アニメを斬る!

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魔導世界の不適合者 ~魔術学科の劣等生~ 第4部(第21話)

第三章  バーサス(VS) 2 ―氷室雪羅―

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         2

 統護は淡雪と優季の両名を伴って、抽選会場へと急いでいた。
 向かう先は、魔術師の訓練用施設である裏山の麓だ。
 抽選会場とはいっても専用に用意されているのではなく、対抗戦用に建設された臨時競技場で各予選ブロックへの振り分けが実施される。予選第一試合は午後一時スタートだ。
「事前に合流してから向かいたかったな」
 パートナーである朱芽とは、現地での待ち合わせになってしまった。
 公平を期すために、臨時競技場と臨時闘技場は本番当日まで立ち入り禁止だった。それほど広い施設ではないとはいえ、ちゃんと見つけられるか少々不安だ。
 優季が言った。
「寝坊するようなパートナーを選んだ統護が悪いよ。ボクなら寝坊なんてしないのに」
「いい加減に機嫌直せって優季」
「対抗戦が終わるまで、統護とはいえ敵同士だからね。易々と気は許さないよ。ね、淡雪」
 淡雪は頷く。表情は冷ややかなままだ。
 ビンタを食らってから、まともに口を利いてくれない――のは、今日まで継続していた。
 統護は気持ちを切り替える。
「そういえばロイドはどうした?」
「会場内を警戒して回るってさ。ルシアだけじゃなくて、ロイドも前職の伝手からの情報で、この対抗戦で色々と裏で動きがあるって言ってたから」
「油断ならないよな、やっぱり……」
 結局、対抗戦当日になっても、史基を襲撃した朱い戦闘服型【AMP】を纏った例の二人組は捕まっていない。逮捕どころか、情報らしい情報すら皆無という状況だ。
 朱い二人組が対抗戦に関与してくるのかは不明だが、楽観視は禁物である。
 統護は周囲を見回して苦笑した。
 時間ギリギリなのは、統護たちだけではなく、他にも何組か参加者と思われる生徒が見て取れる。みな小走りだ。同じ制服だけではなく、他校の制服を着ている者もいる。
 そんな中――

 統護たち三人の前に、少年少女が立ちはだかった。

 普通ならば無視して先を急ぐ。
 だが、統護だけではなく、淡雪と優季も示し合わせたように足を止めていた。
 彼等の服は学校指定の運動着ではない。他校の制服だ。
 その制服に見覚えはない。魔術関連で有名な高校の物ではない。警備態勢が厳重なこの場にいるという事は――対抗戦の参加者で間違いないだろう。
 統護は少女の貌に釘付けになっていた。淡雪と優季も同じだ。

「……お前、淡雪?」

 少女は淡雪に似ていた。瓜二つではないが、まるで姉妹のように相似点が多い。
 腰まで届く、絹糸のような黒髪も酷似している。
 統護の呟きに、少女は頷く。
「ええ、そうですね。場合によっては、この私が堂桜淡雪でした」
 その台詞に、淡雪が目を見張る。
 淡雪の反応を楽しむように、少女は長い睫毛を微かに揺らし、双眸を眇めた。

「お二人は氷室――という姓をご存じでしょうか?」

 声音も淡雪に似ていた。
 絶句したままの淡雪に代わり、統護が答える。
「いや、知らない」
「やはりそうでしたか。氷室家は堂桜一族の傍系とも呼べない、末端の小さな一家です。私も兄も、つい最近まで自分たちが『あの』堂桜縁の者だとは想像もしていませんでした」
 兄妹だったのか。
 統護は兄の方を見るが、彼は無反応だ。無機質で機械のように感じる。
 見惚れるほどの美男美女であるが、全く似ていない。似ていない兄妹も多いが、纏っている雰囲気自体が違い過ぎる。二人に血の繋がりはないと思った。
「本来ならば、私は一生陽の光を浴びる事のない、影の堂桜でした。ただ一つの可能性――すなわち堂桜淡雪が喪失した場合を除いて」
「どういう意味だ?」
「理解できませんか。想像が及びませんか? 意図せずに二卵性双生児として命を受けた私は、堂桜淡雪のスペアとして氷室家に養子に出されたのです。戦闘系魔術師としての訓練と教育も兄と同じく両親のみが師であり教師で、世間に魔術師である事は隠していました」
「二卵性――双生児だと?」
 スペア、すなわち影武者か。思わず淡雪と眼前の少女を見比べる。
 似ているどころか同じだ。纏っている空気が同一に近い。
「堂桜統護、貴方は私の兄ではない。血の繋がりが兄妹の繋がりではありません。私は堂桜の姓にも淡雪の名にも興味はありません。私は氷室という姓に誇りを持っているのですから。しかし私たち兄妹は家族を喪った代償を、他でもない堂桜一族に支払わせます。影の堂桜である為の家族という枷を失い、戦う理由ができたから、こうして日の下へ出てきました――」
 彼女の言葉に、淡雪は顔色を失っていく。
 明白な挑戦状だ。氷室兄妹は、自分たち堂桜兄妹を倒す為に参戦してきたのだ。
 淡雪の双子だと云う少女は、たおやかに腰を折って名乗り上げた。

