アニメを斬る!

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魔導世界の不適合者 ~魔術学科の劣等生~ 第4部(第16話)

第二章  ヒトあらざるモノ 7 ―決意―

 

         7

 湯に入る前に、みみ架は丹念にシャワーを浴びている。
 滑らかな肌がシャワーを弾く。湯気が立ちこめ、身体のラインを巧妙にぼかす。
 エロい。超エロい。
(すげえ。なんてムチムチだ)
 みみ架の肢体の肉感に、統護は圧倒されていた。
 ルシアにはない性欲を掻き立てるエロさである。ルシアの美は、どちらかといえば、モデル的な造形美だ。
 胸と尻と太ももの張り具合が抜群だ。胸が大きい。巨乳というか爆乳だ。尻の肉付きがいい。その反面、腰のくびれ、足首の細さ、と贅肉が全くない。腹筋がうっすらとだが、六つに割れている。細身ではあるが、しなやかな筋肉が全身を覆っている。アスリート的な美しさだ。
 ルシアが言った。
「ご主人様、あの胸は少々大き過ぎるかと思います」
「いや。でかいが、でか過ぎという感じはしない。なんていうか……超スゲエ」
「くっ……!!」
 制服姿でも大きいのは瞭然であったが、どうやらスポーツブラで押さえつけていたようだ。
 爆乳を奇乳と呼んで嫌う者も、みみ架の乳であれば受け入れられるだろう。あれだけの大きさだと重量も相当だろうが、みみ架の胸筋はものともせずに、釣り鐘型に保持している。
「ルシアの美巨乳も完璧だと思うが、なんつーか、委員長のはまさに『スゲエ』って感じだ」
 巨乳系にありがちな乳輪の大きさもない。むしろルシアよりも一回り小さい。
 視姦そのものといった統護の観察に対し、みみ架は隠す気なしで、むしろ身体を見せつけるようにシャワーを浴び続ける。
「し、しかしご主人様。あのような不自然な胸は、加齢に従って重力に耐えられなくなります。その点、ワタシの胸は心配ご無用なのです」
 みみ架が言った。
「黒鳳凰の女は代々老けないから、六十代になっても垂れないわよ」
「そっか。お前もお袋さんと同じで、不老の妖怪なのか」
 みみ架の表情が翳る。
「不老の妖怪といえば、ナノマシン集合体と融合している比良栄さんも、おそらく歳を重ねても宿主としての生命力が尽きるまで、今の若い肉体を維持し続けるでしょうね。果たしてそれが、いい事なのか悲劇なのかはさておいて」
「ご主人様。ワタシは血統的に老けないとか、ナノマシンで若い肉体を維持とかいう小細工ではなく、この身は正真正銘の不老です」
 みみ架への対抗心からか、割ととんでもない事を口走るルシア。
 微かに両目を細めるみみ架。
 統護は思い出す。確か以前にもルシアは自分が不老だと言っていた……

(まあ、ルシアの正体が――なら、色々と事情というか辻褄は想像できるんだよなぁ)

 現時点で問い詰める気はないが。
 確証がないという事もあるが、何よりも時機ではないと思っている。
 そういった意味合いでもルシアとの関係は色々と保留、否、先延ばししたいのだ。
 統護は真顔で言った。
「不老云々は置いておいて、大事なのは今だろう」
 今はこの眼福だけで充分だ。
 3Pな趣味はないので、性欲や淫靡な雰囲気はすっかり霧散していた。
 どちらか一方と二人きりだと理性と本能との戦いになるが、今の統護は賢者のごとく二人の裸身の美しさを観賞できる。ナニもすっかり縮んでいた。全くムラムラこないというと嘘になるが、対象が二名で、かつ両者の雰囲気が刺々しいので、どうにも妙な心境である。
「やはりあちらの胸の方が好みなのですか」
 ルシアの声色に悲しみが満ちた。
 統護は慌てて否定する。
「待て待て。別に委員長の胸にお前の胸が劣っているとか、優劣の話じゃないだろ」
 どちらも文句のつけようのない素晴らしいバストだ。
 単に最初に堪能し、次に堪能した、他意はなくそれだけの話だ。
「けれど現に、ご主人様はワタシの胸ではなく、あの女の胸を見ています。それも凝視です」
「あの女呼ばわりかよ。ってか、お前の胸を見てないのは、隣に座っているからだろ」
 ざば、と湯船を揺らしてルシアが立ち上がった。
 今度はルシアの裸身に視線を這わせる。いい尻である。統護は胸派ではなく尻派なのだ。もしも、みみ架がいなければ、尻の谷間に鼻先を突っ込んでいたかもしれない。
「どきなさい、累丘みみ架」
「いいわよ」
 入れ替わりでシャワーを浴び始めるルシアを尻目に、みみ架が湯船に入ってきた。彼女が浴槽を跨ぐ時、股間の茂みに視線がいってしまった。一瞬しか見えなく、無念であった。
 だが――

