第四章 真の始まり 23 ―〔神魔戦〕統護VSジブリール②―
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23
統護は決意した。
通常の〔魔法〕では対抗できない。よって――〔神〕を召喚する。
堂桜一族が継承している〔神〕との〔契約〕を逆手にとり、〔神〕そのものを呼び込むのだ。
召喚した〔神〕を〔精霊〕に置き換えて使役する神威のチカラ。
ヒトの分際を超えた究極の暴挙である。
しかし統護は、過去の戦闘でその暴挙を、なぜか当然と振るっていた。
とはいえ、超人化した身体でなければ、〔神〕の怒りによってその身はバラバラになっていた事だろう。その超絶的な負荷は【DRIVES】の比ではない。
当然が実は不可思議だったと、大天使の顕現を目の当たりにして自覚したが、今は躊躇している場合ではない。もう他に対抗手段がないのだ。
イヴ・ウィンターを殺したくないが、統護に不殺を貫けるだけの余裕もない。
系譜から選択し、召喚する〔神〕は……
――〔暴神スサノオ〕である。
統護が召喚可能な〔神の系譜〕において、最大の攻撃力を誇る〔神〕だ。
制御するのが困難で、おそらく手加減できないだろう。だが、統護は〔暴神〕を選んだ。
(さあ……来いっ! 〔スサノオ〕ッ!!)
その喚び掛けが〔契約〕を介して――
バツン、という破断。
感覚が強制的に遮断された。
フィードバックされる過負荷。
危うく脳神経が焼き切れそうになった。視界が黒く染まり、四肢から力が抜けていく。
大天使が〈神下〉した時と同じアナウンスが、統護の意識内に聞こえる。
『他の〔神族〕からの介入および侵入を検知しました。純虚数空間のファイアウォール機構、正常に作動、侵入をブロックする事に成功。データベース照合――侵入を試みた〔神〕が判明。〔暴神スサノオ〕です。同〔神の系譜〕への警戒レヴェルを最大まで引き上げます』
統護は愕然となる。
まさか〔神〕の召喚が、純虚数空間の防御機能によってブロックされるなんて。
万策尽きた。
冷たい双眸で統護を見下ろすジブリールが言う。
「どうした〈イレギュラー〉よ。我が〔主神〕が集わせた平行世界に存在している堂桜――選ばれし七名の〈資格者〉にあって、お前だけが元世界での〔契約〕が有効という異常は、とっくに解析済みだ。知りたいのは、なぜ異常が引き起こっているのか、その原因なのだ」
さあ示せ、と大天使は右手を振り上げる。
統護には抗うだけの魔力がない。
召喚に全魔力を注いでしまった為に、〔精霊〕を使役できるまで回復するのには、三十秒はかかるだろう。むろん相手が、回復するまで待ってくれるはずが……
ヴゥオンッ!
