では何の役にも立ちはしない。少なくとも統護には不必要である。
 しかもその所為で、ずっと友達ができなかった。いや、作れなくなっていた。
 もちろん彼女なんているはずもない。
 唯一自分に構ってくれていた、密かに好意を抱いていた幼馴染みの比良栄ひらさか優季ゆうきも、二年前に事故死していた。それ以来、本当にずっと『ぼっち』だった……
 アイツは『ぼっち』で根暗なヤツ、といつも同級生に後ろ指をさされていた。遊びに誘ってもいつも断るんだぜ、と陰口もいわれていた。
 気が付けば独りでいる事に安堵する、そんな自分になっていた。

 脳裏に「だよな」としたり顔で頷くポニーテールの少女の貌が蘇るが、それも一瞬だ。

 シンクロ振りが、まるで自分そのもの。
 ガラスに映ったあの娘は、人生の終わりを予告する死神だったのかもしれない。
 とはいえ事故の責任は自分にある。
 何故こんなコトになったのは、すでに全く思い出せないけれど。もういい。
「……ま、こんな人生だったらオサバラできて清々かもな」
 音とならない意識での呟き。
 統護は潔く『終わり』を受け入れた。
 全てが無に帰す直前。
 間に合った。待っていたわ。そんな囁き。

 ――〝ようやく『運命』が始まるわ、堂桜くん〟――

 その声は《読書の魔女》と異名される者からの呼び掛け。否、喚び掛けか。
 絶美の貌に豊満で肉感的な裸身。純白に光り輝いている。
 『運命の相手』なんて陳腐なフレーズが統護に閃く。

 ――〝そうまでしてあの子を救いたかったの?〟――

 頷く統護。もうあの子を思い出せないが、己の裡に息づく欠片。その鼓動を愛おしむ。
 恋愛感情かと問われれば、疑問だ。愛や恋とは違い、もっと純粋な想いだった気がする。あるいは寂しさを埋める為に、狡くも利用したのかもしれない。
 彼女――〔神妻〕の少女は、らしくない穏やかな笑顔で、統護へ両手を広げる。
 それは、愛。統護は豊満な胸に顔から飛び込み、しなやかな両腕に抱きしめられる。
 運命の夫を〔神妻〕は優しく包み込む。
 導きし者――それが魔導書に示された彼女の役割。
 崩壊が止まる。否、少女が止めた。
 永遠と一瞬が重なり、未来と過去と、現在が混じり合う。超越存在〔神〕と化している妻に、統護は己の器と存在係数を委ねた。そうしないと、この空間は因果素子すら消滅してしまう。
 封印が施された。統護の〔魂〕に座している〈根源〉。その影響で幾つもの多次元宇宙と平行世界が干渉し合って連鎖反応を引き起こす。時間や純虚数空間すら巻き込む超新生として。
 まさに『始まり』の刻。
 そして。
 堂桜統護は――セカイから消失した。

         ◇

 意識が回復した時――、統護は風呂場にいた。
 というか湯船に浸かっている。
 ただし、家にある狭い風呂ではなく、温泉旅館としか思えない広大な檜の湯船である。
 壁には大理石と思われる輝きが宿っている。
 風呂場というよりも大浴場といった方が適切な規模だ。
 統護は首を傾げる。

 ……〔感覚〕がおかしい。

 やけに色々と様々に知覚・認識できてしまう
 山籠もりでも、ここまで澄んだ感じは、今の時代は味わえないというのに。
(どうなっている!?)
 たまに夢でそのような光景を視るが、果たしてこれは夢なのか――

「っていうか、どうして俺、風呂に入っているんだ?」

 統護は首を捻る。死を覚悟したのに、温泉で湯船に浸かっている夢を視るとは。
 いや、と統護の顔が引き攣った。
 いくらなんでもお湯の感触がリアル過ぎる。間違いなくこれは夢ではない。
 しかし、この水の〔感覚〕は……
(試してみるか?)
 混濁していた記憶が戻った。だが、違和感は残る。
 自身の身体感覚の差異も気になっていたし、やってみる必要があると統護は判断する。
 不可解な状況を把握するのは、その後でもいいだろう。
 ガラ、と引き戸が開いた。
 音の方を振り返る。入口の扉を引いたのは、一糸まとわぬ黒髪の少女であった。
 思わず立ち上がった統護も裸だ。浴場なのだから、当然といえば当然だ。
 統護は息を飲んだ。美しい少女である。
 年齢は同年代か、少し下か。
 純和風といったルックスである。
 タオルで後方にまとめられた長い黒髪は、艶やかで癖がない。初雪のような白い肌は、一点の染みも曇りもない。細身だが、胸と腰はほどよく発達しており、芸術品のようなラインを描いている。顔立ちは基本的には東洋系だが、少女特有の幼さを中和するほど彫りが深く、睫毛が長い大きめの黒瞳は――

 ……驚愕と羞恥で見開かれていた。

 少女の視線も、統護の裸体――特に股間――に釘付けになっている。
 無自覚に股間が限界まで膨張している。血管が浮き出ており、まさに屹立だ。
「きゃぁぁあああああああああ!!」
 絶叫である。
 あられもない少女の悲鳴が浴場内にこだました。

 

 

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