「うぉぉおおおっ! マジで浮くのか!!」

 みみ架の爆乳は湯船に浮いていた。
 ルシアの美巨乳も浮力で形を変えていたが、ここまでではなかった。
 興奮混じりの統護の感嘆に、ルシアが下唇を噛み締める。
「もし良ければ好きにしていいわよ」
「我慢する。二人きりなら辛抱たまらなかっただろうけど」
 もしも誰か一人だけと両想いならば、とっくに手を出している。我慢する理由がない。なまじハーレムっているだけに、複数の女が自然と牽制し合う均衡状態になっていた。
 みみ架は意地悪そうに言う。
「確かにルシアに陥落寸前だったものね」
 統護は正直に告白した。
「認める。現実問題として、陥落しなかっただけでも偉業だろ。つーか、ルシアもそんなに不満そうにしないでくれ。元々、俺一人で風呂に入りたかったんだし。お前達、俺の風呂を邪魔しているって自覚ないだろ」
 統護の文句を無視してルシアも湯船に入ってきた。
 二人ならばどうにか入れる大きさの浴槽であるが、三人は狭い。ぎゅうぎゅう詰めである。
 統護は改めて思った。世間から『堂桜ハーレム』と揶揄されて、主にネット界隈でボロクソに叩かれているが、この期に及んではこの二人というか、他の女達も手放したくないな――と。男として最低な考えだと自覚はあるが、この乳と尻を、他の男に見られるのは我慢ならない。格好よく最愛の一人を選ぶ――なんて、偽善的な真似をして死ぬほど後悔するよりも、このままどさくさ紛れに美女達を独占しよう。
 極上の美女二名に挟まれて、統護は天井を仰いだ。
「あぁ~~。いい湯だなぁ」

         

 湯上がりに、統護は弦斎と囲碁をうっていた。
 場所は、統護が泊まる客間である。
「ぶっちゃけ、あんまり強くないな、爺さん」
「フッ。婿殿もな。ワシ、初心者じゃぞ」
「奇遇だな。実は俺もだ」
 お互いに相手のレヴェルが低いと感じられる、低次元の試合であった。正直、歯ごたえがないし、面白さも今ひとつである。どうせならば、もう少し高い次元で競い合いたい。
「これ終わったら将棋にしようぜ。将棋は中級者くらいなんだ」
「オセロはどうじゃ? ワシ、将棋は囲碁より弱いんじゃ」
「マジかよ……。俺、オセロはルールしか知らないんだよ。参ったなぁ」
「麻雀はどうじゃろうか?」
 対人経験はないが、ゲーム(脱衣系)でならば、最高難易度でもクリアしていた。
「自信はあるが二人だぞ。まさか委員長とルシアを入れるのか?」
「そうじゃな! みみ架とメイドさんを加えてのリアル脱衣麻雀という手があったか! まさにスー●ーリアル麻雀じゃ!! 男のロマンじゃ」
「ちょっと待て。俺、爺さんの裸なんて見たくないぞ」
「むむ。確かにおなごだけ脱ぐというのはフェアじゃないのぅ」
「というか、あの二人にメリットないだろ」
「それに婿殿はさっきまであの二人と混浴しとったしの。隅から隅まで全部見たのか?」
「まあ、なんだ……。爺さんも知っての通り、蛇の生殺し状態だから俺」
 みみ架との約束だけではなく、他の女との事も弦斎には打ち明け済みである。統護の口からだけではなく、みみ架からも説明されていた。
「難儀じゃのぅ。羨ましい反面、同情もするわい」
「悪いな。本当だったら委員長だけを見て――じゃないと、爺さんは納得しないよな」
「贅沢はいわんよ。みみ架一人を選んだ結果、婿殿の他のおなご達やその親御さんが悲しんだりするのなら、別にハーレムとやらでも、ワシは文句ない。他の親御さんは知らんがの」
「みんな同意見だから、こんな事態になってるよ」
 仮に――『自分だけを取るか別れるか』と選択を迫る女がいたら、統護は他の女達の為に、その女を切り捨てなければならなくもなっていた。三角関係のように『どちらか』ではないのだ。一人とその他複数の比較になる。彼女達も、それを理解している側面があるのだろう。
 弦斎がしみじみと言う。
「ワシが婿殿に望む事は三つじゃ。一つは孫娘を見棄てないでくれ。一つは孫娘に子を、ワシに曾孫を授けてくれ」
「うん。約束する。俺は委員長――みみ架を想い続けるよ」
「そして最後の一つは、百人を娶るよりも厳しい注文かもしれないが、誓ってくれ」
 弦斎の視線が統護を射貫く。統護はその視線を真っ向から受け止める。
 厳しい声で、弦斎が云った。