「私は氷室家の長女。氷室――雪羅と申します」

 以後お見知りおきを、という台詞には冷たい凄みが込められていた。

 

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 抽選自体は特に変わった内容ではなかった。
 PC端末によるオンライン登録だ。
 会場である競技場は、コロッセオというよりも一般的なドーム型の野球スタジアムに酷似しており、中央グラウンドの外周を段差が付いた客席が囲っている。客席はそれぞれ個室として独立していた。
 四方に巨大スクリーンが設置されている。

 公式発表された参加総数は、七百七十一人(三百八十五チーム)であった。

 参加校は国内のみで四十一校。
 全国でも著名な十三の名門校――通称【魔導十三校】は予想通りに全て参加している。他にも有名専門学校や、中堅どころの名も見受けられた。
 その反面、無名の学校や魔術関連の学科がない普通校もある。
 最も多くエントリーしているのが、九十名(四十五チーム)の【セントイビリアル学園】だ。
 次いで、関西ナンバー1で大阪にある【関西魔術大学付属高校】が擁する八十二名(四十一チーム)である。
 優季が編入前に在籍していた中部の名門【ニホン魔導開発大学付属学園】は、三番手の七十六名(三十八チーム)となっていた。
 以上の『トップ3』と呼ばれる三校に続く、他十校の魔術名門校のエントリー数は横並びとなっており、平均四十名(二十チーム)と発表されていた。
 名門十三校以外の学校からのエントリーは、一チームから三チーム程度である。最大でも六チーム(十二名)だった。
 この対抗戦を全国大会と称してよい規模なのかは、微妙なラインである。
 高校生以下の年齢で、即戦力に近いと教育機関に認められた戦闘系魔術師ソーサラーの数が、ニホン国内で約八百人。この数字が多いか少ないかは、識者によって見解が割れるであろう。
 各学校の引率役を担っている教師陣も合算すると、今回の対抗戦参加者は千人近い。
 どうやら今回の体育祭において、一般生徒の運動会を見物していた対抗戦参加者は、少数派に分類されていた模様である。
 そして、統護たちの組み合わせ結果は――

 統護&朱芽はAブロック。
 淡雪&優季はCブロック。
 一般高校から参戦してきた氷室兄妹(臣人と雪羅)はDブロック。
 最後に、優勝候補大本命――みみ架&里央はAブロックだ。

 この結果に、遅刻を悪びれずに合流した朱芽はご満悦になる。
「ミミと同じブロックかぁ。最速で午後の一回戦か、順当に勝ち上がれば明日中にミミと戦えるじゃん。楽しみだね、統護」
「そうだな」
 統護も同意する。
 氷室兄妹との件もあるので、戦うのならば早い方が好都合だ。その反面、ベスト4による決勝トーナメントとは異なり、試合ルールが純粋な魔術戦闘とは限らないのがネックである。
(戦うならゲーム性の高いルールよりも、極力シンプルな方がいいんだがな……)
 特に統護が胸に秘めている、対みみ架の秘策を思うと。
 遠くから自分たちを見つめる視線に気が付く。
 雪羅であった。不満げな目だ。
 統護と淡雪が兄妹でチームを組んでいると思っていた彼女は、二人が別々のチームだと知るとひどく憤慨していた。
 統護が笑顔を添えて視線を合わせると、雪羅は不服を隠さずに視線を逸らす。
(嫌われたもんだぜ)
 統護の笑顔が苦笑になった。
 氷室兄妹とブロックがばらけた事については、幸運といえる。
 兄妹同士での直接対決は叶わないが、決勝トーナメントに進出できれば、少なくとも自分と淡雪のどちらかが氷室兄妹チームと戦える。もしも片方が氷室兄妹に敗れた場合は、二度相まみえる事もできる。準決勝で淡雪との潰し合いになってしまった場合は、決勝で戦える。
 どのようなパターンになろうとも、この対抗戦で彼等とは手を合わせなければならない。
 統護は周囲を見回す。
 参加選手が多く、人混みのせいで、淡雪と優季の姿を見つけられない。
 すでに移動を始めているチームもいた。昼食を挟んで試合開始となるが、すでに戦闘モードに入っているチームが大半である。
 予選一回戦の対戦カードは、A・Bブロックは闘技場にて直前に発表される。
 C・Dブロックはこの競技場で発表されて、そのまま試合に移行する。
 つまり淡雪と優季、そして氷室兄妹はこのまま競技場に残るが、統護と朱芽は隣接している闘技場に移動しなければならない。
 予選第一試合。試合数は最大になる。
 一チームのみがシードされて、三百八十四チームによって合計百九十二試合を、今日の午後のみで消化する予定だ。闘技場と競技場で各八試合を同時進行し、それを十二ターン行うというタイムスケジュールとなっている。試合時間は最大で十五分と設定されていた。
 朱芽が統護の肩を親しげに叩く。
「それじゃあ、昼飯代わりのおにぎりで軽く腹を満たしながら、対戦カード発表と試合が行われる闘技場へ移動しよっか」
 差し出されたげんこつおにぎりを、統護は受け取る。
 アルミホイルで包まれた不格好なおにぎりは、朱芽が握った物のようだった。

 

 

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