右手が下ろされ、ジブリールは『裁きの光』を、容赦なく統護へと撃ち込んだ。
次の瞬間。
統護の身体が素粒子レヴェルに破壊し尽くされた。
◆
素粒子レヴェルに砕かれ、消失させられた身体が再生していく――
いや、死からの帰還なので、転生と定義するべきか。
以前の堂桜統護と完全に同一ではない。
オルタナティヴという分離体が、再度〈資格者〉となり独立に成功した影響だろう。
元の世界から異世界【イグニアス】へと生まれ変わって転移した時に、感覚が似ている。
似ている――と思い出せたのは、統護にとって大きい。
蘇った記憶は完全ではない。しかし、一度目よりも転生は上手くいった。
統護は己を理解する。
(そうか……。俺が〔神〕を使役できると錯覚していたのは、そういう事だったのか)
似て非なる思い違いである。道理で自分だけが、他の堂桜とは異なり〔神〕を喚べた訳だ。
自分に喚ばれた〔神〕が怒るのも当然だと苦笑する。
疑問を抱かせてくれたジブリールと、その〔主神〕に今では感謝である。
トーゴ、トーゴ、トーゴという呼び掛け。
周囲を見回す。
上も下も右も左もない光の中に統護はいた。
温かい光のみで満たされている不可思議な場所。
いるのは統護だけではない。
『……ついに、私が必要になったね、トーゴ』
特別な少女が、統護の前に出現した。
淡雪の声色。そして淡雪の貌をもつ堕天使が、統護の前に浮かんでいる。
左側が光を司る眩い純白。
右側は闇を象徴する漆黒。
神魔の相克を体現する不思議な姿。
両儀となる二色の大翼を背中にはためかせている、神秘的な羽衣を纏う少女だ。
彼女によって統護は因果を逆転し、二度目の転生に成功できた。
此処は、統護と彼女の精神世界。
この時を待ちわびていた、と堕天使が云う。
女神であり悪魔でもある彼女に、統護は苦笑した。
「そうだな。ユピテル戦の時とは異なり、どうやらお前が必要みたいだ」
素直に認める。今の統護では、大天使には勝てない。
堕天使が淡雪そのものの、淡い微笑みを湛える。
『よかった。早く私をトーゴだけのモノにして。MMフェスタの時、私、トーゴ以外のモノにされそうだったんだよ?』
「ああ。あの時は心底から焦ったよ」
オルタナティヴとの共鳴――再度の〈資格者〉として覚醒がなければ、果たしてどうなっていた事やら。オルタナティヴが自分と共鳴した理由を、今では推理できる。
次に共鳴する時が来るとするのならば、おそらく――
堕天使が誘ってきた。
『――ね、今は優季と一緒に気を失っているから、邪魔は介入できない』
「邪魔……か」
『あの時、強制的に時間切れになったのは、オルタナティヴとの姉妹愛だけじゃなくて、それに乗じて割り込まれてしまったから。だって私と彼女の関係は、まだ不確定だし』
(彼女?)
記憶が疼く。淡雪は似ているのだ。この堕天使に。でも、本当に似ているのは……
統護はそんな思考を、今は雑念と振り解く。
「ま、それは後の話にしよう。今は大天使ジブリールを斃すのが先だ」
『うん。じゃあ――……
キス、する?』
甘く囁かれた言葉に、統護は静かに首を横に振った。
まだだ。それは最後の手段にとっておこう、と。
キスの拒否に、堕天使は拗ねた顔になる。だが文句は言わなかった。
さあ、顕現しよう。
堕天使から差し出された右手を、統護はそっと握りかえした。
セカイが再び動き出す――
◆
「し、しまった!! ジャミングできないッ! 起動してしまう! ヤツの精神世界と純虚数空間との三重構造が、ここまで計算外だったとは!! 純虚数空間の強制シャットダウン――も、キャンセルだと!? これならばそのまま〔神〕を召喚させるべきだった! や、やめろ〈イレギュラー〉ッ!! それは不完全のまま、未完成のままなのだ!! やめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろ、やめるんだ、やめてくれぇぇええッ!! 起動させるなぁ!! それは、ソレはこの魔導世界において――
……〈不 適 合 者〉なのだ!!」
◇
ジブリールの《クィーンズ・ライトニング》が弾かれた。
防いだのは統護ではない。
統護と大天使の前に顕現した、一人の少女である。
いや、一人ではなく一柱と呼ぶべきか。
少女の姿にジブリールが言った。
「貴様、〔神の系譜〕から離脱して堕天しているな。天使でも悪魔でもなく、我が〔主神〕の意志に背いたまま顕現するとは……ッ!! お前は誰に殉じているのだ?」
「トーゴよ。私はトーゴだけのモノだから」
「莫迦な。ヒトに殉じている? それで堕天できるとは。堕天使としてのコードを名乗れ」
まだ名前はありません。淡雪を貌を持つ堕天使が答える。
その答えに、ジブリールは困惑を深めた。
統護は識っている。
純白と漆黒の両翼を優雅に広げた彼女は〔名〕ではなく、こう定義されていた。
――〈光と闇の堕天使〉と。
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