「――死ぬな。たとえ時に敗北しても孫娘とワシの為に、生き延びてくれ」

 重たい言葉だ。
 とてつもない責任を伴う男と男の約束でもある。
 統護は決意を込めてしっかりと頷く。
「ああ。俺は死なない。敗けないよ。勝ち続ける。誰が相手でも、どんな手を使っても――」
 それが統護にとって女達への愛の証だ。
 言葉でも物でもない。行動と結果のみでしか証明できない、そして証明しなければならない、偽りのない気持ち。

 護る為に――強くなる。最強にだってなってみせる。

 流してきた汗と戦いの中での苦痛。
 それ等は自身の糧のみならず、彼女達の為にある。
「とはいっても、やっぱり世間体は悪いってか、女にだらしがない駄目人間だよなぁ、俺」
「外野など気にするな。駄目人間はワシも同じじゃ。特に親として失格じゃったよ」
 懺悔するかのような口調に、統護はやんわりと受け流す。
「聞いているよ、委員長から」
「婿殿よりもずっと駄目人間なのじゃよ、ワシは。じゃが、娘が去るまでそれに気がつけなかった。自分を立派だと勘違いしていた。みみ架から聞いたのならば、話そう。ワシは妻を愛していなかった。妻も同じじゃった。互いに肩書きと経済と、後継者のみが目的の仮面結婚じゃったのだ。娘――弥美を理解どころか見ていなかった」
 苦しげな声。真実の暴露。
「そっか。互いに愛はなかったか」
 みみ架も勘づいているのだろう。だから確認を避けているのだ。
 この事実を、彼女に告げるつもりはない。
「実の娘という思い違いを否定すると、ワシは累丘弥美という人間を全くといいほど知らないのだ。赤の他人以上にな。いつからじゃろうか。気が付けば、学校の成績と修練の結果を通してでしか、弥美を捉えていなかった。それは弥美ではなくワシの都合を押しつけただけの『娘という人形・道具』になっておったのじゃ」
「俺みたいなガキが言うのもアレだけど、それに気が付いているだけマシじゃねえの?」
「みみ架のお陰じゃよ。みみ架がワシをほんのちょっとだけ大人にしてくれた。孫は孫でワシの所為なのか、かなりの偏屈になってしもうたが」
「確かに偏屈ってか、素直じゃない女だよなアイツ。まあ、そこも今ではいいんだが」
 統護の言葉に弦斎は頬を緩めた。
「とにかく、弥美がゲーマーになった時も、ワシは無関心じゃったよ。ゲームを下らぬ遊びと決めつけ、関心は成績と修練という外面のみ……。本当に愚かな親じゃった。あの頃のワシは自分が国宝級の偉い人間、特別な人間じゃと天狗になっておった」
 弦斎は本音を吐露する。
 魔術戦闘に対して、格闘法としての【不破鳳凰流】が通じなくなっていた事もあり、弦斎は周囲が『生ける武神』と持ち上げてくれるのを、心の頼りにしていたと。その賞賛と立場こそが【不破鳳凰流】の真の価値だと思いたかったのだ。
「……今では間違いだと理解しておるよ。ワシ自身のヒトとしての価値と、国宝級の『生ける武神』としての価値は、また別にあるのじゃと。世間に対して演じておる『生ける武神』は、立場と責任の為の役割なのじゃよ。どうやら婿殿はとっくに理解している様子じゃがのぅ」
 統護は苦笑した。
「とっくにってほど昔じゃない。つい最近だよ」
 この異世界に転生するまで、理解には程遠かった。
 巨大なチカラを振るえるようになり、巨大財閥の金とコネを使えるようになり、そしてオルタナティヴという『もう一人の自分』を垣間見て、ようやく実感できた。
 チカラと結果には、常に相応の責任が伴うのだ。
 逆も然りで、責任を背負うからこそのチカラと結果なのだ――と。

 ふと、淡雪の顔が統護の脳裏を過ぎる。

 堂桜財閥に対して、責任を背負えない自分に代わり、責任を負おうとしている少女。
 オルタナティヴとは違う意味で、自分にとって特別な存在。
 単純に『好きな女』というカテゴリの慮外にいる、妹というラベルが貼られている女だ。
 恋愛感情を抱いている他の女達とは『大切』の意味が違う――
「振る舞いは責任に応じる。責任を放棄して権利だけを主張する振る舞いは、ただの愚者であり小物って事を、淡雪が俺に教えてくれたんだ」
「妹さんか。チカラに対する責任を放棄しておる孫にも、教育して欲しいの」
「委員長は安易に責任を背負えないから、個人で責任を負える範囲でしかチカラを振るわない。アイツの実力からすれば、もっと責任を背負うべきって意見も多いだろうけどな」
 本国だけではなく他国も彼女のチカラを欲している。責任を国や組織が代替し、彼女に望まぬチカラを振るわせようと。みみ架の気持ちを考えもせず。
 統護は噛み締めるように言う。
「アイツ――みみ架は、組織や他人に責任を被せて潔しとするような女じゃないから」
 だから黒鳳凰みみ架は、本心を隠して孤独を選ぼうとする。
 その孤独に、統護は付き添いたいと思う。予感している。生涯を賭して――
 弦斎は深々と頭を下げた。
「ありがとう婿殿。みみ架は婿殿と出逢えただけで幸せ者じゃ」
「オーバーだよ。俺こそアイツと出逢えてよかった」
「孫を頼む。それから、娘はもう他人じゃ。今から復縁したいという願いは、一方的に救われたいというワシのエゴであり、娘の重荷でしかないじゃろう。そして、みみ架に対してもワシはもう大した事はしてやれぬ。見棄てずに家族でいてくれる孫娘に、ワシも家族であり続ける事しか、もうできる事はないのじゃ。最近まで気が付く事すらできなかったが……

 アレは――強くなり過ぎてしもうた」

 弦斎は弟子である孫娘の技量を見誤っていた。みみ架が悟らせなかったのだ。
 すなわち、二人の実力はそれ程に差があるという証左である。
 統護も弦斎の見解を肯定した。
「だな。徹底して超ロングレンジをキープして砲撃戦を貫けば勝てるだろうけど、接近可能な距離での有視界内戦闘となると、洒落になっていない強さだ」
 魔術を併用していたとはいえど、格闘戦で【パワードスーツ】を倒すのだから、人外の強さといっても過言ではない。統護は格闘戦で【パワードスーツ】を倒せない。そもそも近接格闘戦で【パワードスーツ】を倒すという発想自体が、非常識かつクレイジーである。
 弦斎の口調が一転した。
「できる事ならば、みみ架に敗北を教えてやってくれると嬉しいのじゃが」
「キッツイなぁ。かなりの無茶振りだぜ」
 顔をしかめ、統護は頭を掻いた。
「世界最強である婿殿でも、流石に無理かのぅ」
「徹底して接近戦を避けて砲撃に徹すれば、別に俺でなくとも委員長に勝つ、あるいは負けない事は可能だけど、爺さんの云う勝利ってそれじゃないよな」
 魔術を使えない統護がロングレンジ戦を行うには〔魔法〕を解禁する必要があるが、正直いって〔魔法〕なしで、みみ架に勝利できるイメージはない。《デヴァイスクラッシャー》では彼女の相手にならない。有視界内での戦闘で、果たして彼女に勝てる者が存在するのか?
「みみ架の土俵で勝って欲しいのじゃよ」
 弦斎が首肯した。真剣な表情だ。
 同じ土俵での勝負。
 接近戦が可能という条件下で黒鳳凰みみ架に勝利するには、どうすれば可能になり得るか。
 少しだけ熟考した後、統護は肩を竦めた。
「いいぜ。もしも対抗戦でアイツと戦う事になったら、俺がアイツに敗北を教えてやるよ」

         

 みみ架は裏庭で正座をしている。
 湯上がりの今、彼女は寝間着ではなく、稽古用の袴姿であった。
 そして腰には太刀がある。普段、三つ編みにしている長い黒髪は、後頭部でポニーテールにまとめていた。
「……」
 目を瞑り、精神を統一させる。
 みみ架の前には、一本の竹が突き立てられていた。
 カッ、と両目を見開き、みみ架は腰を浮かせた。片膝立ちの姿勢で、右手を振るっていた。
 その右手には、鞘から抜いた太刀があり、刃が月光を反射させている――
 竹は微動だにしない。
 ち、という忌々しい舌打ちが、みみ架から漏れた。
「ぁぁぁああぁあぁっ。もう全然ダメ。何やってんのかしら、わたし!」
 顔を歪めて激しく左右にシェイクする。

 ――統護の裸が頭から離れない。

 帰宅せずに居座り続けたルシアが、統護が入っている浴室に向かった。自分も思わず、乱入してしまった。そうしなければ、統護はルシアに籠絡されていた。
 混浴したはいいが、頭の中は統護の裸一色だった。股間のアレをもっと見たかった。
 もしも、ルシアがいなければ、きっと……
(情けない情けない情けない情けない情けない情けない情けない情けない情けない)
 裸を晒した恥ずかしさなどなかった。むしろ見て欲しい。
 しかし、統護の裸にあれほど色欲を掻き立てられるなんて、想像もしていなかった。
 ベッドの中で自分を慰めても一向に昂ぶりが収まらない。
 最初は不思議な夢に誘われただけの筈だった。
 自分の都合で『約束』を取り付けて、利用するだけの男だった。
 運命など知った事ではない。最低限の義務と役割さえ果たせれば、と考えていた。
 けれど、いつの間にか統護を意識する様になっていて。
 日に日に感情が変化しているのだ。
 このままでは下手をすると――と、気分転換に居合いをしてみたが、このザマである。
「――!!」
 カチリ、と脳内の歯車が噛み合ったような感覚が、みみ架に起こる。
 あるいはリヴォルバーの撃鉄が引かれる感覚だ。いずれにせよ、無意識下の切り替えだ。
 みみ架は背後を振り返った。

「見事な技前ですね」

 その言葉と共に歩み寄ってくるのは、ルシアである。
 彼女は正装であるメイド服を着ていた。
 強い夜風が吹いた。その風で、竹が四つに分断されて、土の上を転がっていく。
「失敗よ。本当なら六つに斬るはずだったの」
「業物には程遠い、安物のオモチャで神業に近い斬撃。純粋な技量ならば、貴女の腕はオルタナティヴを遙かに凌駕しているようですね」
「オルタナティヴは剣戟魔術師であって剣術家ではないわ。比較自体が無意味よ」
 剣の腕そのものは脅威ではない。しかしオルタナティヴの【空】のエレメントの具現化――極小型固有【結界】とも定義できる、概念武装・大太刀《朧影月》は脅威である。
 一振り八十万円しかしない無銘の安物を、鍛錬でしか使わない自分では、魔術戦闘で彼女と斬り結べる道理などない。それに魔術戦闘で通常の武具など無意味だ。
 みみ架はルシアを睥睨する。
 ルシアは殺気を隠そうともしていない。どうやら闇討ちにきた模様である。

 気分転換には丁度いい、と思ってしまう。

 自覚はあるのだ。統護との会話の最中、締里の名は挙げても、あえてルシアの存在を口にしなかったという理由を。
 この絶美の女は自分にとって……
「……で? 何か用かしら? というか、まだ帰ってなかったのね」
「ええ。この用件が済んだら大人しく帰ります。ご主人様にそう命じられましたので」
 帰る前に独断で闇討ちにきて、なにが大人しく命令に従う、だ。
 きっとこの似非メイドも自分と同じ所感を抱いているに違いないだろう。
「ご主人様、ねえ?」
 皮肉を露わにした、みみ架の言葉にも、ルシアは表情を変えない。
 ルシアは言った。
「まずは平和的に話し合いといきましょう」
「とりあえず聞きましょうか。用件、いえ要求を言いなさい」
 常識外の絶美を誇る二人の少女は、白銀の月下で視線を絡ませた。

 

 

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